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就活ガール#177 失敗経験は挽回エピソードだけでは足りない!

これはある日のこと、同級生の美柑とキャリアセンター前のカフェで雑談をしていた時のことだ。

「なぁ。エントリーシートや面接で失敗経験を聞く質問ってあるだろ?」
「ええ。定番の質問よね。」
「うん。そうなんだけど、この前面接官に『ふーん』という感じの受け答えをされて、いかにも興味なさそうで深掘りもされなかったから、もしかしたらダメなのかなと思って。」
「そういう性格の面接官なんじゃないの?」
「いや、他の質問では結構いろいろ聞いてくれたんだよ。だからたぶん俺の答えがまずかったんだと思う。」
「具体的には指摘してくれなかったのね? どんな答えをしたわけ?」
「ああ、そうだよな。それを見せるのが先だな。」

質問
今までにした失敗経験を教えてください。

俺の回答
バイト先で周囲の意見を聞かずに仕事を進めてしまったことです。大人しい人が多かったのですが、特に意見がないというわけではなく、言い出しづらかっただけだということが後からわかりました。これらの経験を通して、相手が意見を言いやすいよう、日頃から親密な関係性を作っていくことが必要だと学びました。そこで、仕事の合間に積極的に声をかけるなどして関係構築に励んだ結果、現在では多くの後輩が自由に意見を伝えてくれるようになりました。(209字)

「ふーん。まぁ話のネタとしては悪くないわね。どうしようもないレベルのクズエピソードではないし、人間関係の話はどんな職場でも応用できるから再現性があるわ。」
「うん。あと、克服エピソードは自力で行うものを意識したんだ。周りの人を頼らないようにしたっていうか。」
「正確に言うと、周りの人を頼ること自体は悪くないし、むしろ良いことなのよ。ただ、周りの人が助けてくれるのを待ってるだけとか、周りの人に丸投げしておしまいっていうのがダメなだけ。」
「なるほど。自分から周囲に助けを求めるのと、周囲が察して助けてくれるのを待つのでは全然違うな。」
「そうよ。とにかく能動的に動くことが重要であって、必ずしも一人でやらなければいけないわけではないの。これは仕事も同じよね。」
「たしかに。なんでも抱え込みすぎるのは逆によくないよな。」

「というわけだから、この回答は50点ね。」
「えっ」
美柑が俺に下す採点はほぼ毎回0点なので50点でも珍しいのではあるが、さっきまで基本的には褒めてくれていたので、てっきり100点に近いと思っていた。これでもまだ半分の出来ということなのだろうか。

「なによ。」
「いや、今のところ悪いところが指摘されてないからなんで50点なのかなって。」
「まだ話のネタが悪くないってことしか言ってないじゃない。あとはまぁ、克服エピソードも悪くないと思うけどね。」
「じゃあ何がダメなんだよ。」
「前半よ。失敗経験が物足りないわ。」
「話のネタは良いんじゃないのか……。」
「馬鹿、そうじゃないのよ。つまりね。」
そういって美柑が椅子に座りなおした。

「失敗を聞くのは、別に克服エピソードや学びだけを聞きたいわけではないわ。どういう経緯で失敗したかについても聞きたいのよ。」
「それについても一応語ったつもりだけど。」
「一応じゃダメなのよ。」
「うーん。でもそれってネガティブな話だろ。だから、あくまでも克服エピソードをアピールの中心に置いて、失敗の話は克服エピソードをわかりやすく伝えるための説明として必要最小限にしたんだ。全体として、あまり長くしゃべりすぎるのもよくないと思うし。」
「いいえ、別にネガティブじゃないわ。むしろ一生懸命頑張ったことを話せば追加アピールになるのよ。」
「そうかなぁ。」

「いい? 失敗に至る経緯は第二のガクチカなのよ。単に失敗して挽回頑張りましたっていう回答よりも、どういう理由でどういう取り組みを
行ったかを伝えた方がいいに決まってるわ。それに加えて、克服エピソードや学びを答えればいいのよ。」
「失敗話もガクチカなんだ?」
「ええ。しょうもない無意識のミスでもたしかに失敗と言えるんだけど、それよりも、一生懸命頑張ったけど失敗してしまったという方が、頑張ったというアピールができる分だけ得でしょう?」
「たしかに。克服エピソードの方に気を取られていて、そこまで気づかなかった。」

「実際、音彦のようにとらえている学生は多いわ。だからこそ差が付くポイントなのよ。せっかく失敗話を聞いてくれたんだから、克服エピソードなんていう誰でも答えられるところだけ答えて満足してたらもったいないわ。」
「なるほど。もしかしたらこの前つまらなさそうにしてた面接官も、美柑と同じことを思ったのかもしれないな。」
「そうかもしれないわね。克服エピソードは誰でも話せるというか、話せないと論外レベルだから。面接官も聞き慣れてるでしょうね。」
「うん。」
そう言って俺が回答を書き直していると、美柑がそれを遮って、自分の回答を見せてくれた。
「ほら、私が書いてあげたから見なさい。」

美柑の回答
バイト先でのシフト調整の際、できるだけ多くのスタッフの希望に沿いたいという想いから、積極的に意思を伝えてくれる人の希望ばかりを重視してしまいました。しかし、実際には、性格上断ることが苦手なだけというスタッフもいることがわかりました。相互に自由に意見を言い合えることは、良好な職場環境を作り売り上げをあげることに必須だと思います。そこで、最近では、日頃から声をかけて仲良くなるなど、話しやすい関係性を作ることに努めています。(211字)

「すごい。失敗エピソードも克服エピソードも、なんか自然な文章になってるな。」
「でしょう。これでも音彦の回答と文字数はほとんど変わらないのよ。それでも、ちゃんと背景説明から改善ポイントまで含んでるわ。」
「『できるだけ多くのスタッフの希望に沿いたいという想いから』って書いてるのがいいよな。何も考えずに失敗してしまったわけではなく、自分なりに頑張った結果というのが伝わる気がする。だからこそ、第二のガクチカとして機能してるわけだな?」

「そうね。他人を思いやれる性格なんだなっていうのが読み取れると思うわ。そしてそういう性格だからこそ、大人しいスタッフへの配慮もできるようになったという流れにできる。」
「失敗経験を通して強みがさらに磨かれたって感じかな?」
「そうそう、その通りよ。やるじゃない。」
「ありがとう。それが話として嘘っぽくないというか、自然な流れに見える理由なんだろうな。」

「ええ。あと他にもポイントがあって、それは、自由闊達な意見を言い合うことが職場環境を良くするっていう風に考えてるっていう部分よ。」
「それは俺の回答でも似たようなことを言ってた気がするんだけど、違う?」
「微妙に足りてないのよね。音彦の回答だと、関係構築が重要っていうところで止まってしまってる。それをもう少し仕事全般に絡める必要があるわ。単なるコンビニバイトの中でのみ言えることだと思われると損だから。」
「なるほど。」
「そしてこれは志望動機にもつながるのよ?」
「どういうこと?」

自由闊達に意見が言い合える職場環境の重要性を理解して、それを作るために貢献できます。そして、御社はそういう職場づくりに力を入れている会社なので志望していますってすれば話がスムーズでしょう。あるいは、貢献できますっていう流れもいいわね。」
「ああ、なるほど。たしかにそれは繋がりやすいな。それに、職場の風通しってわりと多くの企業が重視してるところだから汎用性も高い気がする。」
「ええ。そうね。もちろん志望動機がそれだけだと弱いけど、業務内容とかではどうしても差別化が難しい場合ってあるから、そういう時にこの手の話で最後の一押しができると強いわね。」

「うん。個々の質問への回答で背一杯になりがちだけど、さらに応用レベルというか、より面接に受かりやすくするためには、複数の質問間での矛盾のない回答とか、積極的に連動させて説得力を増していくっていう作戦が必要だよな。」
「ええ。私はそう思うわね。一問一答で採点されるわけではなくて、面接全体に対して合否が決まるんだもの。コンボ点を狙っていく方が絶対にいいと思うわ。」
「うん。わかった。今日もありがとう。」

そこまで話したところで話を終えた。今日は失敗経験の答え方について学ぶことができた。失敗経験を聞かれたら、学びや克服エピソードを答えるというのが鉄板の回答として広く知れ渡っている。しかし、失敗するまでの敬意の部分では、自分の人柄や頑張ったことをアピールするチャンスだという発想は新しい気付きだった。失敗経験を、単なる克服力だけで終わらせるのはもったいない。一つの質問で複数のアピールがでけきるような回答を心掛けるとより合格しやすいのかなと思い、一日を終えるのだった。

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