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「科学的に正しい」と「不安を解消」のはざま (「知ろうとすること」) | きのう、なに読んだ?

「知ろうとすること」という本がある。福島第一原発の事故の発生直後から、ツイッターでデータを発信し続けた早野龍五さん(当時、東大の物理学教授)と糸井重里さんの対談だ。早野さんは、福島で放射線の影響を測定し続け、発表した。高校生を指導して、所属してたスイスのCERNで発表する機会も作った。

早野さんのプロジェクトのひとつに「ベビースキャン」がある。赤ちゃんの内部被曝を測定する機械を世界で初めて開発したものだ。「ベビースキャン」は、なぜ必要だったのか。早野さんの考えから「科学的に正しいこと」と「不安を解消すること」の関係を学ぶことができる。

コロナウイルスに感染しているかを測るPCR検査を希望しても、できないという不安や不満の声が出ている。科学的には、一般の風邪症状の人の検査は必要ないとされている。仮に陽性でも治療薬がない、というのが理由だ。また、2020年2月27日、コロナウイルスの流行防止策として、首相から全国の小中高に休校要請が出された。感染症専門家の中には、この措置が科学的に必要なのか、疑問視する声もある。街では、トイレットペーパー などが品切れになった。「科学的に正しい行動」と「不安を解消したい」気持ちの間で、私たちは揺れ動いている。いま、この状況に、早野さんの考え方は支えになる。以下、該当箇所をいくつか引用する。

測るというだけだったら、イメージなんてどうでもいいんだけど、この機械(ベビースキャン)が何のために必要なのかっていうと、測って、抱えた心配を取り除くっていうことが重要で、測ってよかったねっていう気持ちになるような機械じゃないと、失敗だと思ったんですよ。
(ベビースキャンは、科学的に)必要ない。大人の方がセシウム代謝が遅く、体内に残りやすいので、子どもより検出されやすい。ですから科学的には、同じ食事をしている家族を測って検出されないなら、一緒に暮らしている乳幼児の内部被ばくの心配をする必要はありません。でも、お子さんの被ばくを心配しているお母さんに、「お母さんを測って大丈夫なら、科学的に問題ありませんよ」と言っても、やっぱり納得されないんですよね。(略)「この子を測ってください」って必ず言われるんです。ですからやはり、科学的には必要なくても、ベビースキャンは必要なんです。
「放射線の影響をとても心配しているお母さんたち」と話してみると、お母さんたちが何を心配しているのか、ということが具体的に分かります。ひとつひとつ伺っていくと、驚くようなこともありますよ。ぼくたちが想像もできないようなことを心配していたりして。やっぱり、お互い話さないと、理解できないし、心配は消えないわけです。ベビースキャンは、そういう方たちと話して、不安を解消してもらうためのコミュニケーションツールだというのが、大事なポイントです。

今日は、以上です。ごきげんよう。

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