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絶メシ:河内屋のせいろ

河内屋(長野県諏訪市)、上諏訪駅裏の湖明館通りにあった蕎麦屋。
元々は、出前もするごく普通の蕎麦店だったが、店主が一念発起、こだわりの蕎麦を提供するようになった。

まだ、上諏訪の町を訪れて間もないころ、上諏訪駅にほど近い温泉共同浴場精進の湯(閉鎖)の番台のおばちゃんに
「この辺りでおいしい蕎麦屋さんはない?」
と尋ねた。
「う~ん、河内屋か、更科かな。…河内屋の方がいいかな」
と教えてくれた。
おそらく、どちらの店もおいしいが、インパクトからいったら河内屋ということだったのかもしれない。

小さな店だがいかにも蕎麦屋らしい店構え

その河内屋でせいろ蕎麦を注文した。
せいろ、すなわちもりそばなのだが、蕎麦はもともと蒸篭で蒸していたと言うところから、せいろと呼ぶ店がある。
細めの更科粉を使った蕎麦は、わずか7秒でゆで上げると聞いた。

「国産のそばの実を石臼でひいた一番粉と二番粉のみを使い、つなぎは2割、7秒でゆであげる見事な職人技。 つゆは土佐の鰹節、三河のみりん、房州の特上醤油で作る秘伝の味」と諏訪の蕎麦商組合のHPでは紹介されていた。

はじめての河内屋の蕎麦は衝撃的だった。
濃い目のつゆにそばを少しだけ浸して口に運ぶと…
蕎麦のコシがしっかりし過ぎていて、乾麺の茹でそこない?とまで思わせるほどだった。
でも、まずくはない。
ここまで硬い蕎麦は初めてだった。
蕎麦湯はそば粉をといて作ったとろり感いっぱいの蕎麦湯だった。

普段、蕎麦といえば駅そばくらいしか口にしていない私にとって、インパクトがあり過ぎた。
この蕎麦は本当に茹でそこないではない蕎麦なのかと、少しばかり疑問に思いながら店を後にした。
さすがに茹でそこないでは?とは聞けなかった(笑)

そこで、翌年に再訪問。
やはり蕎麦は硬かった(笑)
でも、食べなれるとすこぶるうまいのだ。
そこら辺の蕎麦屋のへなへなの蕎麦なんて食べる気がしなくなった。
諏訪を訪問する際は必ず河内屋に立ち寄った。
そのうち
「おにいさん、春頃も来てくれたよねえ」
と顔も覚えてもらえるようになった。

河内屋の衝撃の蕎麦(笑)のお陰で、蕎麦屋巡りもするようになった。
腰の調子が良くないと言っていたおやじさんが、松本の浅田という蕎麦屋がうまいよと教えてくれたり、おばちゃんは、忙しすぎてうっかりお客にそっけない対応をしてしまったらネットで炎上してしまったとか、橋蔵(銭形平次の大川橋蔵)さんも来てくれたとか、いろいろと話をしてくれた。

ドラマ「青い鳥」(1997年)のロケで諏訪を訪れた俳優の佐野史郎さんも、ご自身のHPで河内屋の蕎麦は美味いと称賛していた。

そんな、うまい蕎麦屋河内屋。
ある年、一年ぶりにと尋ねたら閉店していた。
おやじさんの腰が悪化したのか、その理由はわからない。
あのインパクトある美味しい蕎麦が食べられないのはとても残念だ。

蕎麦はメシって感じはしないけど。
絶メシ、絶品メシ、河内屋の蕎麦。

かなわぬ願いは…
もう一度食べたい。