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Episode 493 折衷案を試すのです。

3泊4日の入院生活で徐々に元気を取り戻した母は、退院して「郷里の家」でしばらく静養することになる。
もちろん、退院したからと言って、父を直ぐに家に帰すことは出来ない…という説明をした上で…の話だ。

結婚してからずっと一緒だった父と離ればなれになるのは、初めてのこと。
現役時代の父には長期の出張が度々あったが単身赴任するほどでもなく、ましてや母の都合による「別居」は経験がない。

「郷里の家」にポツリとひとり、自分の体調のせいで呼び戻せない父を思い、どんなに切ない思いをしているか…想像するだけで気が重い。

11月に入ると気候は一気に秋めいてくる…私たちが住む本州日本海側の政令指定都市の11月はひとつ「境目の月」で、徐々に気候が変わるのではなく、月を跨ぐタイミングでガツンと雰囲気が変わるのです。
具体的には晴れの日が急に減り、海からの北西の風が強くなる…「暖かいからまだ大丈夫」なんて思っていると、クルマのタイヤ交換とか庭木の雪吊り・雪囲いのような冬支度のタイミングを逃すことになる、11月の休みの日が必ず晴れるとは限らない、「休みの日に晴れたら冬支度」と思っていないと、小雪の舞う北風の日に凍えながらタイヤ交換をする羽目になるのです。

認知症に限らず「冬場の介護は難易度が高い」と、前にもお話した通りなのです。
私は「せめて冬場だけでも、桜が咲くころまでは、自宅介護を諦める様に」と母に話します。
この寒い時期に夜の不安を抱えたまま…では、心配なことが多すぎます。
ましてや母は一度倒れているワケですから。
でもね、母をポツリとひとりで郷里の家に置いておくのも、それはそれでまた不安なのです。
話し相手もなく、ひとりで…で、母の気持ちが正常を保てるのか?
ましてや今回の件…ムリをした結果、母は倒れてしまったのだとはいっても、父への気持ちがあってこそのムリだったワケです。
それを単純に介護の難易度という切り口で引き離すべきなのか?
それでは、母の気持ちは後悔のまま止まってしまうのではないか?

何度となく母と担当ケアマネさんと話し合った結果、半分を施設で、半分を自宅で介護する方向を探ることにしたのです。
具体的には…父には月曜日の朝に施設に行ってもらい、3泊4日のショートステイをお願いする、木曜日の夕方に自宅に戻り、週後半は自宅で母が介護する、自宅介護の途中で1回のデイサービスを入れる…つまり、4泊3日の自宅介護、その日中3日のうちの1日をデイサービスで過ごす、ということで折り合いをつけます。
夜の負荷が高いことは母も十分に分かっている、だから最低でも夜の負荷を半分にしたい…という体力面で絶対に譲れない線を示した上での折衷案でした。

その上で、夜間に暖かな寝室から極力出ないことを目指し、寝室にオイルヒーターとポータブルトイレを設置して、夜間のトイレに対応するための対策を打ちます。

そして、母が倒れてからひと月後、父は久しぶりに「郷里の家」に戻ってくるのです。

このデイサービスとショートステイを併用して、介護者が納得した上で負荷を減らす体制を、「母が倒れる前に」実現できなかったことを私は残念に思います。

この先、両親はさらに年老いていくワケで、この体制がいつまで続けられるのかはわかりません。
でも、初めて皆が納得した上での体制ができた…私はそう思います。
今後も皆の意見を聴きながら、両親の衰えていく体力に合わせて色々と「テコ入れ」していかなければならないことが起こるでしょう。

この話は、基本的には介護にまつわる話です。
けれど、見方を変えると「ASDの方が社会で躓いてしまうポイント」が散りばめられたエッセンスの小瓶になりうる話かもしれません。
その言葉が、だれかの心に届きますように。

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