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【読書日記】『猫と罰』

『猫と罰』宇津木健太郎



昨年嬉しくて狂喜乱舞したできごとのひとつはもちろん自分の創作大賞受賞なのだけれど、もうひとつは宇津木健太郎さんが日本ファンタジーノベル大賞を受賞したこと。

私と宇津木さんはエブリスタ×竹書房最恐小説大賞の受賞者で、私が第1回、宇津木さんが第2回。宇津木さんの受賞作『森が呼ぶ』を読んだ時、面白くて上手い人が来てくれた嬉しいなあと思ったものです。





それからTwitter(X)で交流するようになり、宇津木さんが果敢に文芸の新人賞に挑戦する姿を見てきました。恐るべきスピードで執筆する彼の姿に私は何度も励まされました。

創作の世界はみんな違ってみんないいはずなのに、どうしても一番にならないといけない時があります。そしていいところまで行って一番になれなかった時のダメージは大きい。

宇津木さんはこの受賞まで、かなりいいところまでいったことが何度もあった。

きっといいところまでいけたのだからそれでいいではないかと思われる人もいるかもしれないけれど、いいところまでいくと期待が大きくなる分ダメージが大きい。それは私が何度もコンテストの最終選考で落ち続けたから手に取るように分かるのです。

落胆や焦り。これと戦い続けるのが本当にしんどい時だってあったのではないかと思います。それは私がそうだから。

それでも、黙々と書き、新人賞に応募し、さらには文フリの新刊まで書く彼の姿に怠け者の私はただただ頭が下がり、何度も「よし! 私も書くぞ」となりました。

受賞作の『猫と罰』はそんな宇津木さんの小説に対する想い。物語を紡ぐということに対する想いが痛いほどに伝わってくる場面がふんだんにあり、物語を紡ぐ私自身も涙なしには読めませんでした。

主人公は「己(おれ)」という一人称をつかう黒猫。 

彼は「猫には九つの命がある」ということわざ通りに、何回かの人生(猫生)を終えて今最後の九つめの命。

そして三つめの猫生である文豪の飼い猫だったことということが、冒頭で分かります。

今までのこの「己」の猫生、三つ目以外がかなりハードで、胸が痛くなります。そして、ハードだったが故に最後の九回目の猫生にまったく期待しておらず諦観が漂っています。

九つ目の猫生で家族と離ればなれになった「己」は街に向かうことを決意し、古書店「北斗堂」にたどり着き、店主の魔女、北星恵梨香と四匹の猫たちに出会うのですが、どうもこの魔女はなにやらとても謎めいていて、訳ありのようなのですが……。

「己」のこれまでの猫生のエピソードと、心を閉ざしている「己」と他の猫たちの様子。そして、タイトルの「罰」とは一体なんなのか? この三つにより、どんどん読み進めたくなるストーリーです。

ぜひとも、ここから先は書籍を読んでいただきたいと思います。

私個人としては、猫の描写にうんうんうなずきながら「私の猫」のことを思い出しました。

私が小学校四年生の時でした。雨の日にどこかで仔猫が鳴く声が聞こえて必死で探したのです。ようやく見つけて、目が合うと彼女は私に駆け寄ってきました。私はずぶ濡れの彼女を家に連れて帰りました。

「猫に一宿一飯の恩義なんて分かるはずないと思っていたが、こいつはちゃんと分かってるな」

よく父がそう言っていました。彼女は私が拾って連れて帰ったことをずっと覚えているようなところがありました。私のことが一番好き。それをいつもアピールしているようなかんじ。

そして、とてもかしこい仔でした。

彼女はいつの日か帰らなくなりました。
産後の肥立ちが悪かったので、死期を予感していなくなったのだろうと思います。

実家では彼女がいなくなってからも何度か猫を飼いました。

でも「私の猫」は彼女だけです。

彼女はいくつ目だったんだろう? 五つ目くらいな気がするな。

そして彼女に「真名」をあげられたのが私だったらいいな。

そんな、想像をして温かい気持ちになりました。

おすすめです。



宇津木さんのインタビューこちらから読めますので、こちらも合わせておすすめです!

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