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オースティンにて

昨年の始め、仕事の関係でアメリカはテキサス州オースティンに行った。

サウスバイサウスウエスト(sxsw)に出展する日本企業の依頼で、僕たちは展示会場入り口付近に設置するインスタレーションを作っていた。
制作自体は順調で、残すところは微調整と設置を現地の会場で行うだけ。
僕、アートディレクター、CTOの3人で開催前日にオースティンに入り、テキサス名物のステーキを食べたり、巨大なシェイクを飲んだりして、比較的穏やかな前夜を過ごした。

ホテルは、オースティン市内からは離れていた。いわゆる郊外で、周りには映画やドラマでみたような、一つ一つの造りが大きい家が立ち並んでいた。なにも建っていない土地には芝生が植えられていて、高い建物はひとつもない。
夜になれば真っ暗で、寂しかった。鈴虫やカエルが泣いていて、鈴虫もカエルも世界各地にいるんだなぁと思った。

救いだったのは、ホテルに隣接するデニーズとセブンイレブンだ。もちろん中の従業員はアメリカ人だが、外見は日本のそれとまったく変わらない。
なにかその2つの建物たちの立ち振舞いというか、見知った形が僕を安心させてくれた。

セブンイレブンにはよく行った。スナック菓子や朝ごはん、ビールなんかを買った。夜の時間帯にいる、アフリカ系アメリカ人のおばさんにつたない英語で会計のお願いをすると「は!おまえ英語できねえのかよ!まったく!」みたいなことを英語で言われた。英語は分からないが、不機嫌な顔である。歓迎されていないことはわかった。

それでもそこ以外買い物も当てもないので、毎日、欠かさず2回、食料品を買いに行った。すると不思議なもので、少しずつ仲良くなってゆく。
英語ができないことを前提にあちらもコミュニケーションをしてくれる。

出発の前日には、笑顔で少し話しかけられて「シーユーアゲイン!」と言われた。「ああ、もうおれは明日の早朝の便で帰っちゃんだ、でもまた来るぜ」みたいなことを言いたかったが、英語ができないので、それも叶わなかった。アメリカは、食も文化もまったく合わなくて、もう金輪際行きたくないと思っていたが、そのおばさんとの別れは、なんだか少しもったいないように感じた。
せっかく仲良くなったのに、と思った。

最後の日には、オースティンと名前の書いた爪切りを、そこで買った。
毎週月曜日の朝は決まって、その爪切りで、爪を切ってから出社するようにしている。僕はそのたびに、そのオースティンのセブンイレブンのことを思い出している。

#ありがとう


もしサポートいただけたら、こどものおむつ代にさせていただきます。はやくトイレトレーニングもさせなきゃなのですが...