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就活ガール#244  人事は意外と質問に答えてくれる

これはある日のこと、同級生の美春と講義室で雑談をしていた時のことだ。

「なぁ、ちょっと質問いいか?」
「ええ、もちろん。私にわかることなら、だけど。」
「この前1Dayインターン中に、人事に本選考の合格基準を聞いてる人がいてびっくりしてさ。そんなこと人事に聞いていいものなのかなって思ったんだよ。まぁ俺を含め周囲の人間は、自分はリスクを取らずに回答を盗み聞きできたからラッキーだったんだけど。」
「鋭い質問や答えづらそうな質問をしてる人がいるとこっちまでドキドキするわよね。」
「そうそう。」

「でも、本選考の合格基準は聞いていいんじゃないかしら? むしろインターンシップに参加したからにはぜひとも聞いておきたい質問だと思うわ。」
「えっ、そうなのか。合格基準とかって秘密じゃないかと思ってたけど。」
「私も前はそう思ってたんだけど、色々試してみた結果、全然そんなことないと思ったわ。」
「詳しく教えてくれ。」

「理由はすごくわかりやすくて、企業が選考の合格基準を隠すメリットが無いのよ。欲しい人材を効率よく採用するためには、まず自分たちがどういう人材を欲しがっているのかを明らかにした方がお互いのためでしょう?」
「そりゃそうだけど、そういうネタバレってしてもいいのか? 受験でいうとテストに出る問題を聞いてるようなものだろ。」
「受験と就活の違いはそこよね。受験だと平等性が重視されるけど、就活ではそうじゃない。どんな手を使ってでもいい企業に入りたい就活生と、どんな手を使ってでもいい学生を採用したい企業がそれぞれの思惑で抜け駆けをしまくってるのよ。」
「まぁたしかにそうだな。インターン優遇とか、特定の名門校だけ校内説明会が行われたりとか、極論するとそういうのを全部すっ飛ばしてコネ入社する人だっている。」
「ええ。だから聞いたもの勝ちよ。どうしても答えられないものであれば人事もお茶を濁したような回答をするか、答えられませんって断られて終わりね。それで減点されるようなことはないと思うわ。」
「そうだったのか……。ちなみに、どれくらいの確率で答えてもらえるんだ?」

「うーん。それは内容にもよるわね。例えば学歴フィルターがあるとか、性格診断の結果で特定の性格の人を落としてるとかは隠したい企業が多いでしょ。他にも顔写真や年齢、居住地、AI判定の結果なんてのもなかなかオフィシャルには言い辛いんじゃないかしら。」
「その辺は合格基準以前に、そもそも選考基準に含まれていること自体を隠したがってる企業も多いよな。じゃあ当然、答えてくれないか。」
「ええ。そうね。企業としても弊社には『顔採用があります。』とか『学歴フィルターをしています。』みたいなことを言うメリットがないか、あったとしてもリスクの方が遥かに大きいわ。」

「逆に、リスクが少ない、もしくはリスク以上にメリットが大きい情報ってどういうのがあるんだ?」
「例えば、『積極性のある人が欲しい』とか、『特定のプログラミング言語に詳しい人が欲しい』とか、そういうものね。」
「採用ホームページの求める人物像に書いてあるようなやつか。」
「そうそう、まさにそうなのよ。ああいうところに書くのはわりとざっくりとした内容だけど、それの詳細を深掘りしていくイメージね。」
「たしかに、あれだけ見ていても全然わからないんだよな。」
「欲しい人材って部署によって違うから、ある程度抽象的に書かざるを得なくなってしまうのよ。それに、あまり具体的に書きすぎると、自分がそれに当てはまらないって思った人たちが敬遠してしまうでしょう? でも、特に新卒採用においては企業は完璧を求めていないから、就活時点では多少要件を満たしていない人でも、少し鍛えれば十分力になるような人は多いわ。そういう人達が躊躇しないように、ある程度幅を持たたせた記載にしてるんじゃないかしら。」

「なるほどね。『積極性がある人』とかだと、まぁだいたい皆当てはまるか、少なくとも当てはまるように演技すればいいかと思えるもんな。それに、多くの企業で書いてあることだから、いまさら『私には積極性がないから応募をやめておこう』とか考える人はあまりいないと思うし。」
「ええ。でも例えば、ここに『簿記2級以上を持ってる人』とか『プログラミング経験が2年以上ある人』とか書くと人が集まらないわ。」
「どうせ落とすなら書いていて欲しいと思うけど、実際は一応内々でそういう基準があったとしても、基準に満たないからと言って即落とすとも限らないってことか?」
「ええ。今の例だと、プログラミング経験者とそうでない人で合格率に差はあると思うけどね。あとは経験の密度にもよるから。」
「ああ。ほんの少ししかプログラミング経験がないのに経験ありだと自信満々に答える人がいる一方で、授業で3年間勉強してきたけど成績が悪いから自信がなくてプログラミング経験がないって答える人もいるもんな。」
「そうね。だから具体的な記載にはしづらいんだと思うわ。」

「じゃあ、『積極的な人はって具体的にどういう人ですか?』みたいな質問をすればいいのかな。」
「それも一つの手でしょうね。もしくは、『私のガクチカは〇〇なんですがどういう風にアピールしていけばいいか教えてもらえませんか?』みたいな聞き方も役に立ったわ。」
「そこまで聞いていいのか……。もう、それってほとんど面接の答えを聞いてるようなものじゃないか?」
「ええ、そうなのよ。同じガクチカでも企業によって興味がある部分は違うと思うから、どういうところを話の中心にすればいいかってのを確認するといいと思うのよね。」
「なんかOB訪問みたいだな。」
「イメージとしてはそれに近いでしょうね。人事にOB訪問をしてるくらいの気持ちでいいんじゃないかしら。さっきもいったけど、人事としては欲しい人材をできる限り公開して、それに合った人を採用したいわけだから、合格基準を隠すメリットが本当にないのよ。」

「公開しすぎると、合格基準に寄せた性格を演じてくる人がいるんじゃないか?」
「もちろんその可能性はあるんだけど、実際に面接でそこまでしっかり演技をできる人、演技するやる気がある人は多くないわ。人事側が全てうそを見抜けるわけではないけど、学生レベルの小手先テクニックだと見抜けることも多いんじゃないかしら。」
「まぁそうだな。そもそも聞いた人以外には情報が漏れにくいと思うし。」

「そうそう。他にも、去年と今年で合格基準に変更があったのかとかも聞いてみると面白いと思うわね。」
「なんで?」
「採用基準って毎年微妙に変わるのよ。だから、1学年上の先輩の情報が100パーセント正しいとは言い切れないわ。」
「えっ、そうなんだ。」
「うん。まぁ労働市場は絶え間なく変化していくし、企業だって昨年や一昨年の採用結果に対する反省をふまえて今年の採用方針を決めてるわけだから、当然よね。」
「でも、その企業で求める人物像ってそんなに頻繁に変わるものなのかな?」
「大きな方向転換は無いかもしれないけど、少しくらいは変わることの方が多いわよ。だって、それを変えないっていうことは、全く過去の反省が活かせてないってことになるじゃない?」
「なるほどなぁ。仮に100点の採用ができたとしても、社内政治的には何か無理にでも改善の余地を見つけて変えていかないとダメだよな。」
「ええ。それが採用担当の仕事だからね。」
「で、その去年と今年の差分に気付いてそこをアピールすると受かる可能性があがる、と。」
「ええ。私はそう思うわ。その企業がわざわざ今年から新たに『求める人物像』に追加したということは、どう考えてもそういう人材を重視してるってことだもの。その一方で、去年との比較までしてる就活生は多くないと思うから、そこに寄せたアピールができる人は少ないんじゃないかしら。」
「なるほど。同じ企業でも幅広くいろんな人材を欲しがってるとは思う。求める人物像の中でもどれによせていくかは検討した方が良さそうだな。」
「うん。そうよね。まぁこれは採用ホームページとか求人サイトの昨年分と比較することでもある程度分かると思うけど。」
「なるほど。今のうちにキャプチャ取っておくか。」
「ええ、頑張りましょう。」

そこまで話したところで会話を終えた。今日は、人事が意外と選考の合格基準を公開してくれるという話について聞くことができた。たしかに、企業側にとってもあらかじめ情報を公開して、それに合ったアピールをしてもらって損をすることは少ないだろう。自分自身を100とすると、面接で話せることは5くらいしかない気がする。その5を選び出すときに、求める人物像にあったものを選びたい。そのためには、人事への質問等を通して求める人物像をさらに明確化させることが必要だと感じた。そんなことを振り返りながら、一日を終えるのだった。

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