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研究室選びに悩んだ時にやってほしい「良い研究室」の見つけ方①

学部生の研究室選び

最近ツイッターで「高校生が研究室を探すときに注意してほしいこと」について、tanaka(モデルナ)のツイートがバズっていました(図1)。


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図1. tanaka(モデルナ)さんのツイート
<https://twitter.com/jeonjung212>


「○○の研究をやっているから●●大学を志望します」

という理由で大学を選ぶと、自分が大学に入学した後にその先生(教授)が他の大学に異動していたり、退官(退職)していたりして、やりたかった研究ができなくなるので注意してほしい、という内容です。

これはその通りで、どういった仕組みで大学の研究が行われるか知らない高校生や大学生は間違いやすいところです。

このツイートに


「どの分野でその大学が有名なのか書かれた雑誌をみて選んだ方がよいです」


と私はリプしたのですが、コメントやReweetが意外に多く驚きました。

大学院の案内本によっては、分野毎の大学ランキングや点数付けされたものが掲載されていて、その分野で有名な教授陣がたくさんいる大学ということがわかる、という私としては当たり前のことだったのですが、あまり馴染みない話だったと気づきました。

ただ、この方法は高校生には良い方法かもしれませんが、これから所属する研究室を選ぶ学部生や、大学院に進学するときに研究室を変えたい学生にとっては、もっと詳細に知る方法が必要になります。

そこで、既に大学に在籍している学生に向けて、どうやったら良い研究室を見つけられるか、大学院から研究室を変えたときの私の経験をもとに、数回のブログに分けて書いていきたいと思います。


教授から教えられた良い研究室の条件

私は学部時代の研究室から大学院に進学する際に研究室を変えたわけですが、研究室選びはかなり悩みました。

そのときやっていたことと言えば


・先輩から評判を聞く
・教授の授業雰囲気を思い出す
・オープンキャンパスなどで研究室を訪問してみる
・研究室ホームページのやっている研究テーマを見る


などですが、どれも決め手にかけますし、研究室の良し悪しなんて研究をやったことのない学生にはいくら調べてもわからないのです。

特に、教授の授業風景なんて、ぶっちゃけ教授の研究力とは関係がありません。

死ぬほど意味不明な授業をやっている教授が、実はその分野の権威の人だったとか、わかりやすい授業をやっている教授が、研究はいまいちなんてざらにあります。

当時迷うに迷っていた私は、研究室訪問したときに親切にいろいろな助言をしてくださった新任の教授に1人で相談しに行きました。


私「研究室ホームページとか研究テーマとか先輩たちの話とか、自分で調べるだけ調べたのですが、どの研究室が良いのか全然わからなくて…どう調べたらよいでしょうか」

教授「あのね、ほしのくん。研究力て、なんだかわかる?」

私「え…?どれだけそのことを知っているか、ですかね…?」

教授「違うよ。研究力とは”研究資金をどれだけもっているか”ということだよ」

私「え.....???」

教授「研究をするには学生には想像もつかないほどのお金(研究資金)が必要なんだよ。研究資金がなければ研究するための高価な薬品、装置を購入できないし、雑費さえも払えない」

私「えっと…言いたいことはわかるんですが、そんなのどうやって調べればいいんですか?」

教授「行きたい研究室の資料を次来るときに全て持ってきなさい。ダメなところは私がはじくから」


---------------------後日----------------------


私「資料を持ってきたのですが、どうですか?」

教授「どれどれ…あぁこの先生ね。だめ...こっちは大丈夫….。大丈夫な研究室は選んだから、この中から進学先を選ぶといいよ」

私「ありがとうございます!!!」

教授「じゃあがんばってね」



10以上あった研究室候補は、既に5研究室ほどしか残っていませんでした。

当時を思い出すと、その教授は新任で余計な縛ら身がなかったため、何も知らない私に親切に教えてくれたのだと思います。

結局、そのとき選ばれた研究室の1つに大学院から進学しました。

研究室を変えた学生はほとんどいなかったため、周りからはおかしな学生だと思われたと思います。



研究力と研究格差

さて、大学院に進学して新しい研究室生活が始まりました。

そこで私は、初っ端から想像を絶する研究格差を知りました。

以前所属していた研究室からは想像できないほど最新装置や高価な薬品を数多く扱っていたからです。

そもそも、実験室の大きさが違います。

以前の研究室では、打ち合わせ室2つほどの部屋で実験は完結していましたが、今度の研究室は研究所丸々ひとつ持っているレベルです。

私は進学するときに研究室は変えましたが、研究分野は変えていません。

ですので、研究分野が違うから装置や扱う薬品が違うだけ、ということはありません。

教科書でしか読んだことのない最新の装置も多く、研究を始めた半年ほどは装置の扱い方を覚えて終わりました。

実験を少しでもやったことがある人は馴染みのある光学顕微鏡で説明すると、前の研究室では15年以上も昔のおんぼろ光学顕微鏡1つだけで、観察したいサンプルを手で1mmレベルで動かして頑張って調整して観察していました。

かろうじて古いカメラがついている機種でしたので、サンプルの表面写真を撮ることはできました。

一方、新しい研究室では、最新の機種を5台も所有していました。

実験者の負担を減らすために、各部屋に顕微鏡が置かれていて、どれも鮮明な画像が取れる最新カメラ付なのは当たり前で、セミオートで数µm単位の測定地点調整が可能で、しかもその内3つはレーザを内蔵していてサンプル表面の段差を精度よく測ることができるものでした。

前の研究室ではサンプル表面の段差を測るためには、電車で片道1時間ほどかけて他のキャンパスまで行って大学が所有するSEMと呼ばれる顕微鏡で観察していました。

そのSEMさえも新しい研究室には2台あり、作ったサンプルをその場で観察できるだけでなく、観察や分析したい内容によって使い分けていました。

そして、それらの装置には専門の管理者(オペレータ)が雇われていて、初めてその装置を使いたい人に詳細な使用方法やスペックを教えるだけでなく、装置が壊れていないかを管理してくれていました。

以前は、管理者と言えば学生で、その装置を1回しか使ったことがないということが当たり前でした。

数年したら卒業していなくなってしまう学生の間で、培った知識を継承管理していくのは容易ではなく、研究するなら当たり前に使えなければならないSEMでさえも、スティグマ合わせや反射電子の観察方法など、よくわからずに使っているケースや、管理者の学生でも使い方がわからずロストテクノロジー化しているケースもありました。

ここでは光学顕微鏡とSEMを例にとって説明しましたが、これがありとあらゆる装置で同じことが言えるのです。

どちらの方が良い研究ができるのかは明らかです。

当時は軽いカルチャーショックで、研究資金の重要性を残酷なまでに痛感して、お金が若干怖くなりました。



終わりに

これらの話を研究者の友人に話すと

「そんなに違うのか…。俺はこっちの研究室しか知らないからわからないが…」

と言っていました。

私のように研究室を変えて、これほど劇的に研究環境が変わることは少ないのでしょう。

文系やソフトウェア系の研究テーマであれば、装置を多数所有する必要がありませんから、ここまで歴然とした差が発生することもないと思います。

もちろん、研究資金が少なくとも、外部の研究機関や企業と協力することで、補い合いながら大きな成果をあげている研究室の存在も知っています。

しかし、いろいろな研究室を見てきて言えることは、新任の教授が言った通り「研究資金が超重要」であることは間違いがなかったのです。


「そうはいっても、どの研究室がどれくらい研究資金持っているかなんて知らないし、そんなこと相談できる教授なんていないよ」


という学生は多いと思います。

そういう学生に向けて、次のブログでは私がやっている学生でもできる簡単な研究資金の調べ方や判断基準について書きたいと思います。

長くなってしまったので、今回はここまでです。

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