見出し画像

就活ガール#308  定量化は売り上げだけじゃない

これはある日のこと、バイト先のコンビニでの話だ。後輩の日野原さんと一緒にシフトに入ると、就活について話すのが定番となっている。

「すみません。就活について相談してもいいですか?」
「うん。」
「ガクチカに数字を入れて定量的に話せっていう風潮についてどう思いますか?」
「必須ではないけど、入れた方がわかりやすいとは思う。ただ、むやみに入れすぎると読みにくくなったりとか、人事に不自然さを与えてしまうから注意が必要だとも思う。」

「読みにくくなるのはなんとなくわかります。数字の登場回数もそうですが、使うタイミングとか記載の方法にもよりますよね。特にエントリーシートはその傾向が強い気がします。」
「うん。タイミングもそうだし頻度もだな。強調したい部分にだけ使えばいいんじゃないかという気はする。」
「そうですね。一つの文章で一か所とか二か所とかでいい気がします。」

「うん。あと、3.5パーセントみたいな中途半端な数値は『約4パーセント』とか『5パーセント程度』とかって表現にした方が読みやすい気がするな。別に正確な数値を知らせても仕方ないと思うし。」
「そうですね。小数点以下の単位での数字の推移を伝えたいなど特殊な事情がある場合を除けば、かなりざっくりと言ってしまって問題ない気がします。」
「うん。そもそも『数パーセント程度』みたいな感じにして、数字を出さないのもアリだと思う。別にそれが2パーセントなのか3パーセントなのかは大した問題ではないことも多いから。」
「数パーセントっていうと、だいたい2パーセントから4パーセントくらいの間かなって思いますよね。」
「うん。5パーセントならある程度区切りがいいからそのままいえばいいし、6パーセントから9パーセントの場合は『10パーセント弱』みたいな表現がわかりやすいんじゃないか。」

「納得です。あとこれもいつも悩むんですけど、パーセントって記号で書くと文字数節約できますが、多少読みにくくなる気がします。」
「たしかに。できればカタカナで書きたいよな。文字数的にどうしても節約したい場合は全角の記号で書くって感じか。あとは数字を丸めて一割とか二割とかって形にするのもいいと思う。」
「はい。あと、数字のゼロも悩みどころですね。」
「ゼロはできればカタカナで書きたいな。『0点』みたいに単位がついてる場合とか、『0から100まで』みたいに他の数字と並べて記載する必要がある場合は別だけど。」
「そうですね。そういう場合は算用数字や漢数字もよいと思いますが、『ゼロから生み出した』みたいな場合はカタカナのほうが自然な文という印象を受けます。」
「たしかに。読みやすい文章ってこういうのの積み重ねだよな。」
「はい。まぁ一つ一つは細かすぎるくらい細かいことなので、あまり気にしすぎなくてもいいとは思いますけど。些細な読みづらさの積み重ねで文章力がないと判断されるのと同様、些細な読みやすさの積み重ねで文章力があると思われるんじゃないでしょうか。」
「うん。そう思う。」

「ところで、ガクチカに数字を入れすぎると人事に不自然さを与えてしまうっていうのはどういう意味ですか?」
「うーん。なんていうか、普通の会話において自分の成果をいちいち数字で報告しないだろ。何パーセント改善したとかって言わずに、なんとなく良くなったとかって感じの伝え方をすると思う。」
「まぁそうですけど、面接は普通の会話ではないと思います。」
「たしかにラフすぎる感じは良くないと思うし、相手の発言中に口を挟まないとか、結論から答えるとか、感情的になりすぎないとか、普通の会話以上に気を付けることはあると思う。とはいえ、面接ではコミュニケーションが重要だから、違和感を感じさせすぎるとダメなんだよな。」
「バランスが難しいですね……。」
「ビジネス上の会話もそうじゃないかな。営業マンが変な喋り方してたらなんとなく違和感があって商品を買いたいとは思わないだろ。」
「たしかにそれはわかります。私たちみたいな小売業のアルバイトでも気を付けたいところですよね。」

「結局、数字で語るっていうのはわかりやすくするためだろ。だからわかりやすく語れさえすれば必ずしも数字を出す必要はないんだ。」
「たしかに……。アルバイトごときが店の売り上げを1.2倍にしたとかってどう考えても嘘っぽいですよね。」
「昔は2倍っていうのが流行ってたんだけど、流石に嘘っぽいとなって1.5倍くらいが主流になり、今は1.2倍が主流になってるらしい。最近では特定の商品の売り上げをあげたとか、特定のイベントでの売り上げを上げたとかに代わってきてるみたいだな。」
「うーん。そういう問題なんでしょうか……。ウソ話の世界でもデフレが起きてるんですね……。」
「ちょっと笑っちゃうよな。サークルでは部長が減って副部長が増えてるらしいし。」
「はい。もはや数字で語るのを辞めた方が良いんじゃないかっていう気すらしてきますね。ウソをつく人が増えすぎたせいで本当に成果を残していたとしても疑われるなら損だと思います。」

「いや、それはちょっと早計だと思う。」
「あれ、そうですか? 嘘っぽいと思われるくらいなら辞めた方がいい気がするんですけど。」
「数値で語るっていうと売り上げとか利益のことだと思いがちだけど、実際はそれだけじゃないんだよ。」
「どういうことですか?」
「例えば俺たちの仕事って、クレームを受けることがあるだろ。それを減らしたとか一件あたりの解決に必要な時間を短縮したとかも数値化できると思う。」
「あ、なるほどそういうことですか。」
「こんな感じで、他にも思いつく?」
「はい。逆に良い口コミがあった数とかもそうですよね。」
「そうだな。なかなかお客様から褒められることは少ないけど、いわゆる企業の評判を上げる行為も立派な貢献だと思う。」

「はい。あとは業務時間の短縮とかシフトの人員削減とかもそうじゃないですかね。」
「コストを減らす系だな。他にも在庫の処分数を減らしたとか電気代を節約したとかもあると思う。」
「レジの計算間違いを減らしたとかもよさそうですね。」
「うん。細かな事務手続きをきっちりできるというのはどんな職種でもだいたい必要な能力だからな。」

「そういえば人事も直接利益を生み出す部署ではないから、意外とこういう話の方がウケるのかもしれませんね。共感を得やすい気がします。」
「たしかにそうかもなぁ。入社してからも数値目標は全部署で課されるらしいし、人事の場合も採用にかかるコストの削減とかに追われてると思う。」
「営業職以外も数値目標があるんですかね。」
「うん。期初に目標を立てて、それに対しての達成度合いで人事考査が行われる企業が多いらしい。もちろん目標を立てるのも達成度合いを判断するのも自己申告だけではなくて、自己申告をもとに上司と相談して決定されると聞いてるけど。」
「なるほど。そうすると、直接利益を生み出す部署以外だとユーザーからの評価とかコスト削減とかを数値化するしかなさそうですね。」
「だな。企画職とか開発職も自分たちの作ったものが売れたら利益に貢献したとは言えるんだけど営業職に比べると間接的だから、自分の業務内容と売り上げ改善を繋げて語ることが難しいだろ。そうすると、売上貢献以外のところで数値化する必要がある。」
「はい。そういう時でも、『なんとなくユーザーから良い評判が得られた』みたいな話をするよりも、『ユーザーアンケートで5点満点中平均で4.2点を獲得した』みたいな結果があったほうがわかりやすいですもんね。」
「うん。ガクチカの定量化も同じだな。」
「わかりました。今日もありがとうございました。」

そこまで話して会話を終えた。今日は、ガクチカの定量化について話すことができた。定量化して語ったほうがよいと言われるようになって久しいが、前提として、ガクチカの定量化は必ずしも必須ではない。そうしたほうが話を分かりやすく伝えることができるという経験則にすぎないのであって、別に定量化以外の方法でも、うまく自分の頑張ったことや成果を伝えられるのであれば問題はないのである。

とはいえ、多くの人の多くの経験から生み出された経験則というのは軽視して良いものではない。入社後に定期的に行われる人事考査でも業務内容および成果の定量化が求められているということは、それだけ多くの人に認められているフレームワークだということだろう。

そして、定量化というのは何も売り上げ貢献だけではない。今日の話では顧客満足度の改善やコストの削減が例として話題に上がったけれど、それ以外にもいくらでも自己の頑張りを定量化する方法はあると思う。自分

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?