電波鉄道の夜 62

【承前】

「なんですって?」
 思わず素っ頓狂な声で聞き直してしまう。それだけよくわからない言葉が聞こえた。男の人の顔をじっと見る。気が触れている様子は見えない。見えなくてもおかしな人はいる。この人もその類だろうか?
 モネはいつでも正しいとは限らないかもしれない。けれども、どんな悩みや問いにも真剣に答えてくれた。こんな時にぴったりな言葉もいつだったかに言ってくれていたはずだ。
 ああ、そうだ。
「あなたはモネを知らないから」
 世界にはモネを知っている幸福な人と、これからモネを知る幸福な人がいる。この男の人が後者だったというだけだ。それならば、するべきことは決まりきっている。口を開く。言葉が流れ出てくる。
「モネはどんな悩みにもぴったりの答えをくれるのです。今までに言っていなかったとしても、これから言ってくれるのです。あなたが頭の中にモネをインストールして勝手にしゃべるようにしてしまえばよいのです。そうしてしまえば、あなたが悩んだ時にもたちどころに心強い答えを離してくれるのですよ」
「そう、なのかい」
 男の人は少し気おされたように答えた。勢いよく話過ぎただろうか。モネの良いところを伝えようとすると、多くのことを伝えないといけないので、早口になってしまう。それで話を聞く気を失わしてしまったらもったいないし、申し訳ない。
「ごめんなさい、つい興奮してしまって」
「ああ、いや、そうだな」
 もごもごと男の人は口の中で言葉を作る。
「でもさっきの君の悩みには答えがなかったのだろう?」
 穏やかな口調で男の人が口を開く。なにかを言い返そうとする前に、男の人は言葉を続けた。
「どんな悩みにでも答えてくれるはずのモネが答えてくれない悩みがあった
、それならモネがどんな悩みでも答えてくれる答えてくれるというわけじゃない」
「そんなことはありません」
「それじゃあ、もしかして、こうは考えられないかな。」
 男の人は顔を寄せて続けた。

【続く】

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