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就活ガール#184  内定した後にやるべきこと


これはある日のこと、バイト先のコンビニでの出来事だ。のんびりと品出しをしていると、店長の薫子さんが話しかけてきた。

「夏厩くんって、単位は足りてるの? 早い人だと3年生のうちにほとんど取り終わってしまうわよね。」
「まだ少し残ってて、全く学校に行かなくていいっていうほどではないです。4年生しか受けられない必修科目があるのと、それ以外にもいくつかありますね。」
「少しなら卒業は大丈夫ってことかしら?」
「はい。それに、多めに履修登録してるので、多少は落としても大丈夫なはずです。4年前期の成績が出る頃には就職先が最終確定してると思うので、GPAも関係ないですし。」
「GPAはもともとほとんどの企業で関係ないと思うけどね。提出を求められること自体が多くないし、求めたとしても内定後であることがほとんどだと思うわ。」
「はい。学歴に嘘がないかとか、ちゃんと単位が足りていて卒業できるかという確認のために提出する感じですよね。だから単位さえ揃っていれば、別にGPAは関係がない。」
「ええ。大学によって異なる場合もあるとは思うけど、そもそも成績証明書って不可になった科目については記載れないことが多いのよ。だから、いくら単位を落としたって最終的に足りていれば問題ないの。だから多めに履修登録して、単位が揃う見込みがあれば途中で離脱すればいいと思うわ。」
「はい。そのつもりです。まぁ俺の場合は、途中で単位を取れそうにないと思ったときに諦められるように、保険的に多く受講したっていう面が強いですけど。」
「そういう発想も重要よね。」
「はい。心配していただいてありがとうございました。」

「ううん。実は最近、別のバイトの子から留年しそうっていう話をされて気になったのよね。留年すると内定取り消しになっちゃうから。」
「やっぱりそうなんですね。せっかく内定取ったのに留年できないって相当悲惨ですよね。」
「ええ。就職活動を終えたらやったほうがいいことって様々な大人が様々なことを言ってくると思うけど、最優先すべきなのは間違いなく卒業ね。」
「たしかにそういうまとめ記事みたいなのよく見かけるようになりました。卒業ってわざわざ書かれてないですけど、重要ですよね。」

「重要よ。10月1日になったら内々定から内定に変わるわよね。その時に書面にサインさせられることが多いんだけど、そこには『下記に当てはまる場合は内定取り消しとすることに同意します。』って書かれてるの。で、その『下記』の中に、『今年度中に卒業できないこと』が含まれるっていう感じね。」
「なるほど。ちなみに、他にはどういう項目があるんですか?」
「他は基本的には関係ないからあまり深く気にしなくてもいいんだけど、犯罪を行って有罪判決を受けるとか、長期間勤務が困難なレベルの怪我や病気になるとか、エントリーシートや面接での内容に大幅な虚偽があることが判明するとかね。」
「最後のがちょっとだけ気になります。多少話を盛ってたりもするので。」
「ガクチカとか自己PRとかよね?」
「はい。」
「それくらいなら大丈夫よ。ここでいう虚偽っていうのは氏名、年齢、学歴、国籍あたりの基本的なプロフィールを偽っていた場合ね。」
「なるほど。さすがにその辺は嘘ついてないのでよかったです。そうするとやっぱり、内定取り消しになる理由で一番多いのは留年ですかね。」

「そうね。毎年1パーセントくらいの割合で発生するわ。卒業論文で単位が取れない場合もあるし、単純に講義の単位数が足りてないっていう場合もある。いずれにしても即内定取り消しね。」
「それって法律的には許されるんですか?」
「ええ。許されるわよ。そもそも応募の時点で入社年月日と学歴を指定してるじゃない?」
「たしかに。入社年月日までにその学歴になってることを前提に応募してるわけだから、留年したらむしろ約束を守っていないのは学生側ということになりますね。」
「そういうこと。応募時点だけではなくて、内定承諾書にも書かれてるしね。」
「内々定承諾書ではなく、内定承諾書に書かれてるんですね。」
「その場合が多いと思うわ。10月1日になったら内定承諾書にサインを求めてくる企業が多いと思うから、その時に確認してみてちょうだい。」
「わかりました。内定を企業側が一方的に取り消すって基本的にはできないですけど、事前に約束しておいた理由で、かつあまりにも学生側に落ち度がある理由だと取り消されても文句言えないですね。」

「そうね。っていうかそれ以前に、留年してたら学生生活が続くわけだから、働くことって物理的に無理でしょう?」
「たしかに……。でも翌年に入社するとかできるんじゃないですか? せっかく選考を突破して内定を出したってことは、企業側が評価している人材ってことなので、即取り消しはちょっと厳しい気がします。」
「翌年入社は基本的にはないわね。さっきも言ったけど、留年しないで卒業するっていうのは企業側との約束だもの。しかも重要な約束よ。それを破ったら一度目でも許されないわ。」
「やっぱり社会は厳しいですね。」
「そうねぇ。でも、内定ってそれくらい重要なものだから、当たり前って気もするけどね。それに、今年の採用基準と来年の採用基準は違うこともあるから、今年の内定者が来年の採用基準を満たしてるとも言い切れないわ。」
「そんなことがあるんですか?」
「ええ。まずは社会情勢等によって、採用人数が大きく変わるわよね。そして、採用人数が少なければ当然ボーダーラインは上がるし、その逆もあるわ。」
「なるほど。」
「それ以外にも、経営方針が変わったり、注力する事業が変わると、必要な人材も変わってくるのよ。企業が生き残るために大きく主力事業を変えるってことはよくあるでしょう?」
「たしかに。例えばアナログカメラの会社って、別の事業に主軸を移して生き残ったところと、それに失敗して倒産したところがありますね。」
「そうそう。そんな感じよ。」

「ちなみに、卒業すること以外に、学生時代にやっておいた方がいいことって何かありますか?」
「そうねぇ。特にないわね。」
「そうですか……。」
「学生時代にしかできないことってほとんど無いのよね。ちゃんとした企業に入れば自由なお金はそれなりにあるし、連休だって2週間くらいなら取れる。それ以上連続の休みがないとできないことってほとんどないんじゃないかしら?」
「世界一周くらいですかね。そうすると今度は学生の財力では難しい気がしますけど。」
「それ以前に、今の世界情勢的に海外旅行は無理よね。」
「あ、そっか。そうですね。」

「資格の勉強なんかも、まぁやらないよりはやったほうがいいに決まってるし、自由な時間が多い学生時代のうちにやったほうが効率がいいのはたしかだわ。でも、別に社会人になってからでもやろうと思えばやれるのよね。」
「たしかにそうですね。あと、企業によっては資格取得を支援してくれるところもありますし。」
「そうね。あとはプログラミングとかも最近はやりだけど、別にいつでもできるのよね。だからこれについても、今やってもいいし、やらなくてもいいって感じかしら。もちろん、ダラダラ過ごすくらいなら何か勉強とかしておくと後々楽だとは思うけどね。

「結局、今しかできないことってほとんどないんですね。」
「そうねぇ。しいて言うなら、『新卒枠での就職活動』くらいでしょうね。」
「なるほど、そう来ましたか……。」
「ええ。だから内定があったとしても、最後まで上を目指して頑張って欲しいわ。夏採用とか秋採用で大手の募集はまだあるでしょう?」
「はい。倍率はこれまで以上に高くなってると思いますが、あるにはあります。」
「私はそういうところに応募してみるといいと思うわ。受かったらラッキーだし、落ちても損をしないでしょう。せっかく就活スキルが身に着いてきてるわけだから、それが鈍る前に次のステップを目指すのも悪くないわ。」
「それに、こういっちゃなんですけど、周りのレベルも下がってきてますよね?」
「そう思うわ。特に秋採用くらいになると、優秀な人は就職活動を終えてるしね。」
「はい。きょうもありがとうございました。」

そこまで話したところで、会話を終える。今日は卒業までにやっておいた方がよいことについて話を聞くことができた。結論として、一番は確実に卒業をすることだ。卒業できなければ、今まで必死で就職活動をやってきたことが全て無駄になる。また、最近では留年をしていてもあまり不利にならないと言われているものの、少なくとも有利に働くことはないというのは間違いないだろう。講義も卒業論文も気を抜かず、必ず卒業しようと心に誓い、一日を終えるのだった。

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