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サウナーは今後どう動いていくのか?サウナ動向を読み解く

1964年、東京オリンピックの選手村に設けられたサウナをきっかけに発生したとされる第1次サウナブーム。スーパー銭湯や健康ランドの開業が相次いだ90年代に第2次サウナブームが巻き起こり、現在は第3次サウナブームと呼ばれている。大きなきっかけとなったのはテレビドラマ『サ道』の放映だろう。「ととのう」という言葉が一般化し、各種メディアにおいてサウナが頻繁に取り上げられるようになった。

不要不急の外出の自粛を求められたコロナ禍でもサウナブームはとどまらず、むしろ一人で楽しめる「ソロ活」であることから、サウナブームは加速していく。第3次ブームの大きな特徴が、女性や若者にもサウナ愛好家が広がったこと。かつては、サウナと言えば中高年男性や体育会系男性の趣味とのイメージが定着していた。実際、街なかのサウナ施設は男性専用もしくは申し訳程度に一部女性専用フロアを備えている施設しかなかった。

利用者層が広がったことでカップルや家族、グループでサウナをめぐる「サ旅」という新たな旅のジャンルも生まれた。時はコロナ禍からの復興をめざす2021年。事業の再構築や高付加価値化に向けて各種支援制度が用意されており、これを活用して大浴場のサウナを改装・新設したり、客室にサウナを新設する、また敷地内にサウナを新設するといった宿泊施設が目立つようになった。

実際、サウナは強力な集客装置となり、サウナ付き客室から予約が埋まっていくというホテル・旅館は多かった。また、サウナ付き大浴場の日帰り利用を時間制や予約制に制限するほどの人気施設も現れた。

ロウリュが可能なフィンランド式サウナの他、テント式などのサウナを設けて自然の川を水風呂として利用するスタイルも人気だ(写真はいずれもイメージ)。

実は減少しているサウナ人口

では、第3次サウナブームの到来以降、サウナ人口は右肩上がりに増えているのだろうか。(一社)日本サウナ・温冷浴総合研究所(立花玲二代表理事)が17年より実施している「日本のサウナ実態調査」の2023年度版を見てみよう。

同調査では「年に1回以上サウナに入る人」を「ライトサウナー」、「月に1回以上サウナに入る人」を「ミドルサウナー」、「月に4回以上サウナに入る人」を「ヘビーサウナー」と区分している。22年はヘビーサウナーが255万人から287万人、ミドルサウナーが521万人から547万人、ライトサウナーが796万人から845万人に増えた結果となった。21年はすべての層で減少していたが全層で増加に転じている。やはりコロナ禍が明けて日常の生活が戻ったことが増加の原因だろう。

だが、21年は全層で減少していたように、実はサウナ人口はすでに減少しつつある。16年から21年の各層のピークを見ると、ライトサウナーは16年の1846万人がもっとも多く、次いで19年の1822万人、ミドルサウナーは17 年の770万人がもっとも多く、16、18、19年は670万人前後を維持している。ヘビーサウナーは17年の387万人がもっとも多く、16年は361万人、18〜20年は330万人台となっている。

大きく数字を落としたのは年間を通じてコロナ禍に翻弄されてしまった21年だ。ライトサウナーはほぼ半減し、ミドルサウナーは70万人減、ヘビーサウナーも85万人減となった。ライトサウナーが大きく数字を落としたのは、ブームが落ち着いたことで新規利用者が大きく減ったことも要因の一つだろう。また、メディアでサウナブームを頻繁に取り上げることで、サウナが混雑していると考えたり、利用法に一定のルールがあるなどの煩わしさを感じて忌避する層が一定数いたことも一因と考えられる。

ただし、22年に入り全層で増加していることからも、まだまだサウナブームの火は消えていないと考えていい。ライト層を中心にサウナ離れは起きるだろうが、サウナを目的としてホテル・旅館のサウナを訪れる利用者は、確実にミドル層以上だ。ミドル層、ヘビー層が大きく減少しない限り「サ旅」需要は引き続き期待できる。

昭和、平成と庶民の嗜みだったサウナだが、令和では経営者などのエグゼクティブ層もサウナを好んで利用している。ホテル・旅館のサウナ付き客室の多くは高単価客室となるのだが、そうした客室から売れているように、近年のサウナーは消費意欲が高いこともポイントとなる。

ただ、現状ではサウナというハード以外で大きく消費単価を上げられているだろうか。オリジナルのサウナグッズなどを作成すれば、旅の思い出にと売れる可能性もあるが、基本的に裸で楽しむサウナだけに、グッズの多くはタオルやサウナハットなど低額な商品だ。となると、サウナ後に食べる「サ飯」やドリンクが消費単価アップのカギを握るが、街場のサウナ施設の影響が強いためか、「サ飯」と言えばカレーやラーメン、揚げ物など大衆的なメニューが中心となっている。

ホテル・旅館の何よりの強みは、温浴施設に限らず、食やサービスを含めた総合力にあるはず。より付加価値や地域性の高い「サ飯」を開発してはどうだろうか。わざわざサウナを求めて訪れた土地に、サウナとの関連性が高い特別な食があれば、食べてみたくなるはず。ハードの整備だけにとどまらず、いかにサウナの付加価値を高めるかを追求していけば、集客力だけではなく消費単価もあげられるはずだ。

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