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Episode 583 「好き」が気持ちの中心です。

先日の記事で私は「何故ASDの人が『オープンクエスチョン』に弱いのか」を、私と私の実母との関係を題材にしてお話ししました。

この「オープンクエスチョンに弱い」ASDの特性は、「自閉の正体は私の気持ちのコントロールの困難さ」という、私の思う「自閉の本質」を表す一言で紐解くことができることだと思います。
自分の気持ちを「ほんの少し」折り曲げて融通することで、あなたと私の摩擦を減らすという、たったそれだけのことができない…だから、苦手な「融通すること」を避けるために、コントロールできない自我を引っ込めて、社会的常識を差し出すのだ…ということです。
このあたりの話しは「ガラスの仮面」を題材にした記事に詳しいので、そちらをご覧いただくとして。

実は、私は自閉特性の本質と結婚生活の相性が悪い…とは、あまり思っていないのです。
では何故「ASDの人が結婚生活で躓く理由はいったい何なのか」を考えると、社会で生活するために「自分の気持ちを折り曲げる代わりに用意した社会的常識(価値観)」と、自分自身の意思の不一致に突き当たるのです。

ASDの人が頼る「社会的価値観」というのは、多くの人が「良し」とする一般論であることが必要なのだと思います。
それは「その世代の価値観」であるかと問えば、違うことが多いのでしょうね。
こと「結婚」ということに関して言えば、親戚縁者…とまでは言わないものの、最低限「両家の親(またはその代理人)」の賛同は取り付けたいところでしょう。
世代というのは親から子へザックリと30年の隔たりがあって…つまり、親の賛同を得るとは、極端な話「30年前の価値観の人の許可を得る」ってハナシなのですよ。

何と言うか…そうですね、「社会的価値観」とは「自分の世代の作っていく価値観」ではなく、「前の世代が作りあげた安定した価値観」であることが多いと言いましょうかね。
両家にご挨拶して賛同を得て…あとは自分たちで自分たちの価値観を作っていけば良いのですが、賛同を得るための30年前の価値観で自分自身がストップしたら…家庭内に「昭和の残骸」が残ることになるワケですよ。

例えば…もしも「結婚して一人前」とか、
「妻子を養って一人前」とか、
「子どもを育てるのが女の幸せ」とか、
そんな前近代的な価値観が私の「社会的価値観」に紛れこんでいたら、
その価値観を前面に押し出して自分の気持ちを仕舞い込んでいれば、
結婚生活で意見の調整をするのは難しいのかも知れません。
なぜならば、その価値観は「今の価値観」でも「私の価値観」でもなく、過去になった世界が作りあげたその「当時の価値観」だから。
その「社会的価値観」を修正する能力は私にはありません。
なぜならば、それは建前であって私の本音ではないから。

山崎まさよし氏が歌い、スマップがカバーした名曲「セロリ」。

がんばってみるよ やれるだけ
がんばってみてよ すこしだけ
なんだかんだ言っても つまりは単純に
きみのこと 好きなのさ

こんなにサラリと簡単に「私とあなたの意見の調整」を歌っているのもスゴイけど、これが余計を剝ぎ落したコミュニケーションの本質なのですよ。

ところで、私は自閉特性の本質と、結婚生活の相性が悪い…とは、あまり思っていない…と、お話ししました。
その理由は、自閉の本質とセロリで歌われる『なんだかんだ言っても つまりは単純に きみのこと 好きなのさ』は両立するからです。

問題は「私はあなたが好き」をストレートに表現できず、社会的価値観という「前の世代が作りあげて安定した古臭い建前」で自我を隠すことにあるのですよ。

自我のコントロールが難しいASDの私が、社会生活を送るために編み出した知恵こそが「社会的価値観」と自我をトレードして常識的に振る舞う行動だったワケです。
それ故に、建前である「社会的価値観」と本音である「自我」の間には意思の不一致が発生する可能性があって、その不一致こそ「何で?」というオープンクエスチョンに答えられない真相なのだと思うのです。

ただ、この「社会的価値観」と自我をトレードして常識的に振る舞う行動は、私が生きるために編み出した知恵から生じる「二次的な産物」であって、自閉の本質ではないのでよすねぇ。

「私はあなたが好き」が自我ならば、そのあなたと一緒にいるためにすることは、山崎まさよし氏が歌うセロリの歌詞が全てです。
そこに「既存の価値観」という鎧を持ち込むことが、あなたに「私に対しての不信感」を懐かせる種になるワケです。

「私はあなたが好き」を自覚しているのなら、「既存の価値観」に逃げず、「どうしたらよい?」をストレートに聞くことでしょう。
社会を渡るための、既存の価値観をベースにした「外モード」がライフハックとして外の社会で生きてあるのは、それはそれ。
その上で、家庭円満の秘訣は「私はあなたが好き」というライフハックではない「自分の気持ち」を自分でしっかり見つめることだと、私は思うのです。

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