電波鉄道の夜 31
【承前】
おずおずと、口を挟む。
「黄色い光?」
「ええ、見えるでしょう? あの輝く光が。見えないわけがないでしょう。こんなに明るく輝いているのに」
僕とおばあさんは困惑して顔を見合わせた。男の子の指差す先、窓の外にはなにもない。ただ、暗い夜空が広がっているばかりだ。男の子は語り続ける。その口調は次第に速く、強くなっていく。
「あの光、あの光はもう消えない。まぶたの裏に焼き付いて、目を瞑っても差し込んでくる。世界を染め尽くし、視界を燃やし尽くしている。燃える、染まる、世界が黄色く」
「大丈夫ですよ」
先生が言った。興奮した男の子を抱きとめて、その目を塞ぐ。
「大丈夫。光はただの光です。目を瞑って、大きく息を吸ってください。次第に光は薄くなっていきますよ」
先生の腕の中で、男の子は先生の言葉に耳を傾けている。肩が大きく上がって、下りる。
しばらくそうしていると、男の子は途端に大人しくなった。先生が腕を解いて座席にもたれかけさせた。男の子は目を瞑って動かない。
「大丈夫なのですか?」
男の子を起こさないように声を潜めて先生に尋ねる。
「ええ、時々あるのです」
「それで……」
僕の言葉に、先生は首を振った。男の子は力なく座席に座っている。
「本当、なのだと思います。ボートに乗ってから……」
先生は一瞬虚空を見つめてから、頭を振った。
「気がつくとこの電車に乗っていて、妹さんがいた。その間はちっとも覚えていないのです」
「黄色い光、というのは?」
おばあさんが尋ねる
「私には見えません……少なくとも目を開けている間は……けれども」
先生は黙り込んだ。目をつむり、体を震わせ、目を開く。
「目をつむると確かに、感じるのです。目の奥に、暖かな輝きを」
もう一度目を閉じる。手探りに男の子に触れる。
「これがこの子が見ているものと同じ光なのかわかりませんが」
おばあさんも僕も何も言えずに黙り込む。
その時、ガラリと扉が開いた。
【続く】
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