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砕けっちった魅力?最低作品=最高作品?「恐怖王」を徹底解説

今回は、江戸川乱歩の「恐怖王」という小説を解説していきます!
この作品は、かなりの珍作で最低作という評価も時々聞くんですけど、その中に砕けた魅力というのを乱歩ファンは感じてしまう訳ですよ。そんなわけで、僕は江戸川乱歩の作品の中で「恐怖王」が一番好きなわけですよ!と、いうことで、早速あらすじから追っていきましょう。

まず作品は、葬儀自動車に乗った二人の怪人物の描写から始まります。運転席に座っていたのは額がせまくて鼻が異常に低く、口がばかに大きいゴリラを連想させるような顔を持った「ゴリラ男」です。そしてもう一人はダブダブの黒ビロードを着て、長髪をふさふさと肩まで下げて、ロイド眼鏡をかけた見たところ芸術家といった感じの男。彼こそが世紀の犯罪者「恐怖王」なのです。


二人は、布引銀行の取締役、布引庄兵衛の娘、照子の死体を盗んできたのです。そして照子の死体とゴリラ男とで婚礼写真をとったり、照子の声を真似て布引氏に電話を掛けたりと、迷惑な事をたくさんやらかし、ついには照子の婚約者、鳥井青年を殺してしまいます。
その後、話は今作の主人公、大江蘭堂(おおえらんどう)に移ります。蘭堂が今作の探偵役を務めるわけです。
ある日、蘭堂の恋人、京子に真っ黒な米粒が五つ送られてきました。不審に思った京子は蘭堂に相談します。


蘭堂がその米粒をルーペで観察すると、驚くべきことが分かりました。その米粒には「恐怖王」という文字が細かくびっしりと書かれていたのです!これは、恐怖王が、蘭堂に対して送った挑戦状だったのです。
その後も、大空に飛行機雲で「kyohuo」と書いたりと、恐怖王はありとあらゆる方法で自分の名を宣伝します。それを追ううちに、蘭堂はゴリラ男に出会います。ゴリラ男をなんとか追い詰めようとする蘭堂ですが、ゴリラ男は驚異的なジャンプ力である屋敷に飛び込み、そのまま姿を消してしまいます。
そこで出会ったのが喜多川夏子という未亡人です。彼女は、蘭堂に好意的な態度を示してきます。蘭堂も夏子に惑わされるも、京子の事を考えてしまい悩みます。さて、夏子と蘭堂の関係はどうなるのか、恐怖王とは何者なのでしょうか………?
とまああらすじはこんな感じです。この作品を一言で表すならジェットコースターのような作品って感じですかね。最初はものものしくゆっくりゆっくりで、中盤はハチャメチャな展開が続き、最後は一気に急降下して終わる…..って感じの作品なので、ジェットコースターみたいな作品かな….って思っちゃいました。
この作品を面白くしているのは間違いなく中盤~ラストのハチャメチャ展開でしょう。
もう先ほど紹介した「恐怖王」とびっしり書かれた米粒の時点である程度はリアリティを放棄していると思いますが、後になるにつれてこれがどんどんひどくなっていくんです。特に、最初はただの「ゴリラみたいなヤツ」だったゴリラ男が、いつのまにか万能の怪物になっちゃってるところとかは不可解感満点です。でも、それになぜか引き込まれてしまうんですね。それが本作の最大の魅力です。
これでも、ラストがちゃんとしてたら僕の中での印象も少し薄くなってたかもしれませんが、ここに強引な結末がついているからこそこの作品の持つインパクトを、さらに強烈なものにしてくれています。ラストシーンはこの後詳しく解説しますが、余韻を残す終わり方であること、大江蘭堂は恐怖王に振り回されてばっかでほとんど事件を解決していないということだけ書いておきましょう。まあ、 大江蘭堂のちょっとおっちょこちょいな所も好きなんですよね。
僕はなんでもやっちゃう明智小五郎みたいな万能探偵より、大江蘭堂や、「緑衣の鬼」の大江白虹、「妖虫」の三笠龍介とかのおっちょこちょい探偵って感じのキャラの方が個人的に愛着が持てるんですよね……..
でも、乱歩にそこまで愛着がない人が読むと、やっぱり駄目な作品かもしれません。
こんな出来になってしまった理由は、乱歩の多忙ぶりでしょう。この頃の乱歩はとにかく通俗長編を書きまくっていて、この年は「恐怖王」の他に「吸血鬼」「盲獣」「地獄風景」などを書いていて、合わせて5本の連載を抱えていました。さすがの乱歩もこれには疲れてしまったようで、「恐怖王」の他の作品も、ちょっと吹っ切れている不思議な作品が多いです。でも、それもそれで楽しめますが…………
では、ここから驚愕のラストシーンを解説していきます!まだ読んでいない人は、ネタバレを避けたいならこの記事からさよならするか、青空文庫で今すぐ読んじゃってください!








では、ラストの解説いってみましょう!

クライマックスでは、ゴリラ男は警察に捕まってしまい、尋問を受けることになります。
自分の正体や目的がばれるのを恐れた恐怖王は、ゴリラ男の親族を名乗って警察署のゴリラ男に接近し、彼に毒薬を打ち込み、姿を消します。ですが、ゴリラ男は強靭な体を持っていたので死ぬことはなく、病院に搬送されたのでした。
その夜、蘭堂は夏子に誘われて、夏子の家に行っていました。
蘭堂は夏子に強い酒を飲まされて、眠りに落ちてしまいます。
その後、蘭堂は眠りから覚めると、新聞でゴリラ男が病院から脱走したことを伝える記事を読みます。ゴリラ男は恐怖王に復讐しようとでもいうのでしょうか?その直後、夏子の悲鳴が二階の書斎から聞こえてきました。
急いで書斎に駆け付けた蘭堂はそこで、ゴリラ男に夏子が殺されているのを目撃します。そして、ゴリラが蘭堂にこんな言葉を吐きます。
「ハハハ……、馬鹿野郎! 手前はそれでも探偵のつもりか。ここは手前の敵(かたき)の家だということを知らねえのか。ハハ……。ソラ、開けてやるから這入って来い。そして、このテーブルの上の品物をよく検べて見るがいい。サア入って来い
そう言ってゴリラは窓から去って行ってしまいまいした。
ゴリラが言っていた夏子のテーブルには、付け髭、かつら、黒帽子など恐怖王が身に着けていたものが置かれています。さらに、恐怖王からゴリラに送られた指令文のようなものも……….
これらの証拠を見ると恐怖王の正体は夏子なのですが、物語の中に、恐怖王が夏子だとすると矛盾している部分がありますし、物語でも夏子はただの替え玉だったのではないか?恐怖王はまだ生きているのではないか?と疑問をこちらに振ってきますし、ゴリラ男も姿を見せることはありませんでした。こうした数々の謎を残したまま、
「 だが、それは永久に解き難き謎であった。再び「恐怖王」が活躍を始めるか、行衛不明のゴリラ男が姿を現わすか、それとも亦(また)、あの鎌倉の空に「恐怖王」の文字を描いた怪飛行機の操縦者が名乗って出るまでは(不思議なことに、その操縦者は、いくら探しても、いつまでたっても現われて来なかったが)これらの疑いは、いまわしき幻想でしかなかった。」
という文章で物語は終わってしまいます。
いやー、かなりハチャメチャな結末ですねーーーー。結局事件は解決してないし。でも、この独特の雰囲気を持つ終わり方が、僕の心をぐっと掴んだのです。そして、僕の心の中でこの作品の価値がグッと高まったのです。

さて、勢いに乗せて書いてしまいましたが、いかがだったでしょうか?個人的な乱歩の最高作のってことで、ノリノリで書いちゃいました…..僕のレビューに意見がある人は、ぜひぜひコメントよろしくお願いします!


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