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僕らの秘密基地は〇〇

私たちが子供の頃、今のように溢れんばかりのSNSやゲームが存在しなかった時代、
実に様々な遊びを自分たちで作り上げて楽しんでいた。

今日はそのうちの1つを紹介しよう。

小学6年のとき、男女混合遊びグループがあって、いつも5、6人でつるんで遊んでいた。
ある日、1人の男子がこういった。
「あそこのパチンコ屋潰れたぜ。今廃墟になっているらしい。中に入れないかな?」




…そんなわけで私たちは廃墟となったパチンコ屋に潜入することにした。

パチンコ屋の1階はパチンコ台がずらりとこちらを眺めていて、少し怖かったが、窓から差し込む昼下がりの光が優しくほくそ笑んでいて、このリスキーな悪ガキたちの冒険をそっと見守るかのごとく背中を押してくれているようだった。

パチンコ屋外周を1周ぐるりと回ると、小さな裏門のような場所を見つけた。そして高さのある金網の向こうに外付け階段があるのが見えた。
私たちは金網を登って中に入ってみる。

1人ずつ軽々と登っては入ってを繰り返した。
その間大人たちに見つからないか外回りを警備している者もいた。

全員が中に入ったところで、パチンコ屋全体の構造を把握しに探索することにした。

パチンコ屋1階はパチンコ台がずらりと並んでおり、2階は屋根付きの駐車場で小学校の体育館ほどの広さがあった。3階は屋上。そして屋上にはボイラー室のようなタンクがあった。

そして外付け階段を上ると、踊り場のような場所があって、驚くことにそこに誰かが住んでいた形跡が残されていた。
踊り場には、ぼろいソファー、ラジオ、漫画雑誌など、小さな本棚、汚れたマットなどが置かれていた。

…ここは格好の遊び場だ。ここに秘密基地を作ろう!




…そんなわけで、私たちはパチンコ屋に秘密基地を作ることにした。

ワクワクが止まらない。ときめきが止まらない。最高にスリリングな、イケナイ遊びを見つけてしまった気がする。

秘密基地に足りない家具などは自分たちで探しに行った。

粗大ゴミの日になると、各々のマンションのゴミ捨て場を眺めると、まだまだ使えそうな破れてスポンジが飛び出しているソファー、ぼろぼろのテレビ、冷凍庫が使えない冷蔵庫、カビ臭いエアコン、パイプベッド、でないが音がたくさんあるキーボード、表面がゲジゲジのテーブルや椅子、そういったありとあらゆるものが簡単に手に入った。
一通り集めると普通に住めるのではないか?
…そんなワクワクが道端にたくさん転がっている時代であった。

電気がなかったので、電池で稼働するランタンを手に入れたり、床に敷くマットを敷き詰めてみたり、外付け階段の踊り場部分であったため壁がなかったので、ありとあらゆる段ボールをスーパーの自由に持って帰っていいコーナーから拾い集めて壁を作ってみたりした。

誰かが「布団が欲しい」と言い出したので、布団も粗大ゴミの日にゲットした。
さすがに誰が寝ていたかわからない布団だから洗おうということで、当時の子供たちのたまり場であった駄菓子屋の目と鼻の先にあるコインランドリーに粗大ゴミの布団をぶち込んで洗濯して洗った。
布団はそこそこふわふわになって、子供ながらにいいアイデアだったと思った。

また、道端に亀が歩いていたときは、拾って秘密基地で飼うことにした。
名前は多数決でカメきちに決まった。

自分たちでマイホームを作っていくかのような楽しみ。
家では「ペットなんてだめ!」と親に怒られてしまうペットも自由に飼える。

最高だった。

秘密基地には私たちのグループと、1学年下のグループが共同で住んでいて、どんどんとものが増えて秘密基地らしくなっていった。
秘密基地に置いてあるものは誰が使っても良くて、誰かが新しくものを持ち込んでもいいルールにしていた。




2階の小学校の体育館位の広さがある屋根付き駐車場では誰が持ち込んだかわからないサッカーボールでサッカーをして遊んだ。
3階の屋上にあるボイラー室のようなタンクには梯子(はしご)が付いていて、時々肝試しに恐る恐る誰かが登ってみる遊びもした。


…そんなある日、秘密基地によじ登って出入りしていた金網の外にホームレスと思わしきおじさんが立っていた。

どうしたのか話を聞いてみると、なんと、秘密基地の元住人だった。
あの誰かが住んでいた形跡はこのおじさんだったのだ。

おじさんは、
「漫画や雑誌を置いていたんだが、金網が張られてしまって自分は入れなくなってしまったから、漫画雑誌類を出してくれないか?」

…とお願いをしてきたから、私たちはえっさほいさとすべての漫画や雑誌を手分けして運んではおじさんに渡してあげた。
私たち自身も結構あの漫画雑誌で楽しませてもらったし自由に読みまくったから、たくさん楽しませてもらって感謝だ。

すべての漫画雑誌をおじさんに渡すと、「ありがとう。このお金でジュースなり飲んでくれや。」となけなしの500円玉を渡してくれたけど、子供ながらにホームレスのおじさんからもらうなど申し訳ないと思って断った。500円を稼ごうと思うとどれだけたくさんのアルミ缶を拾わなければいけないのか。そんな考えがよぎったからだ。



…そんな楽しい秘密基地生活はある日突然幕を閉じる。

パチンコ屋の改装工事が始まるらしく、今までは金網を登れば秘密基地に入れたのだが、
金網が鉄格子に変わってしまった。

これをきっかけに、僕らの秘密基地生活は幕を閉じる。

…カメきち元気かな?

…持ち込んだおもちゃ取りにいけなくなっちゃったな。


しかし、私たちに見せてくれた夢の世界と幻想的な記憶は今もなお私たちの心で生き続けて思い出を刻んでいるのだ。

ほとんどの子供の頃の記憶は吹っ飛んでしまってもう残されていないのだけど、こういった超絶楽しかった思い出だけは心の片隅にいつまでも残っている。

大人になったらできない遊び、子供だからこそできる遊び。

もう子供時代には戻ることができないけれど、こういった一つ一つの体験、大人にダメだと言われてしまうような体験も含めてが、子供の探究心を育んでいくのだろうと今だから思える。

だんだんと時代が進むにつれて子供がのびのびと自由に遊べる場所や環境が少なくなってきてしまったからこそ、この鮮明なカラーの思い出を残して語り継ぎたいと思った。

…だから今日はこのエッセイを、『未来に残したい風景』として描き遺そう。

星野希望











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