見出し画像

Episode 523 プライスレスが必要です。

前回の記事でも話題にしたTVドラマ「アンサングシンデレラ」の話をもうひとつしましょうか。
真矢ミキが演じる「販田聡子」は、石原さとみが演じる主人公の「葵みどり」の勤務先である萬津総合病院薬剤部の部長さん。
そのドラマの第7話で、慢性的な人手不足に悩む販田部長が病院経営側に「調剤ロボット」の導入を提案しようと画策するシーンが登場します。
このこと自体は、「高価な機械」を導入するにあたり、あれこれと「突っ走り気味」なみどりの行動を牽制する…つまり、「問題を起こすな!」という印象を与えるための小ネタなのですが、経営と労働…という立場に立って考えると、この「調剤ロボット」の導入という話は「かなりの難問になるよなぁ…」と、私には思えたのです。

前回の話題に倣って「家事労働」を機械化するならどうなるかって考えるなら、全自動洗濯機は既に普及している世帯が多いので、調剤ロボットは差し詰め「食洗機」か「ロボット掃除機」ってあたりでしょうかね。
ウチは休みの人がいる時に掃除機をかけるのがルーティンとして定着しているから、掃除機掛けは毎日の家事労働の重荷にはなっていませんので除外します。
でも、食後の片付けは毎日どうしても発生するのです。
昼は家に誰もいないこともあるし、夕食後にまとめるにしても朝晩2回は必ず発生するワケです。
更に付け加えるなら、自宅をキープするにあたり、衛生的に放置したくない部分でもあるのです。
やはり「水まわり」は、衛生面のキーポイントですからね。
このどうしても放置できない家事を機械化できれば「ラク」なのは間違いありません。

ただね、これを購入して設置…となると、なかなか難しいのですよ。
食洗機本体の値段はピンキリで、数万円のものから数十万円のものまで…それは性能やサイズの問題もあるからわかるのですよ。
難しいのは設置場所なのです。
同じ「水まわり」のものでも、洗濯機のそれのように、「そこに後付けで機械を置く」ことを前提とした給排水設備があるキッチンが…殆ど無いのです。
そうすると食洗機の導入にあたっては、キッチンユニットの総入れ替えを視野に入れるような大工事になるのかも…。
果たして、それを導入するほどの費用対効果はあるのだろうか…ってことになるワケですよ。

ドラマで話題になる「調剤ロボット」が、どの程度の自動化を実現するのか、お話の中では一切触れていません…が、仮に処方箋を読み取って自動で薬を集めることを想定したとすれば、全ての棚の全てのアドレスから自動で薬を搬出できるコンベアなどが必要になるハズ…。
それを考えただけでも、薬剤室を完全リニューアルするに等しい大工事になりそうな気がします。

はてさて、仮に私の「筋書き通り」だとしてですね、巨額の設備投資の結果はキチンと回収されなければならないのですよ。
家庭のキッチンならば、設備投資で家事の能率がアップしたその余裕の部分を「生活の潤い」とするのが一般的でしょうかね。
家事は金額換算しにくいですからね…費用に対する効果が金額では現れないことが多いのだと思います。
では、経営に直結する薬剤室のリニューアルの場合は…と考えた時、こちらは設備投資の効果を金額で回収する可能性が高いのではないか…と私は思うのです。
今まで薬剤師たちが自らの手で行っていた作業を機械が代行できるのならば、そこに多くの薬剤師を配置する必要はない…結果的に、そこで仕事をする薬剤師の仕事に余裕が生まれるかどうかは、経営側の判断に委ねられることになるように思うのです。
つまりね、「葵みどり」がドラマで表現したように、薬剤師から見た「病院の医療品質向上」というプライスレスな部分を、経営側がどのように評価するのか…ということです。

ごめんね…夢のない話で。
ただ…「投資と回収」という経営を成り立たせるための部分は、安定した雇用を守るために重要な部分でもあるのですよ。
「前回の話題」と同じことを改めてお話ししていますが、これ…とても重要な部分なのです。
即ち、一人前の作業量をどのように設定して、その対価としての労務費をどれほどで見積っているのか…ということです。
この基準が厳しくなるほどに、仕事は「激務」になっていくと言うことです。

日本人の仕事観には、「真面目で一生懸命」みたいなものが色濃く滲んでいるように思います。
その行き着く先が、個人の能力を100%出し切ることを求めるフル稼働なのかな…と、感じます。
このフル稼働の問題点はふたつあって、ひとつは常に各個人が100%の力で走り続けることなんかできないということ、もうひとつは誰かのハイパーな100%の力が100%の基準となってしまうこと…「あの人ができるからあなたもできるでしょ?」みたいなヤツね。
頑張ること、努力することを「個人」で行う分には何の問題も発生しません。
それで得られるものも数多いでしょう…でも。
頑張ること、努力することを「美徳」として基準に据えてしまうと、あなたに努力を求めることになってしまうワケです。
残念ながら、その努力には絶対的な基準が付けられません。
それは「評価する側の価値観」でしかないのですから。

ドラマの最終話で「調剤ロボット」の導入が決まったことを、販田部長が薬剤師たちに報告するシーンが出てきます。
調剤ロボット導入の効果が、薬剤師の待遇改善と病院医療品質の向上に振り分けられればいいなぁ…と私は思うのです。

そして、このプライスレスの職場環境改善の考え方にこそ、障害者雇用の進むべき道があるのだと私は思うのです。
この話はまた後日に…。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?