見出し画像

就活ガール#310  大学院生は有利?不利?

これはある日のこと、ゼミ室でアリス先輩と話していた時のことだ。といっても話の内容は卒業論文に関するものではなく、就職活動や進路に関するものである。

「今年の4年生は全員就職するみたいですね。」
「えっ、そうなの? ニートになる人とかフリーターになる人もいるって聞いてるけど。」
「あ、はい。そうでした。Fラン大学あるあるですね。あとはいつのまにか失踪して退学する人とかもよくいるらしいです。」
「いるいる。全員就職どころか半分くらいはそんな感じのよくわからない進路に進むんじゃないかしら。」
「すみません。俺が言いたかったのは、大学院に行く人はゼロなんですねという話でした。」
「なるほどね。たしかに今年はいないみたいだわ。まぁ毎年学年で数人程度だし、年度によっては進学者ゼロっていう年もあるらしいから、珍しくないと思うけど。」
「Fラン大学では進学する人が少ない上に、文系ですもんね。」
「そうね。白雪学園の大学院ってどうやって経営が保たれているのかも怪しいレベルだわ。」

「あと、大学院にいくと就職が不利だっていう噂もありませんか?」
「あるわね。これについては文系と理系で大きく違うから分けて整理をする必要があると思うけど。」
「教えてください。」

「じゃあまず理系から話そうかしら。一般に大学院生といえば理系を思い浮かべるから。」
「はい。お願いします。」
「理系の場合は基本的に大学院まで行ったほうが有利になることが多いわ。特に、ある程度以上の規模の会社で研究内容と直結した分野で仕事をしたい場合は、進学するのが必須と言ってもいいレベルじゃないかしら。」
「そうですよね。大手企業だと新卒入社者のほとんどが大学院卒だってことも珍しくないと思います。」
「Fラン大学でも理系修士だと流石に多少は真面目に勉強する人がいるしね。なんていうか、わざわざ強い意思をもって進学してるっていう感じがするじゃない?」
「わかります。普通は学部卒で就職して、特別やる気がある人が大学院に進学していますよね。」
「ええ。名門大学だと逆なんだけどね。」
「逆?」
「特に何も考えていなければ大学院に進学し、特別強い意思を持った人が学部卒で就職するってことよ。」
「なるほど。もちろん研究熱心過ぎて大学院に進学する人もFランが大学よりは多いと思いますけど、就職にも研究にも特にこだわりがない中間層がどちらを選ぶのかという点で、Fラン大学と名門大学で差があるってことですね。」
「そうそう。その認識で正しいと思うわ。」

「っていうことは、名門大学の理系から学部卒で就職しようとしている人は、就活で強敵となりそうですね。」
「そうね。一般論としては大学院卒の方が有利なのに、わざわざそれを捨ててまで早く働こうとする熱意や能力があるわけだから。」
「研究嫌いだから就職しようっていう考え方はFラン特有なんですかねぇ。」
「特有とまでは言えないだろうけど、珍しいんでしょうね。そもそも勉強が好きな人なんてそんなに多くなくて、それを乗り越えて名門大学に入ってるわけだから。嫌なことでも達成する力があるのよ。」
「なるほど。それで、嫌々でも名門大学の大学院で研究していると、それなりの専門性が身について就職で有利になるって感じですね。」
「ええ。」

「じゃあ文系はどうですか?」
「文系の場合でも、大学院の方が有利になるというのが本来あるべき姿よ。高学歴になればなるほど優秀な人が増えるというのは素直に考えれば当然よね。」
「なんか含みのある言い方ですね。現実はそうなっていないということですか?」
「そうね。もちろん法科大学院を卒業して弁護士資格を取得するとかだと別だろうけど、基本的には学部卒の方が有利だわ。」
「弁護士資格だって、学部卒で予備試験ルートで司法試験に受かった人の方が優秀とみなされる風潮がありますよね。」
「フフ、そうね。それだけ文系大学院の立場は弱いってことだわ。」

「どうしてなんですか?」
「まずは文化的なものが大きいと思うわ。さっき名門大学の理系だとたいていの場合は進学するっていう話をしたと思うけど、文系の場合は進学しないで学部卒で就職するというのが普通になっているの。そして、大学院に行くのは就職活動から逃げた人達というイメージが固定化されてしまってるわ。」
「たしかにそういうイメージはあります。」
「ね。そうすると、優秀な人達ほど大学院への進学を避けて学部卒で就職をする傾向に拍車がかかる。一方で、そういう社会情勢に疎い人達が大学院に進学して、さらに大学院卒の評判を悪くしていくんだと思うわ。」
「大学院卒が就職に不利なのか、就職でうまくいかなそうな人が大学院に進学するのかって、にわとりたまごみたいな感じの関係なんですね。」
「そうね。他の理由としては、文系の学問は理系の学問ほど業務で直接活かすことができないってことね。マーケティングの勉強とかをしていた人が意気揚々と『御社で役立てたい』みたいなことを語りがちなんだけど、実際の業務内容とはかけ離れていて、企業としては扱いが難しいのよ。」
「文系だと院卒でも結局は営業職として学部卒と同じような業務を行うことが多いですよね。」
「そうなのよね。それだと、企業としては若くて初任給が安い学部卒を採用すればいいやってなるのよ。」
「うーん。やっぱり文系院卒は厳しそうですね……。」

「とはいえ、結局はこんなくだらない一般論よりも個人の能力のほうが圧倒的に大事なのも事実よ。Fラン大学に対するフィルターですら世間で言われているほど多くはないのに、大学院卒だからという理由でフィルターにかかることなんてほぼゼロじゃないかしら。」
「文系の大学院卒でも立派な人はたくさんいますよね。たしかに就活に向いてなさそうと思う人も珍しくないですけど、とはいえ普通にガクチカや志望動機を語ることができれば、大学院卒だからという理由で不利益を受けることはないとも思います。」
「ええ。あとは文系で大学院に進学するっていうのは珍しいことだから、進学理由は聞かれやすいでしょうね。それから、研究者でなく就職する理由もね。」
「はい。その辺の準備は必要ですね。」

「他に何か聞きたことはある?」
「今までの話って修士課程を前提としてますよね?」
「そうね。」
「博士課程についても聞きたいです。」

「わかったわ。とはいえ結論としては修士課程をさらに強調したような感じになるというだけね。つまり、理系は博士課程に進学すると研究職などに就きやすくなるし、逆に文系で博士課程まで進学すると就職はさらに厳しくなるわ。」
「博士課程を卒業となると20代後半ですし、学部卒の同期とはかなりの年齢差がありそうですよね。」
「ええ。若い企業だと20代後半で管理職になっている人も珍しくないわよね。それも博士課程が一般に好まれにくい理由の一つだと思うわ。もちろん理系博士のように実力で人事を黙らせられる場合は別だけど。」

「前から思ってたんですけど、20代なんて会社全体からみたら全員若いじゃないですか。1、2年の浪人とか留年もそうですけど、何がそんなに変わるんですかね。」
「そうねぇ。私もそう思うし、一般的には徐々に気にしない風潮にかわってきてはいると思うけど、それでも理由に関わらず年齢を重ねていると厳しい目で見られやすいわよね。」
「はい。」
「理由としては、東アジア圏特有の儒教文化が関係してるでしょうね。つまり、年上の後輩とか部下がいるとお互いにやりにくいっていうことよ。」
「なるほど。たしかにそれは想像しやすいです。バイト先でも年上の新人とかが来るとちょっと困ります。」
「そうよね。他には、社内の人材育成や登用の目安として、何歳までにどんな仕事をさせるとかが決まってる企業もあるわ。そういう時に一人だけ年齢と勤続年数が一致していないと扱いに困るわね。」
「なるほど……そっちは完全に企業側の都合なので、うまく管理体制を変えていけばなんとかなりそうですね。」
「そうね。それから20代、特に女性の場合は結婚や出産、育児で休職や退職してしまうケースもあるでしょう?」
「たしかに……。」
「研修とかOJTはできるだけみんな一斉に行いたいから、一人だけ穴をあけられると困るという都合はあると思うわ。」
「研修が丁寧な企業ほどそういう状況に陥りやすそうですね。」
「ええ。」
「今日もいろいろとありがとうございました。」

そこまで話して会話を終えた。今日は、大学院進学が就職活動に与える影響について話を聞くことができた。一般論としては、理系は進学した方が有利、文系は進学しない方が有利という結論だろう。たしかにこれはあくまでも傾向としてそうであるというだけであり、1学年50万人もいる就活生を簡単に区分できる話ではない。しかし、人間は周りの環境に慣れてなじんでいく生き物なので、文系で大学院に進学するのであれば、相応の覚悟が必要だろう。そんなことを思いながら、一日を終えるのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?