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就活ガール#266  求人サイトは中小企業が大事

これはある日のこと、バイト先のコンビニで後輩の日野原さんとシフトに入っていた時のことだ。客足が少ない時間帯を見計らって、日野原さんがトコトコと近づいてくる。手にはスマートフォンを持っていた。俺の前に立つと、キョロキョロと周囲の様子を伺いながら、そっと画面を見せてくれた。

「先輩、これ見てください。」
「なになに、新卒の初任給調査か。」
「はい。2022年4月に新卒入社した大卒の場合、全国平均で約21万円らしいです。」
「ふーん。そうなんだ。」
「どう思いますか?」

「感覚的にはちょっと低い気がするな。俺が見てる求人サイトだと中小企業でも21万円くらいはあるから、平均はもうちょい上かと思ってた。」
「そうなんですね。額面21万円だと東京で生活するにはギリギリかなっていう感じがしたんですけど。」
「たしかにこれよりも下だと日々の生活がきつくて、ボーナスで生活費を補わないと難しいかもな。あと、俺は別に給与でフィルターかけてるわけではないんだけど、20万円台はあまり見ない気がするなぁ。」
「もしかしたら物価と同じで給与にも地域差があるのかもしれないですね。」
「うん、それはあると思う。同じ企業でも勤務地によって給与が違う企業もあるし、もともと田舎にしかオフィスがない会社だとその地域の標準的な給与にしてるんだろうな。最低賃金とかも都道府県別に設定されてるし。」
「そうですよね。田舎とまでは言わなくても、東京とそれ以外っていうだけでも結構変わる気がします。」
「たしかにアルバイトや派遣スタッフの時給とかを見ていても、東京だけズバ抜けてるとは思う。」

「ですよね。あと思ったんですけど、そもそも求人サイトって年収で検索できなくないですか?」
「うん、やろうと思ってもできないサイトが多いな。」
「ですよね。30歳時点で平均年収600万円以上っていう条件で絞れるサイトは見たことありますけど、もうちょっと詳細に知りたいと思います。」
「わかる。初任給の時点ではあまり差がないから検索しても意味がないってことなのかもしれないけど、30歳時点とかだと差が出るだろうから、意味はあるよな。」
「はい。それに、賞与の額とかも入れると、新卒時点でも最大数百万円単位の差はあると思います。どうして検索できるようにしないんですかね?」

「まずそもそも、賞与の金額や30歳時点での平均年収を公開してる企業が少ないと思う。なんの開示義務もないしな。」
「年収開示って義務ではないんですね。インターネット上を調べると従業員等からの口コミだけでなく、わりと公式発表っぽいデータもありますけど、あれは自主的にやってるんですか?」
「基本的には開示義務はないんだけど、上場してる企業の場合は別なんだよ。ただこれも、全体の平均年収を記載するだけだから、各年齢ごとのものではないんだ。」
「雇用形態もバラバラだし、中には時短勤務してる人とかもいるだろうし、高卒も大学院卒も全部混ざってるんでしょうね。そういう数値を発表されても、あまり役には立たなそうです。」
「うん。同じようなビジネスモデルの企業同士での比較とかには役立つかもしれないけど、業種が違うと社員の構成が大きく違ったりもするから、あまり意味ないだろうな。ないよりはマシっていう感じか。」
「一応、賃金の男女差については、もうすぐ開示が義務化されるらしいです。でも女性はフルタイムじゃない人とかもいるでしょうし、40代以上だと短大卒で一般職で入社した人とかも多いだろうから、その辺を混ぜて平均を出されてもどうすればいいのっていう感じはしますね。」
「だよな。」

「こういうのって、法律上の義務はないとしても、求人サイト側が開示を求めることはできないんですか?」
「理論上はできるけど、そこまでやってない求人サイトが多いってことだろうな。どのみち求人票って嘘つき放題だし。」
「たしかに年収モデルとかってあり得ないのが記載されまくってますよね。ごく一部のうまくいった人の事例を載せているのであって、完全に嘘ではないと信じたいですが……。」
「あるある。インセンティブの割合が高い営業職とかな。」
「はい。そういうのって大体ブラックそうな感じがします。ブラック企業の求人を載せてるとサイトの信用度も落ちると思うんですが、なぜ規制しないんでしょうか。」

「うーん。結論から言うと、信用が落ちないからだと思う。俺たち消費者ってすぐに『信用が落ちる』とか『いずれ滅びる』みたいなことをいいがちだけど、そういうのってほとんど願望だろ。」
「厳しいですが、そうかもしれませんね。ブラック企業ってなかなか潰れないですし、逆にホワイト企業の方が資金繰りがきつくなってるニュースをよく見ます。」
「だよな。大手航空会社とか家電メーカーとかが破産した事件を見てても、そんな感じだと思う。たしか労働組合が強すぎて退職者への企業年金の額を下げられないのが原因だったよな。」
「そうですよね。ブラック企業は人件費をけちっても新たな人がどんどん供給されるのでやり放題だと思います。そういう現状を変えることに、求人サイト側は協力して欲しいんですが、甘いですか?」

「甘いかはわからないけど、実際はうまくいってないのが現状だろ。だって、企業側がお金を出すんだもん。」
「そうですね……。」
「あと、以前に求人サイトの掲載費用を見てみたんだけど、数百万円の基本プランと、オプション課金で追加機能として目立つところに表示させたりできるっていう仕組みらしい。」
「スカウトメールとかもそんな感じですよね。1通何円みたいに決まってた気がします。」
「うん。スカウトメールは基本プランに一部含まれていて、追加で送信したい場合は追加オプションって感じだな。」
「とはいえオプション機能を使う会社はあまり多くなく、基本プランだけで済ませる企業が多そうですね。特に大手企業だと、わざわざ目立つところに掲載しなくてもそれなりの人数は集まりそうです。」
「そうそう。それってつまり、大手企業相手でも中小企業相手でも、1社あたりの顧客企業から得られる掲載費用は同じってことなんだよ。」
「求人サイト側からするとそうですね。あ、なるほど。だから求人サイト側は中小企業に気を遣う必要があるってことなんですね。」
「そうそう。大手企業よりも中小企業の方が圧倒的に数が多いだろ。だから、求人サイトのビジネスとしては、狙いたいのはそっち側なんだよ。1社からたくさんお金を取るんじゃなくて、多くの会社から満遍なく集める方式で成り立ってる商売だと思う。」
「見てる側は大手企業を探しに来てる人が多いと思いますが、運営側からすると客寄せパンダ的な扱いなんですかね。」
「うん。だから、大手企業は掲載料が割り引かれたりすることもあるらしい。」

「うーん。仕組みはわかったんですけど、見てる側からすると、正直よくわからない中小企業とか邪魔なだけと思ったりもしませんか?」
「する。でもそういう企業の求人を簡単にフィルタリングできてしまうと、企業側が出稿してくれなくなるんだろうな。」
「あまり深く考えても仕方ないんでしょうね。求職者側はタダで使わせてもらってるわけですし。」
「そうだな。一社ずつ公式ホームページを見に行って採用情報を開いて応募するのはダルすぎるから、結局はナビさいとを使わざるを得ない気がする。」
「エージェントとかもそうですけど、特に無料のものは何か裏があって今の状態になっていると考えた方がいいですよね?」
「うん。株式会社が運営してる場合はほぼ確実に営利目的でやってるわけだし、俺たちがタダで使えるということは、誰かがそのサービスを維持するために俺たちの分までお金を払ってるっていうことだと思う。そして、サービス提供者側からすると、まずはお金を払ってくれる人たちの都合を優先するのが当然だな。」
「はい。いろいろと気を付けて使うようにしてみます。今日もありがとうございました。」

そこまで話したところで会話を終えた。今日は、求人サイトの裏側について話をすることができた。求人サイトは主として中小企業からの掲載料で成り立っているビジネスだ。あまりにも掲載効果が少なすぎると掲載してくれる企業がいなくなってしまうので、求職者側が求めていないような企業もバランスよくレコメンドし、応募者数を増やすことで成り立っているのだろう。一括申し込みなどについても、似たような理由だと思う。
求人サイトは便利なので今後も利用していきたいけれど、運営側の都合に振り回されないように注意する必要があると感じた。そんなことを振り返りながら、一日を終えるのだった。

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