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就活ガール#175  志望業界を広げるのはアリ

これは4月中旬のある日のこと、新社会人のアリス先輩に就活について質問していた時のことだ。

「いよいよ就活界隈も泥沼化してきたわね。」
「してきましたね。さすがの白雪学園の生徒たちも就職活動しないとヤバイっていう空気が出始めている気がします。」
「去年もそうだったわ。Fラン大学でようやくそういうムードが漂うのがこれくらいなのよね。実際はそこからしばらくぐだぐだしてゴールデンウイーク明けくらいまで何もしない人も多く、その時には既に応募できる優良企業が残ってないって人も多いんだけど。」
「はい。それで今日聞きたかったのは、既に就活をやってるけど思うような成果を残せていない人がどうすればいいかです。」

知りたいことを明確に伝える。今日知りたいのはやる気のない就活生の話ではなく、頑張っているけど成果が残せていない人たちについてだ。

3月1日に就職活動が本格化してから既に1か月半がたち、とある調査によると、1社以上の内定を持っている人の割合は4割を超えたらしい。まだギリギリ内定が無い人の方が多数派とはいえ、例年通りであれば加速度的に内定率が上がっていくので、すぐに逆転するだろう。6月頭までのタイムリミットまで折り返し地点に来た今、これまで通りの作戦で就活を続けるべきかどうか、それとも作戦を変更して新たな業界や企業に目を向けたり、就職活動の方法自体を変えるべきか。就活生にとって正念場である。

「そうねぇ。まず大前提として、ここでやる気や自信を失わないことね。泣いても笑っても残りの1か月半で概ね決まるのよ。正直、うまくいってない人は土日を休んでる暇すらないと思うわ。」
「はい。もちろん無理をし過ぎて心身に不調をきたすと意味ないし、リフレッシュがあったほうが効率的だという人はそうしたらいいとは思うんですけど、とはいえ今が踏ん張り時なのは間違いないですよね。」
「ええ。どの辺が限界なのかは個人差があるから何とも言えないし、頑張れば必ず結果が伴うと周囲が断言してあげられないのが就活だけど、そうはいってもやるとしたら今しかないのよね。これだけは間違いなく事実だと思うわ。」
「そうですね。あとからやる気になっても遅いですし。」
「ええ。夏厩くんも最後まで頑張ってね。」

「ありがとうございます。それで、うまくいってない人の中には志望業界を変えようという人が結構いますが、どう思いますか?」
「私は変えた方がいいと思うわ。もちろん、もともとの志望業界でも受けたい企業が残ってれば受ければいいと思うけどね。」
「でもそうすると、業界研究がやり直しになってしまいますよね。」
「そうだけど、全くのやり直しではないと思うわ。」
「近い業界を受けるとかでしょうか。」

「そうね。それも一つの案だと思うわ。例えば同じ金融業界の中でも、銀行や証券や保険などいろいろあって、まだ受けてないところがある人もいるんじゃないかしら。」
「はい。」
「もう少し視野を広げてみると、例えばIT業界を受けていた人であれば、社会にある様々なデジタル化の遅れについての知識が多少はあると思う。そういう中から関連する何か一つピックアップして調べれば、メーカーや金融に応用することもある程度はできるんじゃないかしら。」
「うーん。理論上はわかるんですが、現実的にそこまでうまくいきますかね。ITとメーカーって結構遠い業界な気がします。社風とかも全然違いますよね?」

「たしかに、口で言うほど簡単な話ではないわ。でもこれはうまくいくと得られるメリットも大きいわよ。」
「どういうことですか?」
「ずっとメーカーを見てた人よりも、ITからメーカーに移ってきた人の方が、IT的な観点を加えて語れるのよ。そうすると志望動機なんかで説得力のある話ができるようになると思うわ。」
「なるほど。たしかにそうですね。最近はIoTとか話題ですけど、具体的にどういうものなのかいまいちよくわかってなかったりしますし。」
「そうね。家電製品なんかは生産してるもの辞退にソフトウェアが組み込まれてるし、食品とかでも生産の過程でITシステムが使われてるのはほぼ間違いないでしょう。」
「はい。」
「あとは、IT技術で地域格差がなくなるっていう観点から広げると、コンビニチェーンとか物流、自動車メーカーや鉄道会社等に広げやすかったりするかもしれないわ。」
「はい。連想ゲームみたいな感じですね。」
「そうね。」

「じゃあ全く別の業界はどうですか? 具体例は今思い浮かばないんですけど、おそらくいくら頑張っても接点が見つからない業界ってあると思うんです。」
「うーん。たしかに、いくら社会が全体としてつながってるとはいえ、現実的にはあまり関りがないような業界とか、つながりがあったとしても就活生に調べるのが難しすぎる業界もあるでしょうね。そして、給料とか勤務地とかを中心に考えていると、そういう一見するとかかわりのない業界を併願したいなと思う時もでてくるということよね。」
「そうです。仰る通りです。」
「その場合は、ほとんど最初から勉強しなおすしかないってことになるわよね。」
「まぁそうですよね……。」

「ただ、それもそこまで難しくはないわ。一つの業界についてちゃんと調べた経験があれば、他の業界について調べることも比較的簡単だと感じるはずよ。」
「どういうことですか?」
「例えばどうすれば業界の課題を調べられるかっていう研究のテクニック論とか、各企業がどういう思考回路で生き残ろうとしているのかっていう経営者の思考回路って、ある程度共通してるのよ。」
「たしかにそうですね。口コミサイトの使い方とかもだんだん慣れてきましたし、結局勝ち残るためには利益を増やすかコスト削減するかとか、既存の技術を磨くか新しいものを発明するかとか、ある程度考えられる選択肢は決まっている気がしています。」
「そうよね。例えば勉強だと、英語が話せる人は第二外国語の習得が意外と簡単だっていう話を聞いたことがあると思うけど、それと同じなのよ。業界研究についても一番最初が一番難しいのよね。」
「そう考えると、全く違う業界を受けるとしても、今までやってきたことが無駄ではないと思えますね。」
「ええ。そういう風にこれまでの積み重ねで今があるっていう風に考えることは、精神状態を良好に保つためにもおすすめね。実際、他業界の研究をすることはぜんぜん無駄じゃないし。」

「ありがとうございます。それでは、業界選び以外についてはどうですか? 何かこの時期に戦略の見直しとかで必要なことがあれば教えて欲しいです。」
「そうねぇ。やっぱり人気度等を考慮して、そろそろ現実的な会社の方がいいわね。」
「いわゆる大手病を辞めるってことですか。」
「そうね。うまくいってない人は大手の子会社とか、BtoBの地味なメーカーとかを視野に入れるのがいいと思うわ。あとは選考ステップが少ないところであれば持ち駒を増やしてもスケジュールがいっぱいになりづらいし、内定までにかかる時間も早くなるからおすすめよ。」
「たしかに、1個でも内定があるとないとでは全然気持ちが違いますもんね。」

「そうね。あと、逆もあるわよ。」
「逆?」
既に中小企業等でうまくいってる人は、大手に挑戦してみるといいと思うわ。自分が思ってる以上に就活が得意ってこともあるから。」
「なるほど……。」
「学歴が低い人とか、ガクチカが弱い人は、自分を過小評価してる可能性があるのよ。実際、それらと就活力が一般に相関してることは事実だと思うけど、全くのイコールではないの。勉強が苦手でガクチカも大したことないけど、エントリーシートや面接で自分をうまくアピールすることが得意という人は結構いると思うのよ。そういう人たちはどんどん上のレベルの企業に挑戦して欲しいわね。」
「たしかにそうですね。背伸びしてでも難しい企業に入ると、意外とそれが自分の中での普通になって、いつの間にか能力が身に付いたりもしますし。」
「ええ。それに近いことは受験や部活なんかでも嫌というほど経験してるわよね。私たちの場合、逆に、レベル低い層に慣れてしまうってことも多いけど。」
「はい。今日もありがとうございました。」

そこまで話したところで、席を立つ。今日は、本格的な就活解禁からの折り返し地点ということで、今後の作戦について改めて考えることができた。今までの方法でうまくいっていない人でも、たまたま運が悪かったりとか、面接スキルの習得に時間がかかっているだけということもあるので、必ずしも大幅な方針転換をする必要はない。しかし、スケジュールの期限は決められているのだから、方針転換ではなくやることを追加するのも視野に入れた方が良いと思う。具体的には、志望業界や志望企業を広げることだ。
忙しくて心身ともに大変だけれど、やるしかない。そんなことを思いながら、一日を終えるのだった。

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