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就活ガール#312 志望度アピールは重要!

これはある日のこと、同級生の美柑とキャリアセンター前のカフェで就活について話していた時のことだ。

「ほら、これ見てちょうだい。」
「なになに、企業の採用担当者に聞いた採用活動の課題を調査するアンケートか。」
「ええ。大企業から中小企業まで様々な企業が回答していて、業種もいろいろと混ざってそうね。」
「それで、何が課題なんだ?」
「まず1位は内定辞退の防止よ。複数回答可能なアンケートだけど、この回答だけが唯一50パーセントを超えてるわね。」
「1位でも50パーセントってあまり多くはない気がするな。」
「まぁその辺は相対的に見た方がいいんじゃないかしら。企業の担当者としても、課題が多すぎることを認めると『さっさと解決しろよ』という話になりかねないから、いくら複数回答可能なアンケートでも大量にチェックしまくることは避けたいわ。」
「なるほどな。社外の匿名アンケートとはいえ回答前には一応社内確認とかもあるだろうしな。」
「ええ。まぁあとは、項目数も多くて中には似たようなものも含まれるから、いろいろと回答が分散するのは仕方ないわね。」

「あ、本当だ。入社意欲の向上を課題だと感じている担当者は46パーセントで3位、選考辞退の防止は33パーセントで6位だな。しかもどっちも昨年よりも今年の方が増えてる。」
「ええ。要するに良いと思った求職者が入社してくれないってことよね。オンライン面接が普及して一人の求職者が受けられる企業の数が増えたっていうのも関係してると思うけど。」
「辞退って何がそんなに嫌なんだ? まぁコストがかかるのはわかるけどある程度仕方ないっていうか、諦めるしかないと思うけど。」
「いろいろと理由は考えられるけど、結局のところは『採用目標数の達成が難しくなるから』でしょうね。」
「人事もサラリーマンだもんな。」
「ええ。もちろん会社全体のコスト削減とかもろもろも考えてるんだけど、とりあえず直面してる課題としては自らのノルマ達成よ。」
「とはいえ、辞退する就活生がいるのはしょうがないと思うけどなぁ。」

「結論としては諦めるしかないと分かっていても、頑張ったという社内向けアピールが必要なのが会社員なのよ。」
「そんなものかな。」
「ええ。サッカーや野球の試合だって、負けが決定してるからといって諦めたらあちこちから批判されるでしょう?」
「たしかに……。将棋なんかはわりと早めに負けを認めるのが美学って聞いたことあるけど。」
「棋士の間ではそうらしいけど、テレビで放映される対局とかだと、視聴者がはっきりと勝ち負けがわかりやすいような場面までやるらしいわ。」
「そうなんだ。知らなかった。それもファンサービスなのかな。」
「そうかもね。まぁそれだけ、世間一般の人は『諦めずに頑張る他人』が好きなわけよ。もちろん、採用担当を評価する上司もね。」
「なるほど……。」

「あと、ある程度は仕方がないとはいえ、企業側としてはそもそも内定辞退されないように対応策は当然考えてるわ。いわゆるリスク回避ね。」
「リスク回避?」
「リスクに対する4つの対策って知ってる?」
「知らん。」
「ビジネスにおいてよく言われるリスク対策は、回避、低減、移転、受容よ。」
「それを内定辞退についても行ってるのか。」
「ええ。まず回避っていうのは想定される危機が生じないように頑張ること。」
「内定辞退しそうな人を採用しないってこと?」
「それも一つの方法でしょうね。だからこそ、面接等で内定辞退しなさそうな人だというアピールをする必要があるわ。」
「たしかにそれは有効そうだ。」
「有効? そんな甘いものじゃないわね。必須よ、必須。」
「必須か……。」
「採用担当の仕事は採用することなのよ。極端な話、最終的に入社してくれない優秀な人何百人に内定をだしたところで、入社がゼロだと何の意味もないわけ。」
「そりゃそうだ。そう考えると、内定辞退せずに入社するというアピールをするのは最低条件だということがわかるな。」
「ええ。例えば第一志望だと断言するとかね。こういうのはやったほうがいいことじゃなくて、やらなければいけないことなの。部屋に入る前にノックをするのと同じくらい当然すべき回答なのよ。」
「わかった。それで、企業はリスク回避以外に何をしてるんだっけ?」

「次は低減と移転ね。これは内定辞退関係ではあまり取られない対応だわ。」
「参考までに、一般論として聞かせてくれ。グループディスカッションとかで役に立つかもしれないから。」
「はぁ、仕方ないわね。」
「ありがとう。」
「低減はリスクと考えられる事態が発生した時に受ける被害を少なくするための活動よ。」
「うーん。イメージしづらいな。」
「例えば耐震強度の高い建物を建てるとか。」
「あ、なるほど。たしかに地震は絶対に回避できないけど、被害を抑えることはできるな。」
「ええ。内定の場合は辞退するかしないかの2択だから、あまり関係ないけどね。」
「わかる。」

「それから移転は自分以外の人達に責任を移すこと。」
「なんか無責任な感じだなぁ。」
「もちろんタダで移すわけじゃないわよ。例えばあらかじめお金を払って保険に入っておくとかね。」
「あ、そういうことか。それだとイメージしやすいな。」
「ええ。」

「それから最後が受容だっけ。」
「そうね。これは端的に言うと諦めるっていうことよ。」
「諦める、か……。」
「なによ。仕方ないでしょう。音彦だって、いくら頑張っても内定辞退が発生するのはやむを得ないって言ってたじゃない。」
「まぁそうだな。いくら頑張ってもどうしようもないことはあると思う。」
「ええ。あとは、リスクとして考えられる事象の発生確率が極めて低い場合とか、発生しても被害が大きくないと思われる場合、簡単に復旧できる場合なんかも受容することがあるわ。」
「なるほど。いちいち気にしてても仕方ないってことだな。」

「こんな感じで内定辞退に対する対応は企業はいろいろ考えてるわ。引き留め工作以外だと、あらかじめ多めに内定を出しておくとかね。」
「それは回避とか低減にあたるのかなぁ。」
「その辺でしょうね。とはいえ、内定を出した以上は入社を断れないから、今度は採用しすぎてしまうというリスクが発生するわけだけど。」
「なるほど。」

「で、これらのいろんな方法をとっても対応できない企業ほど、内定辞退におびえてるわけよ。」
「例えば?」
「典型例でいうと中小企業ね。中小企業だと採用者の数が少ないから多めに内定を出しておくというのが難しいの。余剰人員を抱える余裕がないでしょう?」
「なるほど。たしかに大手なら毎月何十人も入社して退社するっていうのを繰り返してると思うけど、中小企業の場合はそうじゃないもんな。新卒への期待度も高いと思うし。」
「ええ。そのわりに大手よりも内定辞退されやすい。中小企業が第一志望っていう人は少ないからね。」
「だから辞退に敏感になってるわけか。」

「ええ。あとは、これは大手企業もそうなんだけど、辞退者の行動パターンについてある程度ナレッジが蓄積されてるから、それに基づく行動を取ってる人事担当者は多いわ。」
「どういうこと?」
「例えばうちの内定を辞退した人はだいたいA社にいくとか、B業界にいくとか。」
「ああ。たしかに業界2番手とか3番手の企業だと、1番手の企業に内定者を持って行かれることがありそうだ。業界でいうと、似たような思考をしてる人が目指しやすい業界とかってあるもんな。」
「ええ。そういう場合はあらかじめ併願先や志望度を聞いたりすることもあるわ。」
「志望度を聞かれても嘘をつくだけだけどなぁ。」
「その嘘すらつけない人がいるからね。」
「そっか。」

「で、話を最初に戻すと、採用担当者が抱えている課題としては辞退関連が多いから、せいぜい志望度の高さを頑張って伝えましょうねっていう話よ。」
「わかった。1位と3位がそれ関連だもんな。ところで2位は何なんだ?」
「2位は母集団形成ね。要するに応募者が少ないとか、質が悪い人が多いっていうこと。」
「なるほど。どのみち落ちる人ばかり集めても時間とお金の無駄だよな。」
「ええ。応募総数と、応募者のうちターゲット層が含まれる割合の両方が大事ってことよ。例えば適性検査で不合格になるような人は、企業からしてもハッキリ言えば応募されて迷惑だと思うわ。」
「そうか。今日も色々ありがとう。」

美柑に礼を言って会話を終えた。今日は企業が内定辞退というリスクを恐れていることと、それに対して練っている対策について話を聞くことができた。前々から何度もいろんな人から聞いていたことではあるけれど、やはり志望度の高さをアピールすることは重要だろう。
加えて、リスクに対する対応のパターンわけの話も勉強になった。就活でいうと、うまく滑り止め企業を受けるなどして就職に失敗しても転職への道を残しておくことが「低減」と言えるだろう。当然、失敗しないために「回避」することも必要だ。そんなことを思いながら、一日を終えるのだった。

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