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電波鉄道の夜 123

【承前】

 赤い世界。閉じたまぶたを透かして赤が染み込んでくる。揺れる赤。燃える赤。燃える炎の赤。
 赤い炎が世界を燃やす。灰に覆われた僕の記憶を赤い炎が燃やし尽くす。積もった灰さえ燃え上がる。今度は灰も残さず、熱く、熱く。
「お前は本当に探したいものを探さないといけないんだよ」
 燃える世界に女性の声が聞こえる。けれども、と考える。
 探したとして、見つけられるのだろうか。僕の中身はもう全部燃えて、燃え尽きてしまったんじゃないだろうか。きらきらとしたあの娘も、擦り切れて燃え尽きてもうどこにもいないんじゃないだろうか。そう思う。思ってしまう。
 それは本当に恐ろしいことじゃないか。探しているものがもうないだなんて、それじゃあまるで亡霊みたいじゃないか。
 熱の中で身体がぶるりと震える。恐ろしい想像。もしもそれが想像でなくなってしまったら。想像でなくなってしまうくらいなら。
「偽物だっていいんだ。見つけられるのなら」
「だめだよ」
 そっと、目の上を撫でらえるのを感じた。身を焦がす熱い炎よりもあたたかな分厚い掌。
「見つけられるまで探さないといけないんだ。見つけると決めたのならね。どこにもいないと決めるのはいない全部の場所を探してからだよ。お前はまだ全部を探しつくしてはいないんだろ」
 それに、と指先が額を撫でる。頭の内側を探るような手つき。頭の内側にあるものを探るような。
 その指先が指し示すのは頭の炎に燃えないでまだ残っているもの。網のような黒い影。
 するりと指先が灰の世界に入ってくる。
 ゆっくりと繊細な手つきが網目を一つ一つなぞっていく。
「お前はちゃんと見るべきものを見れる。聞くべきことを聞ける。傷ついて擦り切れてもきらきらを探し続けられる」
 ほつれて、詰まっていた網目が繕われ、はらわれる。失われていたつながりが結び付けられていく。網目は頭の中で、はるか遠くからの波を拾う。
 波はやがて一つの像を結んだ。

【続く】


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