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Episode 469 聞かれて困ってしまうのです。

私ね、ASDに限らず定型の方も、人間の基本的な部分を作る原動力は「好奇心」に違いないと思っているところがあるんですよね。
だってそうでしょう…生まれたばかりの赤ちゃんが、何も教えられることなく一生懸命に見て聞いて理解の幅を拡げていくワケですよ。
それを大人たちは「成長」のひとことで片付けるのですが、赤ちゃんは自分で興味を持ったことを必死で理解しょうと試みるワケですよね。
体力に付けるうちに寝返りを打ち、お座りをして、ハイハイをして、立ち上がろうと努力する…それは、その子のママやパパが立って歩いているのを見ているから「私も!」って思うのだろうと感じます。

言葉もそうだよね。
周りの人が話しているのを聞いて、マネして習得していくワケですよ。
だから、先天的に聴覚に障害があったりすれば聞こえないから「聞く」が興味の対象から外れ、それ故に話すことが難しくなるワケです。
これは数年前に話題になり、映画化もされた大今良時氏のマンガ『聲の形』の背景、ヒロインの西宮硝子はこういう事情を抱えていた…ということになります。

ただね、そんなに人間は脆くないのですよ。
残された普通に機能する能力が、そこで機能を停止するのか…と問えば、それは確実に No なのです。
機能しない能力をカバーするために別の方法を考えだすのは、出来ることが制限されるマイノリティが行う生きるための知恵なのです。
ヒロインの西宮さんが持つ聴覚障害ということになれば、それは手話であり筆談である…ということです。
とまぁ、ここまではキレイごとね。

『聲の形』のヒロイン・西宮硝子は、自分の持ち得なかった能力をカバーして、それでも周りの人とうまくやっていこうと努力するワケですが、やはり言葉の壁は大きく、周囲と上手くやっていけません。
そこで彼女が持ち出したライフハックが「笑顔」だった…どんな時も、何を言われても、意味が分からなくても。
生きていくために笑顔が必要だったワケですよ。

私たちASDには、身体機能に問題がない方も多数いらっしゃいます。
但し、相対するあなたの気持ちを理解する能力に欠けるのです。
周囲との関係は「成長」の過程で、遊んでケンカして怪我して怒られて仲直りして…を繰り返す中で身に付けていくハズでした。
でもね、そこが育たなかった…西宮硝子の聞く能力と同じように。

だから別回路を用意する必要があったのです…それが私がこのコラムでずっと言い続けている、入口と出口を短絡させた「ブラックボックス」というライフハックということです。

そのブラックボックスには、西宮さんの「笑顔」の応対と同じように私の意志はありません。
なぜならば、定型の皆さんが普通に行っている「あなたと私という違う人間の意見をすり合わせる」作業の「すり合わせる部分」をショートカットした現象面だけのコピペですから。
だから世間体を持ち出し、ブラックボックスの出口が社会的常識からはみ出していないか確認する必要があるワケです。

世間でやっていくために編み出した「ブラックボックス」は私を守る盾になる存在で、そのブラックボックスの信憑性を担保するのが世間体や常識だということです。
このブラックボックスを数多く作れる人こそが、定型社会で外モードというマジックを駆使して「何とか」やっていける、経済的に自立しているが故にパートナーを得るところまで到達できるASDなのだろう…と私は思っています。
それはIQなどとは関係なく、頭の良い人(機転の利く人)だと私は思います。

そうやって生活するために必要なライフハックを大量に駆使するASDは、ライフハックに守られる安全地帯を身の回りに築くことになるワケです。
気が付くと私の周りには自分で作った高い壁があってね…。

もうお分かりですよね。
ASDの受動型って、この城壁に囲まれて生活する人だということ。
ある程度、自立して生活する能力がないと、受動型になれない…というのが私の見立てです。
そして、さらに城壁が強固になれば孤立型と呼ばれ…となる。

受動型のASDが自分に意志に固着して…という表現を目にすることがありますが、私はこの考え方に懐疑的です。
だって、私の過去を振り返り、自分の意思だったと思っていたライフハックの中身は空だったと確認しているワケですからね。

私が盾に取っていた常識とは、社会が言うだけのことで、私自身が考えて出した結論ではないワケです。
「それで、あなたはどう考えているの?」…これを突き付けられるのが一番キツイ。
だって、私が考えた答えなんて、ひとつもないんだもの。

「私はこう思っているけど、あなたの意見は?」
「私に合わせるではなく、あなたの意見は?」
「世間はそう言っているわね…それで、あなたの意見は?」
さて、困りましたね…子どもの頃から上手くいかずに心の奥底にしまい込んで封印していた私の意見…ですか。

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