就活ガール#255 早期選考や通年採用
これはある日のこと、バイト先のコンビニでの出来事だ。客の少ない時間を見計らって、後輩の日野原さんが話しかけてきた。
「先輩、報告いいですか?」
「うん。」
「早期選考で最終面接まで駒が進みました。」
「早すぎるだろ……。」
「早期っていうか通年選考をしてる企業なので、3年生以下でも本選考を受けられるんです。」
「でも通年採用って学年が浅いほど不利になるだろ?」
「そうなんですか?」
「いや、たぶんだけど。」
「何か理由があるんですか?」
「まずは能力を見定めにくいと思う。多くの企業で大学生時代のガクチカを聞くってことは、大学生活を通してどういう人間になったかを知りたいわけだろ。なのに1年生とか2年生で面接をしても、それがわかりづらい。」
「なるほど……。のびしろがありそうな雰囲気を出していく必要がありそうですね。」
「そうそう。企業側からすると参考になる情報が少なすぎるんだよな。大学生の1年間って人が変わるには十分すぎる期間だろ。」
「はい。良い方向にも悪い方向にも大きく変わりえると思います。」
「だから下級生の場合は、一度不合格だったとしても在学中は翌年以降の再受験を許可している企業も結構ある。」
「そうするとわりと気軽に受けられる気がします。選考の練習にもなるんじゃないでしょうか。」
「うん。でも、企業側にとってもそうなんだよ。合否で迷ったらとりあえず不合格になりやすい。」
「でも、その人がまた応募してくれるかなんてわからなくないですか? どちらかというと諦めてしまう人の方が多いと思うんですが、そういう人は志望度が低いから要らないということでしょうか。」
「うーん。そういうのもあると思うけど、それよりも、他にいい人が見つかるの可能性が高いだろ。」
「あ、そっか。そうですね。ほとんどの人は3年生後期くらいから就職活動を始めるので、その母集団の中に良い人はたくさんいると思います。なので、わざわざ焦って合否悩むレベルの人に内定を出す必要はないですね。」
「うん。早期から動いてる人の方が優秀というのはたしかにあるんだけど、一方で、早期すぎると合格基準が高くなってしまうというのはあると思う。」
「難しいですよね。例えば一部の外資系の人気企業なんかの場合は、3年生の前期から既に始まっていて、それが標準的なルートだと思います。こういうところは秋くらいには採用活動を終えるので、最初から普段通りの合格基準を持っていそうです。」
「だな。」
「あとは、内定辞退も気にしてるかもしれないですね。」
「たしかにそうだな。ベンチャー企業で早期から採用活動やってる企業って、正直内定者の半数以上は辞退していくんじゃないかと思う。」
「ですよね。給与等の待遇で大手と勝負するのは難しいと思うので、もうちょっと遅くから活動すればいいのにといつも思います。優秀な人ほど就活を早く始める傾向にあるとはいっても、早すぎると練習台にされるだけなんじゃないでしょうか。」
「たぶん、売名したいんだと思う。世間では全く知られてないけど、就活生にだけ有名な企業って結構あるだろ。」
「あ、そういうことだったんですか。」
「あとは、この手の企業って人材系の会社であることが多いんだよ。だから、早めに内定を出して内定者をインターンとして働かせたり、そこまでいかなくても単純に口コミとして紹介させたりして、同級生や後輩とつなげさせるんだ。」
「で、そうして紹介された新卒人材を、どこか別の企業にエージェントとして紹介して、仲介手数料を取るっていうビジネスですね。」
「そうそう。インターン生にエージェント業をやらせれば給料は安くて済むし、なんならほぼタダ働きさせてる企業だってあるらしい。」
「結構闇が深そうですが、ビジネスする側としては賢い気がしますね。それだと後で大量に内定されたとしても、ほとんどダメージは無い気がします。」
「だよな。むしろ採用して何年も経つと後輩へのコネが効きにくくなってくるから、一部の実力者を除くといまいち使えない人材になることも多い。内定者インターンで就活生を大量に紹介してもらって、4年生の夏や秋くらいになったら辞退してくれるってのが一番都合いいんじゃないかと思う。」
「それってインターンする側に何かメリットはあるんですかね。」
「ない。」
「そんな……。」
「しいて言うなら業務経験を積めることだけど、散々言ってるようにベンチャーと大手では業務内容が大きく異なるからベンチャーのやり方はあまり大手では通用しないんだよ。それ以前に、本選考の時期は自分の就活に集中した方がよくて、インターンだとか他人の就職あっせんだとかをやってる余裕はないはずだろ。」
「なんかここまでの話を聞いてると、ベンチャー―企業の早期選考を受ける意味ってほとんどないような気がしてきました。」
「人材系については正直そんな気がするな。それ以外だと普通に滑り止めとしてキープできるし、ベンチャー企業やトップレベルの外資企業以外でも早期選考してるところはあるぞ。」
「え、そうなんですか?」
「うん。普通の大手企業でも早期選考してるところが稀にある。キャリアセンターや先輩に聞いたり、ネットで調べたりすると面白いんじゃないかな。」
「そういうところ受けたいですね。インターンの面接とは勝手が違うところもあるでしょうし、いい練習になりそうです。ある程度ちゃんとした会社なら、最悪入社してもよさそうですし。」
「だよな。」
「そういう企業の選考って、合格基準が3年秋以降よりも厳しい以外に、何か特徴はあるのでしょうか。」
「辞退を警戒してると思う。」
「それはありそうですね。エントリーシートや面接スキルって徐々に上達していくものだと思うので、通常だと辞退されにくいようなそこそこの大手でも、早期選考組はさらに上の企業から内定が出て辞退されるというケースが多そうです。」
「うん。だから志望度の高さは強くアピールした方がいいと思うな。まぁこれは別に早期選考に限った話でもないんだけど。」
「『内定貰えたら就活辞めます!』みたいなやつですか?」
「うん。それも一つのアピール方法だと思う。」
「でも早期選考の場合、辞めますアピールが嘘くさいですよね。『まだまだこれから他の企業の選考がはじまるのに、本当にもうやめるの?』って思われる気がします。」
「しかも早期選考に応募するような就活意識の高い人が簡単に妥協して内定先を決定するとは考えづらいしな。」
「はい。」
「だから、もし内定したらどうするか聞かれた場合は、『就活を辞める』だけではなく『勉強に専念したい』とか『サークル活動に打ち込みたい』とか言えばいいんじゃないかと思う。」
「嘘はつかない方がいいってことですか?」
「いや、就活を辞めるというのは嘘でも言ったほうがいい。ただ、それだけだと信用されないから、なぜこんなに早く就活を辞めるのかの理由を述べた方が良いんじゃないかなっていう話。」
「あ、そういうことですね。理解できました。」
「ただ、この言いまわしを使うなら、そこまでの流れでそれなりに打ち込みたいものがあることをアピールするような面接じゃないとキツいと思うけどな。例えばFラン大学で勉強もろくにせず、バイトと飲み会で明け暮れていた人がさっきのセリフを言っても説得力がないだろ。」
「たしかに……。バイトのために就活をしないっていうのはあまり理解を得にくいでしょうね。学業ならまだわかりますが、サークル活動をあげるとするなら、これまでもそれなりに必死で打ち込んでいたとかでないとキツい気はします。で、その場合は自然とガクチカもサークルネタになるので、面接全体としてサークル活動大好き人間みたいな感じを打ち出す必要が出てきそうですね。」
「うん。ある程度自分の専攻や卒論について語れるようにしておかないと、ウソがばれてしまうかもしれないな。」
「はい。わかりました。今日もありがとうございました。」
そこまで話したところで会話を終えた。今日は、通年採用をしている会社に早期に応募するときに考えるべきことについて話をすることができた。通年採用や早期選考で下級生に内定を出す企業には、それぞれの思惑がある。特に中堅以下の企業の場合は、後々に辞退される可能性が高いのにもかかわらず採用活動をしていることの意味をよく考えた方がよいだろう。
そして、内定を取りに行くためには、辞退をしないというアピールが通常の選考時以上に重要になる。そのアピールをするための一例として、就活を終えた後にやりたいことを明示するのはよいだろう。俺も下級生に負けずに頑張らないといけないなと気合いを入れなおし、一日を終えるのだった。