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Episode 545 迂闊に乗ると危険です。

私の勤める会社は「食品メーカー」で、日々お客様に届ける商品を作り続けているのです。
食品メーカーにとって、製造する商品の衛生管理が「最重要項目」であることは、私が勤める会社に限らずどの会社も共通のことで、お客様に安全に安心して商品をお召し上りいただくことが会社存続の要であることは「疑う余地」のない事実なのです。
その食品メーカーにとって極めて重要な食品衛生の管理方法には、「HACCP」と呼ばれる仕組みがあります。

HACCP(英語: Hazard Analysis and Critical Control Point)は 食品を製造する際に工程上の危害を起こす要因(ハザード; Hazard)を分析し(アナライズ; Analyze) 、それを最も効率よく管理できる部分(CCP; 必須管理点/重要管理点)を連続的に管理して安全を確保する管理手法である。(Wikipediaより)

食品管理には「食品衛生の三原則」と呼ばれる大原則があってですね、「清潔」(細菌を付けない)「迅速」(細菌を増やさない)「加熱・冷却」(細菌をやっつける)を守ることで「食品の安全」を確保するのですよ。
これは家庭でみなさんがやっていることと同じで、買い物した生鮮品は冷蔵庫などの適切な場所で管理し、新鮮な内に清潔な調理器具で手早く料理して、保管する時も冷蔵庫などを使って…という当たり前のことなのです。

ただ…食品メーカーは、その大切な「食品衛生の三原則」をなんとなくやっているワケにはいかないのです。
もしも「あなたのところの商品食べたらお腹を壊した」ってクレームが付いたら、食品メーカーとしては大騒ぎです。
「いつ製造したどの商品か」を特定して、工場内に品質管理用としてキープした同じ日付の製品の状態と製造工程の管理帳票の異常の有無を確認…もしもメーカー側に過失があった場合、告知と回収を急がないと、購入してくれた方への健康被害が立て続けに起こることになりかねないワケです。

この「最悪の事態」を想定して、最悪が起きないように、工場の製造工程を検証して危害の要因(ハザード; Hazard)を分析(アナライズ; Analyze) して、問題が起きないように最も効率よく管理できる部分(CCP; 必須管理点/重要管理点)を連続的に管理して安全を確保するワケです。
具体的には、「食品衛生の三原則」を明確な数値で見える形で管理し、記録を残す…です。

例えば、180℃の油で5分加熱すれば、確実に中心温度85℃になるから、病原性細菌をやっつけることができる…というようなことです。
全ての商品の中心温度を測ることは出来ないから、油温180℃と揚げ時間5分を正確に管理する、さらに一定時間毎に中心温度をサンプリング実測しする…という感じでしょうか。
この連続記録を取り、確実にチェックできる体制を整えましょう…みたいなことをするワケです。
生産工程の隅から隅まで危害要因分析を行い、重点管理すべき項目を決め、徹底的に管理する…これが食品メーカーで実践される「HACCP」ということです。

先日、私はこんなツイートをしました。

私の思う「ライフハック」とは、個人の試行錯誤の上に成り立つ「本人なりの上手くいく方法」だということは、先日お話しした通りです。
本人だけの「スペシャルなやり方」であれば、独特で型破りな方法でも何の問題もありません…でも、この「スペシャルなやり方」を誰かに教える必要が出たとしたら、どうしましょかね。
ツイートで書いた通り、失敗の海の上の一本橋を歩くように指導すれば良いのでしょうか。
いや…多分、それは間違いです。

ライフハックがあること自体は素晴らしいことだと思うのです…それはあなたが「何とかしたい」と思った成果だから。
何度もあれこれと試してみて、やっと見つけた上手くいく方法ですからね、その中にはあなたの「できなかった方法」も詰まっているワケですよ。

でもね、誰かにその「出来た方法」だけを伝えると、できなかった部分・苦労した部分が何処だったのかが伝わらないワケです。
だから教わった人は「危ない場所」の把握ができなくて足を踏み外し、失敗の海に転落するかもしれません。

前述の「料理の例え話」で言えば、個人のライフハックは「家庭料理」なのですよ。
「こうやったら危ない」は何となく理解しているけれど、それが具体的に明文化されていないワケです。
人に教えるには、成功経験だけでなくて、その陰に隠れている危険な場所も伝えないといけないワケです。
「私の料理の仕方を見て、同じように作ってみて」…といって、手順は何とか真似られたとしても、清潔な調理器具や冷蔵保管が抜けていて、お腹を壊した…の可能性はあるかもしれません。

個人の成功経験の成果であるライフハックは失敗経験の上に成り立っていますから、失敗した経験は本人の中に経験値として存在しているワケです。
本人の技術だけを向上させるのなら、特に失敗の明文化を考える必要はないと思います。
でも、それを「誰かに伝えたい」と思うのなら「HACCP」が必要になる…つまり、成功経験のお話だけでは不十分で、成功談の裏側にある「危害要因」の分析を行い、成功談の補強をする必要が出てくるワケです。
多くの人に伝えようとするほどに「危害要因」の精度を必要とする、補強する項目は増えると私は思うのです。

「キラキラした成功談」に「失敗談」や「難所の解説」が付属されてないとすれば、それは「危害要因」の分析が甘いのだ…と私は考えています。
迂闊に乗ると、足を踏みはずすかもしれませんよ。

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