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担当ホストとの出会い|エッセイ

人生ではじめて、ホストクラブへ足を運んだ。最初で最後、たった一度きりの人生経験にするつもりだった。なのに、気づけばまたその場所へ足を運んでいた。こうして狂ってゆくのだという実感だけが確かに痛い。

そこで出会ったホストの彼は、私と同い年だった。これは夢かと疑ってしまうほど眉目秀麗な彼は、私と同じ煙草を吸っていた。眩しすぎるほどの顔面を前に、鏡月の緑茶割りを何度も何度も体内へ流しこんでゆく。お喋りに花が咲いてしまえば、もう何杯飲んだのかさえわからなくなった。彼らはプロだ。

ホストにお金をつぎ込むなんてどうかしている。私もはじめはそう思っていた。なのに、どうにも“楽”だと感じてしまった。お金で最上級に幸せな時間を買う。それは対人関係の美しい上澄みだけを掬い取るようなずるい行為だった。

シャンパンを1本おろせば、他の卓から戻ってきた彼がドッキリでも受けたかのようにびっくりしてくれる。人生初のシャンパンコールは賑やかで愉快で豪勢だった。何人ものホストが私たちの卓を取り囲んで、マイク片手にコールをする。

唖然とした彼は動揺したままマイクを握って、ありがとうと言ってくれた。そうか、これが沼落ちというものか、と不思議なほど当然に感じた。シャンパンの泡が弾けて、喉を滑り落ちてゆく。あぶくのような時間だけが、きらきらと通り過ぎていった。

初回、飲み直し、そしてシャンパンコール。人生初のホストクラブを謳歌した私たちは、そのままアフターへ出かけた。カラオケバーに揃った私と友人、担当ホストたちと、仲良くなったヘルプのホスト。ずっと隣にいてくれる担当ホストが美しすぎて、歌いながらもずっと見惚れていた。彼に中学生のころの写真を見せてもらうと、今よりもあどけないだけで骨格はそのまま。生まれながらにしてこんなにも美しいなんて、と、ルッキズムに塗れた私は嫉妬さえ覚えた。

そのカラオケバーでも、私はずっと緑茶ハイを飲んでいた。麻痺した舌は、もうアルコールを感じない。ホストの営業時間は終了しているというのに、彼らは何度もお酒を作ってはグラスの水滴を拭ってくれる。担当となった彼と宇多田ヒカルをデュエットして、私はなんだか泣いてしまいそうだった。

もう、こんなに幸せな夜はきっとない。こんなに楽しくお酒を飲めることも、おいしく感じられることも。それは刺激的な非日常を体験して脳がおかしくなってしまったせい、だったのかもしれない。だけれどなににも代え難い、誰に揶揄されたって誇れるほどの幸せな時間を、私はもらった。


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