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就活ガール#239 経営者の本で歴史を学ぶ

これはある日のこと、同級生の美春と学校内の図書館で偶然出くわした時のことだ。

「あら、珍しい。図書館なんていう私たちに全く似合わない場所に二人揃って同じ時間にいるなんて奇跡じゃない?」
「いや、そうなんだけど、そこまで言うなよ……。」
「ごめんごめん。それで、どうしてここにいるの?」
「応募しようと思ってる企業の社長が本を出してるらしくってさ、それを探しに来た。どうやらここにはないっぽいけど。」
「たしかに、この図書館は学術関係の本が多いから、そういうビジネス書系の本は少ないかもしれないわね。でも、もしかしたらキャリアセンターにあるかもしれないわよ。」
「あ、そっか。たしかにそうだな。まぁ自分で買えよっていう話ではあるんだけど。」
「たいてい1,000円ちょっとだもんね。それでもいろんな企業の分を買ってれば学生には結構キツいけど、就活で少しでも有利になるかもって考えるとケチってはいられないわ。」
「そうだよな。あらゆる手を尽くしてもうまくいくかどうかわからないのが就活だから、できることがあるのにしないっていう選択肢は基本的にはないと思ったほうがいい気がする。それに、学生はお金無いみたいな話ってよく聞くけど、実際どうなんだろうな?」
「学生とはいえバイトとかしてるだろうし、ある程度計画的に就活に備えていれば多少の蓄えはあるわよね。それに、意外と社会人もなかったりすると思うわ。」
「うん。その辺はまた今度大人に聞いてみる。」

「でも、そもそもなんだけど、経営者の本を読むって結構ハイレベルな準備だと思うけど、大変じゃない?」
「普段は漫画すら読まずに動画ばっかり見てるもんなぁ。この手の本って比較的文字数は少ないものもあるけど、それでも1、2日くらいはかかったりするし。」
「そうそう。急いで読みすぎても全く頭に入らないわよね。」
「でも、結構役に立つことが多いんだよ。それに、意外と読んでる人多いからそれくらいの準備はしておかないと相対的に負けるかなって思うんだ。もちろん、志望度低い企業だったらそこまでしなくてもなんとかなればラッキーくらいのノリで受けるんだけど。」

「経営者の考えの一部が理解できるようになるってのはあると思うけど、それが具体的にエントリーシートや面接でどう活かされるのかがわからないのよね。だって、企業理念みたいなものって、わざわざ本を読まなくてもホームページや説明会で十分じゃない?」
「たしかにそこが難しいんだよな。本を読むとホームページや説明会よりも詳細に企業理念の背景とかが書いてあることは多い。でも、それを面接でどう使うかっていうのは別の話だよな。」
「そうよね。私も別に読みたくないから言ってるわけじゃなくて実際に何冊か読んだことはあるんだけど、結局あまり意味がないなと思って最近はあまり読まなくなっちゃった……。」
「よく考えたら当然なんだよ。複雑な背景があるものを、偉い人達が時間をかけて会議をしてまとめた究極系が企業理念なんだから。それを俺たち就活生がさらに別のまとめ方をするのって普通に考えたら無理だろ。」
「たしかに。」

「だから俺は企業理念よりも会社の沿革を学ぶために読んでるっていう面が強いな。」
「沿革って、何年に企業したとか、本社を移転したとかっていうやつ? それこそホームページで十分じゃない?」
「いや、ホームページだと箇条書き程度で薄いことが書いてあるだけだろ。説明会でも企業理念とかに比べてしっかり説明されることは少ない。」
「それはそうね。」
「でも、実際には企業の歴史っていろいろなものが詰まってると思うんだよな。」
「例えば?」

「大幅に事業を転換した時にどういう人たちがどういう気持ちで仕事をしてたのかとかだな。例えばアナログカメラを作っていた企業の中でも、デジタルカメラが発明された後に生き残れた企業とそうでない企業があるだろ?」
「なるほどね。他にも、パソコンが主流だった時代によく使われていたウェブサイトの中でも、スマートフォン化の流れの中でうまく切り抜けられた企業と、そうでない企業があるとかも似たような感じかしら?」
「だろ。そういう時に社員の意識をどう変えたのかとかって結構企業によって特徴が出ると思うんだよなぁ。」
「社員だけじゃなくて、経営者の意識もそうよね。若いころは優秀だったのに、過去の成功体験に固執していわゆる老害化する人もいるし。」
「そうそう。その辺も本を読んでるとわかることがあるんだよ。役員を大幅に入れ替えた会社とか、泣く泣くリストラした会社とか、いろいろある。」

「そういう風に、企業が困難に陥った時にどういう風に乗り越えたかっていう話は面接でも使えそうね。私たちも面接で困難を乗り越えたエピソードを聞かれるわけだから、そことリンクさせて話せるといいんじゃないかしら。」
「うん。困難にどのように立ち向かうのかっていう話は経営者の本に書かれがちだから、一番読んでて役に立つと思うな。なんだかんだ経営者の考えって社員にも浸透してることが多いし、そうだとすればそれがいわゆる企業の文化になって、カルチャーフィットとかに繋がるんじゃないかと思う。」
「なるほどね。ぼんやりと言われているカルチャーフィットとか縁とか文化みたいな言葉をそうやって具体的なところまで落とし込むのは面白いわ。」
「大事なことだよな。就活に限らないけど、一般論はあくまでも一般論だから、それを受けて自分がどういう風に立ち振る舞うかっていうのは自分で考えないといけないことが多い。」
「そうね。大勢に向けて発信されている情報は、どうしても一般論になりがちだから。」

「うん。課題に立ち向かう方法以外でも、チャレンジ精神とか課題解決力も本の内容と自分のアピールをリンクさせやすいと思う。」
「そうね。面接で聞かれたらどんなふうに答えようかしら。」
「例えばなんだけど、『貴社が〇〇という困難に対して、〇〇という方法で乗り切ったという話を本で読みました。私は学生時代に〇〇という問題を〇〇で乗り切ったという経験があるので、貴社のようなチャレンジ精神あふれる企業で働きたいと強く思いました。』みたいな感じかな。」
「いい感じね。どんな企業でもだいたいは『弊社はチャレンジ精神がある人を求めている』とか、『困難にも一丸となって取り組む』とか言ってるけど、具体的なエピソードまで教えてくれることはあまりないわ。そういう時に、本を読んで自分で詳細を調べたというアピールを、自分の経験と照らして語れると強いわよね。」

「うん。他にも、本を読むことでわかることとして、経営者が従業員に期待していることがわかるんだよ。」
「あ、それはわかりそう。まぁそれについても、ざっくりとであれば企業理念とかに書いてるだろうって思うけど。」
「そうなんだけど、それでもやっぱり役員面接とかでさらっと匂わせると効果があると実感してる。」
「企業理念を復唱して共感したと伝えるよりも、『ご著書を拝読して、従業員に〇〇を期待されているのだと理解しました。この点、私は~』みたいな感じで話を繋げた方が、説得力がありそうね。」
「だろ。」

「結局、本の内容ってのはホームページや説明会で伝えられなかった経営者の熱い想いとかが書かれてるわけだから、結論としては企業理念と同じであっても、そこに至る経緯を知ってると得をするってことかしらね。」
「そうだと思う。ただ、中身を知ってるだけですぐに得をできるわけではないから、本を読んだことで満足したり、本を読んだこと自体を前面に押し出したアピールをしてもダメだろうな。」
「ええ。就活って何をしたからよくて何をしなかったからダメというのは一概に言えないことが多いけど、本は特にそんな気がするわね。」
「うん。」

そこまで話したところで、図書館のスタッフがじっとこちらを見ていることに気が付いた。私語を控えろという意味だろうとすぐに分かったので、直接注意をされる前にその場を去ることにした。
今日は、経営者が出版している本について意見を交換することができた。経営者の中には本をたくさん出すことが好きで、何冊も出版している人が結構いる。全てを読む必要はないけれど、最新のものを1冊読むだけでも学べることは多い気がする。ぐだぐだ悩んでいる暇があったら、とりあえず読んで損をすることはないはずだ。
一方で、本を読んだからと言って劇的に合格率が上がるわけでもない。読んだこと自体をアピールするのではなく、その会社の沿革や過去の重大イベントの話などを通して、どのような人がどのような想いで働いているのかを知る材料にするというくらいがちょうどいい温度感だろう。そんなことを思いながら、一日を終えるのだった。

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