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就活ガール#183  就活生に嫌われる営業職

これはある日のこと、講義室の片隅で同級生の美春と並んで講義を受けていた時のことだ。今日も当たり前のように講義は聞かず、当たり前のように美春が話しかけてきた。

「ねぇ、どうして営業職って人気が無いのかしら。」
「やっぱり人気ないのか。気のせいじゃなかったんだな。」
「ええ。周りを見てても営業だけは嫌っていう人は結構いるし、ニュースを見てても営業職が人気がないっていう記事はちょくちょく見るわね。営業職に従事してる人が多いから不満の声が聞こえやすいっていうのはあると思うけど、それだけではない気がするわ。」

「ぱっと思いつく理由でいうと、ノルマがきついからだよな。」
「そうね。営業と言えばノルマが最初に思いつくわ。でも、最近はノルマはない企業もあるみたいよ。」
「そうはいっても目標ってのがあるだろ。ノルマを言い換えただけで結局は一緒だっていう話も聞くし。」
「まぁそっか、そうよね。実際は、どんな仕事でも目標を持たない仕事っていうのは無いと思うわ。でも、営業職だと特に結果が可視化されやすいから、上司にとっては詰めやすいんでしょうね。」

「あとは、理不尽な目に遭いやすいっていうのも理由だろうな。」
「嫌な客がいる場合ってことよね。もしくは、なんだか微妙だなぁと思うような商品でも売るように命令され、案の定面倒なトラブルや顧客からのツッコミを受けたりすると思うわ。良心が痛むってのもあるだろうし。」
「何かと矢面に立たされるんだよな。」
「そうそう。まぁ法人営業の場合は相手も会社を代表してきてるわけだから、変な人は少ないと思うわ。特に大手企業が相手の場合はそうね。辛いのは個人営業の方。」
「不動産とか、金融商品とか、ウォーターサーバーとかだよな。」
「ええ。その辺は正直キツいんじゃないかしら。基本的に1人の営業担当者で顧客訪問が完結してしまうのもきつさに拍車をかけてるわね。」
「法人営業だと数人で1社を担当するってことがあるけど、個人営業だとそうじゃないから、自分の成果がより自分の能力と密接にかかわってるっていうことだな。」
「ええ。一部の売れる人にはいいでしょうけど、大半の凡人にはきつい世界だと思うわ。」

「少し話を戻すと、たしかに営業の成果は可視化されやすいけど、営業以外の仕事にもノルマっていうか目標があることはわりと見落とされがちだよな。」
「ええ。例えば私たちの面接をしてる人事の人だって、何人採用するとか目標が決まってるらしいわ。もちろんただ頭数を揃えればいいっていう話ではなくて、一定の基準を満たす人を採用しないといけないの。」
「難関企業になるほど、その『一定の基準』が厳しいから、結局どんな企業でもそれなりに採用目標数の達成が難しくて、日々ノルマに追われてるってことか?」
「ええ。そういうことらしいわ。」

「他にも、事務職だとコスト削減の圧力が結構あるよな。」
「そうね。昨年よりも何割コスト削減したみたいな目標を立てさせられるのよね?」
「そうそう。それが意外と厳しい。IT技術を使って業務を効率化したり、過去の経緯でルール化されたけど現状にはそぐわない煩雑な業務フローを変更したりするんだろ。」
「ええ。あとは、評価基準も曖昧だと思うわ。例えば経理部がいくらコストを削減したかって、部っていう単位でみれば導入している経理システムの利用料とかである程度数値化されるとは思うけど、それがどの担当者の貢献のおかげなのかってわからなくないかしら?」
「うーん。たしかに言われてみるとそうだな……。」

「営業だと、多少の協力はあったとしても、基本的には個人プレイによるところが大きいと思うのよね。少なくとも誰が主に貢献したかっていうのはハッキリすることが多いわ。」
「たしかに。そう考えると、内勤の人たちは成果を奪い合うことになってるといえるのかな。最近は年功序列の企業でも多少の実力主義要素は取り入れているところがほとんどだし、評価って給料に直結するから、興味がない人はほとんどいないだろ。」
「そうね。いわゆる社内政治とかに勤しんでるんだと思うわ。」

「そう考えると、営業は社内政治とか関係なさそうだよな。数字をあげてればそれでいいんだろ?」
「実際はそう簡単なものでもないと思うわ。例えば有力な取引先は皆で協力して契約取ってきた方が会社としては利益になるけど、担当者レベルでいうと自分で独り占めしたいじゃない。だから、名刺を共有しないとかっていう方法で自分の利益を守ろうとするのよ。」
「なるほど。なんか大人の世界って感じだ。」
「面接で毎回のように言わされる自己PRとかガクチカも、意外とこの練習と考えるとしっくりくるかもしれないわね。」
「どういうこと?」
自分がどういう風に頑張ってどういう成果を残したかを、面接官に言うか、入社後に上司に言うかの違いってことよ。」
「ああ、そういうことか。言われてみるとそうだな。志望動機はともかくガクチカとか課題解決エピソードとかって正直何の意味があるんだろうと思ってたけど、多少は納得がいった気がする。多少は、だけど。」
俺がそう言うと、美春が笑いながら頷いた。

「でも、さっきから話してるように、営業職だと社内向け自己PRの必要性がある程度緩和されると思うのよね。数字を作れたかどうかっていう指標があり、定量的に測りやすいから。」
「うん。わざわざ自分で自分の頑張りをアピールしなくても、客観的に結果がわかるよな。」
「ええ。というより、客観的に評価できないから自己PRなどをさせる必要があるだけで、定量的に成果を測れるならそれで評価するに越したことはないもの。そっちのほうが理想の状態だわ。」

「そう考えると、自己PRが苦手な人には営業職が向いてるともいえるんじゃないか?」
「私はそんな気がするわね。営業の人が取引先にアピールするものって、自分じゃなくて会社の商品だし。」
「あ、その観点は面白いな。たしかに営業担当の人柄とかテクニックが重要っていうのはそれはそれで事実だと思うけど、一方で会社のブランドとか、作ってる商品の質が重要ってのもあるよな。大手企業だと営業が楽すぎてスキルが身につかないっていわれてるのも、売るべき商品が良いからって理由だろ?」
「まぁそれは中小企業の人たちの僻みや、大手企業社内での働かない同僚に対する愚痴みたいな部分もあるとおもうけど、大筋としてはあってると思うわ。」

「で、自分の会社の商品のいいところって、別に自分が考えて喋るわけでもないよな。」
「ええ。ある程度はセールスシートみたいなものがあって、それに沿って話すんだと思うわ。もちろん、話し方とか日頃からいかに関係性を作っておくかとかで個々人の能力は活かせるはずなんだけど、それと積極的に売るべき商品をアピールすることとは少し違う気がするわね。」
「売れる営業はごり押ししないっていう話もよく聞くしなぁ。」

「逆に、内勤の人は入社後も自己PR合戦が待ってるわ。自分が行った業務がいかに売上向上に影響を与えたかとか、コスト削減につながったのかっていうのが見えにくいもの。どういう課題意識を持って、どういう業務に取り組み、その結果何を得たかっていうのをちゃんと社内説明する必要があるわね。」
「それってもう、就活とほぼ同じなんだよな。」
「フフ、そうね。」

「そう考えると、言うほど営業職って悪くないような気がするな。」
「私もそう思うわ。個人営業や飛び込み営業はできれば避けたいところだけど、大手企業やそのグループ会社で、ルート営業、法人営業をやってる分には比較的難しくないと思う。そして何より、面接で自己PRするのが苦手だなと感じてる人には、それをやらされるケースが少ない営業はおすすめできるわね。」
「自分よりも会社の商品をアピールする方が楽っていう発想は今までなかったから勉強になった。ありがとう。」

礼を言って話を終える。今日は、営業職のメリットやデメリットについて話すことができた。営業職の最大のメリットは評価基準が明確であり、それによって面倒な自己PRをしなくて済むことだと分かった。
また、そもそも論として、新卒で文系就職した人の多くは営業職からキャリアが始まる。つまり、営業職を避けているとそれだけで選択肢がかなり狭められてしまうことになる。加えて、営業職は近年人気がないというのが事実であれば、倍率的にも入社が比較的たやすいと言えるだろう。これからの時期の就職活動では、第一志望を諦めてある程度妥協をすることも必要になってくる。そういった中で、何を諦め、何を貫き通すのか。それを考えるうえでも今回の話はためになった。そんなことを思いながら、一日を終えるのだった。

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