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メガネ選びと自己肯定感

「ウチの子は変わってる」と思ったことがない親はいないと思います。わが子が変わっていると感じる場面は、子どもに何かを選ばせたときに遭遇します。メガネ選びも同様です。

メガネ販売員である私は、毎日子どものメガネ選びに立ち会います。そのとき、子ども自身がかけたいメガネと、親がかけて欲しいメガネが違うシーンに遭遇します。第三者からの立場だと子どもがかけたいメガネがいいのでは?となりますが親となるとそうもいきません。

 私自身も2人の子の親なので気持ちがよくわかります。「無難なデザイン」や「落ち着いたらカラー」をかけて欲しい理由は「飽きずに長く使って欲しい」や「友だちにバカにされてほしくない」だったりします。なぜそう思うのか、それは子どもの人生に困難ができるだけ起こりませんように、という愛情からそうなるのだと思います。

娘が学校の検診で引っかかりました。眼科で処方箋を発行してもらいメガネをつくることに。
自分の娘のメガネ選びです。私が選んだフレームは、無難な楕円形、嫌いな女の子はいないであろうピンク、さらに透明感があるので目立つ感じもないデザイン。しかし、娘が選んだのは

絶対に目立つまん丸のメガネ、不思議に拍車がかかりそうなパープル、透明感はあるのでまだ救いとなるデザインだったのです。

まるい。丸すぎる。女の子はピンク好きという私の時代錯誤は置いておいたとしてもまるい。まるいメガネが流行ってるとはいえ、丸のサイズが大きすぎる。ミニオンズのなかまみたいじゃないか。と焦ります。例にもれず「ウチの子変わってるな~」と心の中でつぶやきます。
焦る理由は前述のとおり、「飽きるんじゃないか」、「学校でバカにされるんじゃないか」などです。

一応親が選んだメガネもかけてもらいます。しかし、すぐに外します。通常ならここで「ハートかわいいよー」や、「パパはこっちが好きかなあ」という観客が家族のみの家庭内俳優にならなければなりません。しかし、今回はサブスクのプランにすることでその演技は必要なくなりました。

簡単に説明すると、月額の金額を3年間払い続けることでその期間は何回でもメガネが交換可能。つまりもし子どもが気に入らなかったら交換ができるのです。

宣伝かよと思った人もいると思います。そう思われても仕方ないかもしれませんが違います。実は、この前に上の息子のメガネを買う時がありました。その時はそんなに交換しないし、モノを大切に扱わせたかったので迷わず通常購入を選びました。その時のメガネ選びもどことなく親が誘導したと思います。

今回はサブスクのプランにすることで、私は完全に見透かされる演技をする必要はなくなり、娘は気に入ったメガネを手に入れることができました。

このメガネのどこが気に入ったの?と聞いたら「パープルが好きなのと、丸が好きだから、四角はきらい」という実にシンプルなこたえでした。そして、そこには他人が見たらどう思うかという考え方は入っていませんでした。これは今よく言われる「自己肯定感」というものなのかもしれません。成長したら否が応でも他人の目を気にしだします。むしろそっちでしか生きられないようになってしまった自分には、幼い頃のこの体験か足りなかったのかと振り返ってしまいました。

できあがったメガネを娘はとても気に入りました。お風呂と寝るとき以外はずっとかけています。ミニオンズのなかまに仲間入りです。

それからしばらくたったある日、娘が学校でクラスメイトから「派手メガネ」と言われたとこぼしました。親としては落ち込んでるんだろうと、ヒヤヒヤです。「嫌な気持ちにならなかった?」と聞いた答えは意外にも全く反対でした。

「べつにぃ」とたった一言。こちらの心配をよそに全く気にしていなかったのです。

その瞬間私は「かっこいいな」と1人の人間として娘に憧れを抱きました。そして親として子どもに1番与えたかったものはこれだったかもしれないなと気づきました。

本当に育みたかったのは集団の中で目立つことで攻撃されないような処世術よりも、自分らしく生きた結果、目立ったとしても周りの反応に左右されない心の芯のようなものだということです。

これからも、心配で無駄な苦労はさせたくないという気持ちは夫婦共々消えることはないと思います。心では育児書や世間で言われる自己肯定感の大切さもわかります。しかし、いろんな理由ですべてが本の通りに育てられるわけではありません。

ランドセル選びだってそれとなく落ち着いた色に誘導しました。スーパーマーケットに行っても、人工由来成分であろうキラキラしているお菓子はやめなさいと言ってしまいます。でも、このメガネ選びを通しては親としてちょっとだけ娘にいいことしたかなと思いました。

好きなものを選ばずに育ってきた親でも、わが子には好きなものを選ばせてあげたいという気持ち。これは本能だと思います。ただ、次の瞬間自分が通ってきた過去の安全なレールを子どもの未来に無理やり敷いて現実的な判断をしがちです。愛情の裏返しに子どもが気づけるはずもありません。

いろんなメガネをかけ替える楽しさを体験させることもできる。気に入ったメガネをまわりの誰にも干渉させることなく使わせることもできる。もし、気持ちが変わればメガネを交換すればいい。他人の意見があっても最終的な決定権が子どもに与えられることで、子どもが自信を持てるようになります。自分を信じる練習をさせることが子育ての第一歩なのかもしれません。

半年後、娘は学校の視力検査でC判定でした。レンズを作り直さなければなりません。顔も大きくなってきたのでフレームとレンズを交換することになりました。次はどんなフレームを選ぶのか。わくわくしながら選んだフレームは

サイズがひとまわり大きくなったまったく同じフレームでした。さすがに、「もっといろいろあるよ。」と声をかけましたが「これがいい。」と一言。親としてよけいな一言だったようです。

娘の心の芯はしっかりしているようです。それが一番うれしかった話でした。

新しいメガネをかけた娘は笑うとほっぺがメガネのアンダーリムに当たります。そんなことは全く気にしない心で今日も元気に小学校に行きました。いってらっしゃい。



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