【三人組小ネタ】体力は必要?①
「あ~……今日は体育があったからな~んにもやる気が起きない。閉店ガラガラ~」
実験室を訪れると、拾井がだらけきっていた。
「体育?」
「拾井君は、体育の授業が嫌いなんだそうだ」
佳一が説明してくれた。
マジか。
「お前、苦手なもんとかあったんだな!」
「嬉しそうだなぁ、弐方」
天才の弱点を見つけて嬉しくないわけがない。
「体育の授業なんて、お遊びみたいなものだろう?」
本当に。
色んなスポーツができるし、結構楽しいと思うけど。
「どこが! わかってない! 運動できるやつにできないやつの気持ちなんてわからない!!」
まぁわからんわな。
「マラソンとか何だよ! 何で延々と道を走らなきゃいけないんだよ! 拷問か!?」
マラソンだとか、持久走だとかは確かに疲れるし、無の時間だからな……
その後に授業が詰まっていると、つい寝てしまう。
「俺は精神統一のつもりで走っているぞ」
「前向き! 俺には無理! ていうか俺は体育以外で成績出しているからいいの! 運動できなくたっていいの!」
それはそうなんだろうけど……
「俺たちは運動部でもないから、体育で適度に運動をしておかないと、体力が落ちる一方だぞ」
そうそう。
そういうことなのだよ、拾井君。
「体力! そんなもの必要ないね! そんなことをする暇があるなら、実験に時間を使いたい!」
人がどう時間を使おうと勝手だが……
「発明家キャラのやつって、運動できないイメージあるよな」
「言われてみれば……」
「それ! だから、俺も運動しなくていい!」
いいとは言ってねぇよ。
「きっと玖雅先生も体育苦手に違いない!」
勝手に決めつけんなよ……と言いたいとこだが、ちょっとわかるかも……
「――俺が何だって?」
「うわっ!?」
噂をすれば!
「またこそこそと人の噂か」
「先生! 先生は体育得意だった?」
「藪から棒に何なんだ……別に普通だったけど……」
普通。普通とは。
「平均より上」
「……うっそだぁ~!」
現実を受け入れたくないのか、拾井は笑う。
「嘘じゃねぇよ。そんなことで嘘をついてどうするんだ」
「嘘だ! そんなことしたら先生、何でもできちゃうじゃん!」
「ケンカ売ってんのかお前……」
共感者を増やしたかったようだ。
どういうことだ、説明しろ。という顔でにらまれたので、仕方なく拾井が体育が苦手だという話をした。
「そうか……お前、運動できないやつだったんだな」
「あー! 先生もそうやってバカにするんだ! ひどい!」
「バカにしてない」
すっげぇニヤニヤしてるし。
バカにしてるな、これは。
「実験だって体力勝負だからな。運動はしておいたほうがいいぞ。座りっぱなしの生活は死ぬ。マジで死ぬ」
そういや漫画家が亡くなったみたいな話、よく聞くな……
「えー俺まだ十代だしー大丈夫だよー」
「そんな考え方をしている時点でもうアウトだろ」
年齢関係ないない。
俺と佳一は頷く。
「にわかにまだ信じがたいんだけどさ、先生本当に運動できんの?」
「できてなきゃ学年一位の成績にはならんだろうが。疑うなら表出ろや」
ケンカでも始める気か。
ていうか……
「三十代の先生が十代の俺らと張り合うのは無理があるんじゃあ……」
俺も若干先生を疑っている。
「ふふん、甘いな。先生をなめるんじゃないよ、弐方クン」
えらく自信満々だな……
はい、ということで運動場へやってきましたよっと。
なぜか俺と佳一も体操着に着替えて、しっかりとストレッチもして、準備OK!
「はぁ~もう疲れたぁ~帰りたい~」
「準備運動しただけだろ」
この時点ですでに拾井は疲れていた。
「それじゃあ、まずは50m走から。タイムも計るぞ」
佳一がストップウォッチを持って、ゴールに立つ。
俺はスタートで旗を振る。
……体力測定かよ。
「いくぞー! 位置についてーよーい、ドン!」
俺が旗を振り上げ、先生は走り出したが……
「ええええええぇぇっ!?」
拾井はずっこけた。
ドン! と言った瞬間にこけた。
あまりにも驚いてしまい、俺は叫んだ。
こっちがずっこけそうになるわ。
「何でそこでこける!?」
「大丈夫か、拾井君!」
競争どころではない。
先生は途中で引き返し、佳一もゴールから走ってきた。
50m走は中止となった……
「どうする。ドッジボールでもするか」
この化学教師、恐ろしいことを言い出す。
「それ! 運動できないやつには地獄の競技だから!!」
四人でやることがまず地獄だよ。
その後は、走り幅跳び、ソフトボール投げといった、本当に春の体育の授業で行われるようなことをやった。
先生の記録は高校生の俺たちと変わらないもので、一方の拾井はなぜそうなると言いたくなるような珍行動を起こしてばかりだった。
本当に運動苦手なんだな……
これだけ色々やっても先生はケロッとしているし、拾井は虫の息である。
どっちが十代かわかんねぇよ。
【続く】
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