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Episode 705 接触の効果に気付きません。

「〈叱る依存〉がとまらない」などの著書で知られる村中直人(@naoto_muranaka)先生が主催する「自閉文化を語る会」に参加させていただくようになって直に1年になろうとしています。
ここ最近、ASD者と定型(典型)者を種類の違うトウモロコシに見立てて幾つかの記事を書いていて、前回の記事もその流れから「ASD者にはASD者の特性があるのはそれとして、当然だけどそのほかに人としての個性があってさ」…と記したのです。
ASD者である私が「ASDの私の個性」に目を向けるキッカケになった大きな出来事として、この「自閉文化を語る会」への参加があったのは、多分間違いありません。

その「自閉文化を語る会」の公開版が "X" 上でのスペースであったのは、先月末のことでした。

「見えないものはない」と言うテーマで語られた今回の座談(討論?)会…その中で個人的に気になったことを、改めて深掘りしてみよう…と言うのが今回のお話です。

スペースの後半、まごっと(@officemaggot)さんの発言に「選挙の手伝いをする話」が出てきます(スペース録音頭出し 1:10:00 付近から)。
そして話は「ASD者には『単純接触効果』が働かない」かも…ということに繋がるのです。

単純接触効果(たんじゅんせっしょくこうか、英: mere exposure effect)は、(閾下であっても)繰り返し接すると好意度や印象が高まるという効果。1968年、アメリカの心理学者ロバート・ザイアンスが論文 Zajonc (1968) にまとめ、知られるようになった。

wikipedia「単純接触効果」より

食品メーカーに勤める私の、今の具体的な仕事はフォークリフトのオペレーターで、冷凍倉庫で製品原料や出荷待ちの商品の荷役をすることなのですが、この会社に入って最初に配属されたのは「営業」だったのですよ。

その時の「ダメ営業マン」っぷりは以前に記事にしているのですが、「ASDは営業に向かない」…と一般的によく言われる理由にイマイチ納得できなかった私に、今回のスペースでピッタリな「納得」の理由が付いた気がしたのです。

スペースの中では「選挙の立候補者の中から誰に投票するのか」で、政策という重要ポイント以上に「有権者の方を向いていますよ」というアピールが重要だったと語られます。
実は営業マンも同じなのだと、営業を離れて20年以上経って、私はこのスペースでやっと気がついたのね。

食品メーカーの製品ってね、基本的に競合他社もほぼ間違いなく類似品を作っているのね。
スーパーマーケットの商品棚に並ぶ商品を見て、例えば「カレーのルー」とか、それぞれが配合などの努力をして独自性を出そうとするのだけど、それはあくまでも「カレーのルー」というカテゴリの中のハナシなのよ。
カレーに限らず、ドレッシングでもスナック菓子でも、恐らく競合商品がない「オンリーワン」は先ずないワケ。
ここで自社商品を如何に売り込むのか…が営業マンに問われるワケなのだけど、圧倒的な高品質や圧倒的な低価格で他社に大きなアドバンテージを作れない場面が多い中で、最後は何に頼るかって言えば、スーパーマーケットのバイヤーさんとの仲なのよ。

足繁く店を回ってパートさんと一緒に品出ししながらおしゃべりして帰って来る…を繰り返して、店の従業員の目に留まる回数を増やすことで、「買ってやろうか」という心情に訴える…これ、実は基本戦略なのですよね。
ぶっちゃけ、競合他社と競合商品をほぼ同額の見積もりで提示して、どっちを取るかって、そりゃぁ…仲が良い方のメーカーの商品を選ぶのよ。

今まで「ASD者が営業に向かない」とされる理由は、ハナシの噛み合わなさとか、雑談の苦手さとか、そう言った単純なコミュニケーション能力の弱さにあると思っていたのね。
もちろんそれもあるのだけど、それだけじゃない、「あなたと上手くやって行きたい」というアピールを私はして来たのか…と言う視点が、私には無かったのかもしれません。

でもね、100%営業に向かない…とは言えないのね。
同じ「営業」でも、私は店舗営業なら何の問題は無かったのですから。
ウチの商品を買いに店に足を運んで下さったお客様に対して、いかにこの商品が優れているのかを話すのは得意だったのですから。

自分のエリアに興味を持ってもらってからは、自分の興味とあなたの興味は同じ視点に立てるワケですよね。
例えば、「この帽子、カッコいい、ちょっと見てみよう」って、私の店に入って来たあなたは、商品の帽子というモノを挟んで、私と価値の共有や確認をする…ってのが店舗営業におけるセールスなら、それが可能なASD者はそれなりにいそうです。
(モノを挟んだ価値の共有はこちらの記事から ↓)

ぐるりと一周回って、ASD者には「単純接触効果」が効きにくい…というお話。
選挙の候補者が「有権者の方を向いていますよ」…というアピールは、私の他者視点に訴えているワケですよね。
見てもらっている…という視線を理解するからこそ、それに対する反応が生まれるのでしょう。

ASD的な他者視点のなさ(弱さ)が生み出す「単純接触効果」が効きにくい…という事例は、ASDが社会的に躓くコミュニケーションの問題と深く関わっているように感じます。
今回の座談会での話題「見えないものはない」からまたひとつ、「そうか!」の閃きがありました。
「人の話を聴く」というのは、気付きと閃きに繋がるのだ…と、私は改めて感じたのです。


冒頭で紹介した村中直人先生の著書「〈叱る依存〉がとまらない」は、コチラ。

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