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「かものはしプロジェクト」理事4年間で学んだ3つのこと

認定NPO法人かものはしプロジェクトの理事を昨日(2024年6月29日)の総会をもって退任しました。4年間で私は多くを学びました。

かものはしプロジェクトは、不条理な状況にある子どもたちがそこから抜け出し立ち上がれるように、そしてその状況が発生しなくなるように活動しているNPOです。大学生だった村田さん、青木さん、本木さんの3人が2002年に立ち上げ、カンボジア、インド、そして日本で事業を行ってきました。

私はビジネスの経験しかなく、社会活動や子どもの支援については素人です。2020年、かものはしプロジェクトに外部から理事としてかかわるにあたり、次の抱負を述べました。

 辛い目にあい続けた女性たちが、支援者のサポートを受けながら自己探求を続ける。そのうち自分の痛みのさらに奥にある「内なる声」に気づき、大きく力強く変容していく。そうした女性たちを支援する人々も、共に成長する。メリンダ・ゲイツ著「いま、翔び立つとき」に書かれていた著者自身の経験談に、私は感銘を受けて、感想をウェブに書いた。「自分たちの活動も、そうなんです」と、かものはしプロジェクトの皆さんが連絡をくださった。
 お話を伺い、かものはしプロジェクトでは、目の前の問題とその周辺に止まらず、問題の構造を幅広く捉えて活動の照準を定めるアプローチを取ろうとしていることも教えてもらった。とても優れていると感じた。
 かものはしプロジェクトは、活動の場を日本にも広げていて、いま、過渡期にある。いままで培った姿勢をさらに磨き、世の中がかものはしプロジェクトに期待する課題に応えられる存在であるよう、私も理事として力を尽くす所存だ。

4年経って、退任が決まった総会の終了後、理事と職員の皆さんが送別会を開いてくださいました。そこで「かものはしを尊敬して学んだ3つのこと」をお話ししました。


1.<人間観・社会観>支援する側・される側や加害者・被害者などの立ち位置を固定せず、「共に」という考え方に根ざした活動を行っている

私は社会活動や困難な状況にある人への支援に関して、まったくの素人の一般人です。一般人なりにそうした活動の役に立ちたい、支援したいと思うのですが、「支援する側・される側」に立ち位置が固定されがちであるように感じ、そこが少し気になって踏み込めずにいました。

その点で、かものはしプロジェクトは、支援する側・される側や加害者・被害者などの立ち位置を固定しない、という姿勢が徹底しています。例えば、一般的には被害者とされる方々を支援する活動に関わる私も「その状況に置かれたら加害者になっていたかもしれない」と気づくこと。支援される側が変容してリーダーシップを発揮するようになれば、それに導かれながら支援する側も成長していくなど「共に変容する」こと。インドで行っているLeadership Next 事業はその一例です。

さまざまな要素がお互いに影響し合うシステムとして社会をとらえ、そのシステムに影響されて個人は加害者にも被害者にもなり得るし、支援する側だと思っていた自分が支援される(教わる)側になることもある。そして団体名に「プロジェクト」が入っていることに象徴されるように、システムが変わってかものはしが関与する役割を終えて「プロジェクト終了」することを目指している。

こうした人間観と社会構造の捉え方が、かものはしの根底にありつづけ、実践を通して深くなっています。この4年間、理事会で教えていただく事例や状況と皆さんとの議論を通じて、この人間観と社会構造の捉え方が継続的に実践できるものだと学びました。

2. <経営>NPOの経営は株式会社より難しい

あくまで私の経験に限定した主観ですが、NPOの経営は株式会社より難しいと感じてきました。ひとつには利益という基準の有無です。株式会社は利益を出す事業を行うために設計された仕組みです。利益をどう位置付けるか考え方は様々ありますが、やはり利益という分かりやすい物差しがあると、ないよりも意思決定はシンプルだと感じます。

もうひとつは、社会に蓄積された知見の差です。株式会社については、どう経営するか、社会の負託にどう応えるか、構造的なリスクはどこにあってどう回避するか…など、多くの実務家、行政、研究者が約300年にわたって試行錯誤をしてきた蓄積があります。一方の非営利事業は、実践こそ歴史を通して数多くあるものの、経営に関する研究者による知見の蓄積・体系化にしろ行政による汎用ツール化(制度化)にしろ、株式会社と比べると厚みがありません。そのため過去の実践の知見が活かされにくく、個々の団体とその経営者の経験の範囲内で経営判断することになりがちだと感じてきました。

かものはしプロジェクトという個別課題において、ガバナンスはどうあるべきかという問いに対し、めちゃ難しいなと思いながら、かものはしの皆さんと少しずつ解を作ってきました。検討を通して、私は比較対象として株式会社のガバナンスを参照し、結果的に株式会社一般への理解を深めることができました。

3.<事業観・リーダーシップ >「自分たちが苦しまなければ」から「自分も大切に」へと自らアップデートできた

かものはしは、不条理な状況にある子どもたちがそこから抜け出し立ち上がれるように、そしてその状況が発生しなくなるように事業活動をしています。そこでは、大変な状況にある方に接するだけでも、心が揺さぶられ痛みを感じます。そうした方を前にして、自分は何者としてそこにいるのか…。「事業を提供している我々が『苦しみ』『痛み』を知らないと、受益者である人々を理解できないため、意味ある活動ができないのではないか」という問いが出てきます。

その問いに加え、1. の例で示した「一般的には被害者とされる方々を支援する活動に関わる私も『その状況に置かれたら加害者になっていたかもしれない』と認識すること」という人間観・社会観が重なってきます。

4年前に理事に就任した時期は、この重なりがマイナス作用をすることがあるように見えました。「事業で価値を出すには、事業を運営する自分たちはもっとつらい思いをしないといけない」というような事業観が半ば無意識のうちに生まれ、その引力が事業と組織に影響を及ぼした場面もあったと私は見ています。

その中で、かものはしプロジェクトは2022年にミッションを刷新しました。

だれもが、尊厳を大切にし、大切にされている世界を育む

https://www.kamonohashi-project.net/blog/8853/

新ミッションを検討し、決定し、実践していくプロセスを通して、かものはし自身の事業観が変わってきました。「事業で価値を出すには、事業を運営する自分たちも自らを大切にする」ことを明確にし、日々の実践において留意するようになってきています。

「自分たちが苦しまなければ」から「自分も大切に」へと、自ら事業観の変化を起こすのは簡単なことではありません。とくに共同創業者3名がいまも理事長や幹部として活躍している中で、このような質的な変容を実現しつつあるのは特筆すべきと思います。共同創業者3名を中心とする幹部の皆さんが課題から逃げずに互いに鍛え合った結果、個人として成熟し、お互いの関係性が変化することで、事業観のアップデートが起きたと見ています。

2020年の就任時の抱負に「いま、過渡期にある」と書きました。トランジションを乗り越えていくプロセスに伴走(というか見守るだけ)し、私も多くを学び感銘を受けました。

「篠田語録」をプレゼントされる

私はかものはしプロジェクトの人間観・社会観と、それを実践する活動、実践している職員の皆さんを心から尊敬し、本当にすごいと思っています。そして、非常に複雑で心が痛む課題に向き合って活動しているからこそ、職員の皆さんは視野が少し狭まる、視点がずれる、エネルギーが落ちる…といったことがどうしても起きてしまうことがあります。何を大切にするかが複雑に絡み合って、内部の交通整理が滞ることもあります。そのように見えた時、かものはしの人間観・社会観を一緒に思い出し次の一歩を踏み出すことを願って、理事会で発言をしてきました。

そしたら送別会で「篠田語録」をプレゼントしていただきました。理事会の議事録を掘り起こして、職員の皆さんが印象に残った23の発言を冊子にまとめてくださった労作です。感激しました。

まさかの冊子!
4年間の議事録から抜粋し、レイアウトしてくださいました。

理事会では、その都度その文脈の中で発言しており、正直言って「あのときこう言った」ことまではつぶさに覚えていません。でも読んでいくと、その時の課題、状況、私が発言をした意図はどんどん思い出していきます。そしてむしろ、今の自分の本業(エール)の経営にあたり、自分に役に立ちそうだなと思いました。

4年間、本当に多くを学びました。このnote は、4年間を共にしたかものはしプロジェクトの理事・職員、1万数千人のサポート会員、事業パートナー、ほか様々なステークホルダーの皆さんへの感謝をお伝えしたく、書きました。

これからは毎月寄付をする会員として、理事・職員の皆さんの友人として、かものはしプロジェクトを応援していきます。

今日は、以上です。ごきげんよう。

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