見出し画像

電波鉄道の夜 55

【承前】

 とうとうと、男の人は語る。
「さっき言ったかもしれないけど、忍者というのは闇に生きる者たちなんだ。闇さえあれば、そこにいる。そういうものたち」
「それが、さっき屋根の上にいたというのですか?」
「ああ、それも二人もいやがった。騒々しく、どたばたやってたの、聞こえただろう?」
「ええ」
「決着がついたみたいだったんで、漁夫の利を狙ったのさ。さすがに忍者相手に正々堂々戦うのは分が悪いからね」
 男の人は天井に目をやった。槍で突いた穴は開いたままで、夜の空気が車内に少しずつ流れ込んできていた。
「それで、勝って油断しているところを槍で足止めして、そちらのお姉さんにとどめを刺してもらったってってわけさ」
「とどめっていうのはよぉ」
 お姉さんが横目で男の人をにらんだ。
「もう、動かないくらいまで痛めつけた後で、最後の最後に入れるもんのことをとどめって言うんだと思ってたんだけどよ」
「動きづらくはしていたつもりだけれども」
 男の人は気まずそうに、荷物に目をやり槍の袋を撫でた。男の人が天井に刺した槍を繰っていたのは、その先に繋いだ忍者の動きを制限するためだったのだろうか。
「お姉さんも、あれがなけりゃもっとしんどかっただろ?」
「そりゃあ……まあな」
 思いのほか、おとなしくお姉さんは頷いた。濡れ手ぬぐいの端から青紫の痣がのぞく。さっきよりは少しだけ、腫れが軽くなっているように見えた。手ぬぐいから槍での補助があったうえで、あれだけの手傷を負ったのだ、もしも対等に殴り合うことになっていたら、もっと酷い怪我をしていたのかもしれない。
「まあ、次があったら、とどめは俺がさすからさ」
「次なんてねえよ」
「あの」
 お姉さんと男の人の言い合いに、女の子が口をはさんだ。
「でも、あの忍者たちはどうしてこんなところにいたんですか? どうしてあんなところで戦いなんか」
「あー、それはだな」
 男の人が一度口を開きかけて、すぐに言い淀んだ。

【続く】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?