見出し画像

病棟診療におけるホスピタリストの活動―多職種で取り組む「薬の整理」―

皆様こんにちは。今回はホスピタリストが病院でどのような活動をしているのか、その一例についてお話をしたいと思います。

薬の整理(Medication reconciliation)を通じて高める医療の質と安全

病棟で患者さんとお話をすると、「薬が多くてお腹いっぱいになって困る」とおっしゃる方が少なくありません。また「薬が多いと思うけれど、飲んでいないと心配」という、複雑な心境になっていらっしゃることもあるようです。入院患者さんの診療に多職種でとりくみ、上手にみるのが私たちの得意なことです。その一例として、薬の問題を解決するのに、患者さんが自分で管理できる範囲を把握して薬を使用するのを補助している看護師さん、薬の処方の状況を把握してくださる薬剤師さん、そして患者さんの病状を把握し、何が必要な薬で、どれが優先度の低い薬なのかを考える医師が関わる「薬の整理(Medication reconciliation)」(1)があります。あまり重要性が高くない薬や副作用による害のほうが大きい可能性のある薬が減ると、患者さんの生活の質(QOL)の向上につながります。再入院を減らすというメタアナリシス(複数の研究をまとめた分析)の結果もあり(2)、診療の質を向上する重要な要素だと考えています。

潜在的に不適切な処方(potentially inappropriate medications: PIMs)とは

薬は患者さんの健康状態を維持する・病気の再発を防ぐ、など、薬は必要だから飲んでいるのは勿論のことです。しかし、薬の整理を行なっていくと、中には副作用にくらべて効能を考えると優先度が低い薬があったり、また薬剤の副作用に対して処方されているのでは?と疑わしい薬もあったりします。またその逆に必要な薬が処方されていない、ということがわかる場合もあります。「潜在的に不適切な処方(potentially inappropriate medications: PIMs)」という考え方があり、65歳以上の患者さんにおけるPIMsの参考になるリストにBeer’s基準(3)やSTART/STOPP基準 (4)というリストがあります。

薬の整理の実際:当院での取り組み

私の勤務している病院では定期的に患者さんの薬を見直すカンファレンスを開いています。主に多剤内服(5剤以上)中の患者さんについて話し合います。どんな薬をどれくらい処方されているのか(Best possible medication history; BPMH)、入院時に薬剤師さんが情報収集しリストを作成します。さらにどんな目的で処方されているのかについても推定します。このBPMHリストと、Beer’s基準やSTART/STOPP基準を参照しながら、患者さんの過去・現在そして予想される未来の経過をふまえて、必要な薬と優先度が低い薬を見極め、優先度が低く内服する必要がなさそうであれば減量・中止し、一方で、病状を考えると必要な薬があれば、新たに処方するのを検討します。このプロセスを通じて薬の取捨選択を行い、実際に薬を提供する看護師さんとも処方の変更についての情報を共有します。

薬の整理の最後のプロセス:ケアの移行

薬についての情報は、いま話題のケアの移行にも重要な要素になっています(いずれ本noteでも取り上げられるかもしれません)(5)。患者さんの容態が落ち着いて退院が近づいてきたら、薬の中止や変更があれば、その理由を診療情報提供書(主に退院後の主治医にわたる文書)や退院療養計画書(ご家族やご親類、他関係者にわたる文書)に記載し、退院時の面談でもご本人、ご家族と情報を共有します。こうすることによって、もとの処方に戻ってしまわないように工夫しています(それでも、かかりつけの先生のもとで、元々の処方に戻っていることも少なくないのですが・・・)。

最後に

 いかがでしたでしょうか。今回はホスピタリストが関わる診療の質の向上について一例をご紹介しました。私たちは、もっと広く、診療の質を高める活動をしたい!と考え、2022年8月から、研修医の先生方向けの雑誌「レジデントノート」「内科病棟診療のためのPractice-Changing Evidence」という連載を開始しています。日々の内科診療の標準化を目指し、少しでも診療の質を向上できればと思いながら原稿を書いています。バックナンバーの9月号では市中肺炎の治療期間を適切に決めるためのエビデンスと、10月号では脳梗塞の再発予防をリスクとベネフィットを勘案して決めるためのエビデンスについてご紹介しています。まさに診療が変わること請け合いです。よろしければご一読ください!

文責 鈴木智晴 (浦添総合病院 病院総合内科)

薬の整理に役立つ推薦図書

総合診療医がケースで教える 副作用を診るロジック 原田 拓 編 じほう2019年

薬の上手な出し方&やめ方 矢吹 拓 編 医学書院 2020年

高齢者頻用薬ミニマム処方戦略 原田 拓 編 日本醫事新報社 2022年

参考文献

1. Mekonnen AB, McLachlan AJ, Brien JA. Effectiveness of pharmacist-led medication reconciliation programmes on clinical outcomes at hospital transitions: a systematic review and meta-analysis. BMJ Open. Feb 23 2016;6(2):e010003. doi:10.1136/bmjopen-2015-010003

2. Tomlinson J, Cheong VL, Fylan B, et al. Successful care transitions for older people: a systematic review and meta-analysis of the effects of interventions that support medication continuity. Age Ageing. Jul 1 2020;49(4):558-569. doi:10.1093/ageing/afaa002

3. American Geriatrics Society 2019 Updated AGS Beers Criteria® for Potentially Inappropriate Medication Use in Older Adults. J Am Geriatr Soc. Apr 2019;67(4):674-694. doi:10.1111/jgs.15767

4. O'Mahony D, O'Sullivan D, Byrne S, O'Connor MN, Ryan C, Gallagher P. STOPP/START criteria for potentially inappropriate prescribing in older people: version 2. Age Ageing. Mar 2015;44(2):213-8. doi:10.1093/ageing/afu145

5. Kripalani S, LeFevre F, Phillips CO, Williams MV, Basaviah P, Baker DW. Deficits in communication and information transfer between hospital-based and primary care physicians: implications for patient safety and continuity of care. Jama. Feb 28 2007;297(8):831-41. doi:10.1001/jama.297.8.831

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?