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就活ガール#173  面接に慣れてるねと言われたら

これはある日のこと、バイト先のコンビニで後輩の日野原さんとシフトに入っていた時のことだ。今日も客の少ない店内で、暇な時間を見つけて就活の話が始まろうとしていた。

「先輩、就活の相談があるんですけど。」
「うん、どうした?」
「この前面接に行ったら、『ずいぶん慣れてるね』って言われたんです。面接に慣れてるねっていう意味です。」
「ああ、俺もたまに言われることあるなぁ。」
「これって最初は受け答えがしっかりしているという意味で褒められてるのかなと思ったんですけど、よくよく考えてみると、実はそうでもないじゃないかなって思うんですよね。可愛げがないって思われてる気がします。」
「そうだな。可愛げがないっていうレベルならまだマシなほうで、『本音でしゃべっているとは思えないから不合格』っていう判断もされてしまうから、たぶん就活生たちが思ってる以上に重大な問題だと思う。」
「はい。いわゆる死亡フラグってやつですよね。それで、こんな感じに面接の慣れを指摘された時に、どう返せばいいかなって思って相談したんです。」
「なるほどね。これを言われるってことは面接の流れが悪い方向に向かいかけてるら、何とか挽回する必要があるよな。それで、今はどういう風に返してるの?」
俺がそう尋ねると、日野原さんが自分の答えを暗唱してくれた。それは下記のようなものだった。

質問
ずいぶんと面接に慣れてますね?

日野原さんの回答
頑張って準備をしてきました。仰る通りこれまでたくさんの企業を受けてきましたが、御社が第一志望です。(49文字)

「こんな感じです。まず前提として、この質問、まぁ質問って言えるかも微妙なんですけど、これはあくまで雑談の一環として聞かれてるものなので、長く答えない方がいいと思います。」
「うん。ただの会話の流れで登場するどうでもいい話というか、思わずこぼれた面接官の愚痴や皮肉だもんな。自然な会話の一部として返答するのがいいと思う。相手がどの程度の回答を求めてるのかを瞬時に察する能力って基本的には慣れでしか身につかないから難しいところだけど。」

「はい。それで、たくさんの企業を受けてることを正直に言うかを悩みました。」
「それって他に選考中の企業があるかを聞かれた時にも悩むんだよなぁ。」
「そうですよね。あまり受けてないっていう答えはウソっぽいと思います。」
「そうだな。日野原さんはまだ下級生だから比較的それでも通用するのかもしれないけど、4年生の俺がこの時期にあまり受けてないって答えると、それはそれでどうなのと思われる気がする。」
「たしかに、計画性がないとかやる気がないって思われるリスクはあると思います。企業としては面接に慣れてる人は嫌だけれど、だからと言ってあまり自分の将来を考えることに意欲的でなく、就活を惰性でやってる人を採用したいわけではないですよね。」
「うん。真剣に就活をやっていて、かつ自社が第一希望な人を雇いたいんだと思う。」

「そう聞くとちょっと笑っちゃいますよね。よほど良い企業ならともかく、ほとんどの企業の場合はそういう人は応募してこないはずです。だいたいの企業では滑り止めか、最初から諦めて妥協してる人か、もっと良い企業から落ちた人が応募してくると思うので。」
「だなぁ。東大以外は全員受験でうまくいかなかった人っていうのに近いよな。」
「そうですね。上には上がいます。ただ、企業側としてはやる気ない人を雇いたくないのは当然わかります。」
「うん。その辺は面接特有の建前というよりは、普通に生きてても使うレベルの社交辞令だよな。」
「はい。」

「で、話を戻すと、たくさん受けていると白状したからには、数ある企業の中でも第一志望だということを伝えた方がいいのかなって思うので、そう言ってます。志望度について聞かれてるわけでもないので難しいんですけど。」
「いや、俺はむしろそれだけだと足りないと思うな。」
「足りない? どういうことですか?」
「うん。俺はこんな感じで回答してる。」

そう言って、日野原さんに俺の答えを伝える。それは下記のようなものだ。

俺の回答1
それなりに場数を踏んできたつもりですが、第一志望の面接は今回が初めてなので緊張しています。(45文字)

「あ、いいですね。これ。」
俺が自身の答えを見せるなり、日野原さんがすぐにそう言った。

「ただ単に第一志望だと伝えるだけじゃなくて、だから緊張しているって伝えるんですね。」
「そうなんだよ。さっきも言ったけど、『慣れてるね』と言われるのって表面的には事実を指摘してるだけなんだけど、その裏にある面接官の心理としては、意識的か無意識的かは別として、『本音で話してないんじゃないか』っていう憶測が働いてると思うんだ。だから、それを払拭する必要がある。」
「はい。つまり、一見慣れているように見えるけど、実は緊張しているっていう流れにもっていくんですね。」
「そうそう。それがイコール、本音で話していますよというアピールになると思う。」
「はい。どれだけ良い受け答えをしてもそもそも本音だと思われないと何の意味もないですから、相手に本音で話していると伝わることは極めて重要だと思います。」
「そうだな。」
「ありがとうございました。今度からそれ使ってみます。」

「あとは別の回答として、計画性をアピールする作戦もあると思うよ。」
「どういうことですか?」

俺の回答2
面接に苦手意識があったので早めに就職活動を始めました。内心では今もとても緊張しています。(44文字)

「こんな感じかな。」
「ああ、私の場合、これはかなり事実に近いですね。初対面の人と話すの、本当は今でも嫌いだし怖いです。」
「そうなんだ。特に早期選考やインターンでは『早くから始めている』というが事実だと相手もわかるから、それこそ本音感が出ていいと思うんだよな。」
「たしかに口では何とでも言えるので、実際の行動が伴っていると分かる発言は面接全般で有利ですよね。そう考えるとさっきの『第一志望です』という答えだって、志望動機等から第一志望であることが十分に伝わるようにしていないと、面接全体としてはキツいと思います。」
「そうそう。ちなみにこの回答だと計画性もそうだけど、自分を正しく認識して成長に向けて努力できる人っていう風にも思われるんじゃないかな。そういうのも企業から見ると魅力的な能力の一つだよな。」

「なんか、やっぱり面背鬱の受け答えって一瞬でも気を抜いたらいけないのかなって思いました。志望度をアピールするにしても、計画性や努力ができることをアピールするにしても、隙さえあればアピールするぞっていう姿勢ですよね。」
「そうそう。不自然になるのはダメなんだけど、基本的には限られた時間でとにかく多くのアピールをする必要があると思う。どうでもいい無駄な会話とかしてる場合じゃないんだよな。」
「はい。面接ってこういう雑談系の質問ややりとりも結構ありますけど、油断できないですね。」
「ああそうだな。アピールに繋げることができるということは、逆に言うと減点材料にもなりえるってことだと思う。例えばさっきの質問だって、極端な話、『ネットで想定質問等を調べてしっかり準備してきました。』とか答えたらダメだろ?」
「フフ、笑っちゃいますが、実際そういう受け答えする人っていそうですよね。」
「うん。緊張すると自分でもよくわからないことを喋ってしまうことって誰にでもあると思う。笑っちゃうけど、いつ自分の身に降りかかるかもわからないよな。」
「そうですね。全ての想定質問に対策するのは難しいですが、とにかくなんでもアピールに繋げることと、自然な切り返しをすること。この二つを忘れないようにしたいです。」
「うん。困った時こそ基本に忠実になったほうがいいな。」
「はい。ありがとうございました。」

そこまで話したところで、仕事に戻ることにした。今日は『面接に慣れてるね』と言われた時の対策について学ぶことができた。これは一見すると雑談のような会話の流れの一つにも見えるが、面接官からの『本音で話して欲しい』というメッセージであると受け取ることもできるだろう。そうすると、自分が本音で話しているということを伝えるためにも、原則的には緊張していると伝えた方が良いと思う。

その際の伝え方が問題であり、単に「いいえ、緊張しています。」などというだけでは足りない。面接は限られた時間で自分を最大限にアピールするチャンスであるから、このような何気ない会話でも、防御だけでなくアピールする意識が必要だろう。そして、その際には内容を説得的に話すことが重要だ。そんなことを思いながら、一日を終えるのだった。

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