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就活ガール#314  新卒エージェントは大手を紹介できない

これはある日のこと、同級生の美春と就活について相談していた時のことだ。

「ねぇ。新卒エージェントってどう思う?」
「うーん。結論から言うと、使う必要はないと思う。」
「どうして?」
「俺たちが就職することでカネを稼いでる奴がいるって、なんか気持ち悪いだろ。」
「えっ、そんな理由なの?」
「タダより高いものはないっていうだろ。こういう感覚的なものって意外と当たってると思うんだ。」
「まぁ確かに、いろいろと不気味ではあるわよね。エージェント以外にも就活生をうまく利用してお金を稼ごうとしている人って結構いると思うし。」
「うん。まぁ学生とはいえもう成人した大人なんだし、そういう人たちから自分の身を守る努力は自分でしないとダメだと思う。特に就活って精神的に追い込まれたりすることが多いから注意が必要だよな。」
「ええ。仮に相手が悪いことを証明してもせいぜいすっきりしたり数十万円とか数百万円のお金を取れるくらいで、失った新卒カードは二度と戻って来ないものね。」
「うん。そもそも自分が将来何をしたくてどういう企業を受ければよいのかって、自分で徹底的に考えて悩みながら決定することだろ。そういう重要な判断を他人に丸投げするような人は騙す側からしたら絶好のエサだろ。」
「厳しいわね。まぁ占いとか宗教とかもそういう人がはまりやすいとは聞くけど。」
「うん。もちろん、丸投げしたり流されたりしないでうまくエージェントを利用できる人ならいいと思うけど、就活生でそこまでできる人って少数派じゃないかな。」
「たしかにそうね。エージェントによっては、『就活に慣れていない学生をサポートしたい』とか言ってるみたいだけど、それって言い換えると『カモが欲しい』ってことよね。」

「うん。で、そういう感覚的なこと以外にももっと明確な問題はあって、まず、実際問題としてエージェントは大手の求人を持ってないんだよな。」
「それってエージェントの質によるんじゃないの?」
「もちろんそれはある。エージェントがどういう企業から求人を貰えるかはエージェントの担当者のコネとか営業能力とかによる。」
「そうよね。」
「ただ、そもそも大手企業はエージェントを使わない企業が多いんだよ。だからどんなに優秀なエージェントを探しても意味がない。」
「そうなんだ?」

「うん。エージェントの手数料って、1人が入社すると100万円弱だろ。文系だともうちょっと安いかもしれないけど。」
「そうらしいわね。中途採用だと年収の3割くらいと聞いてるから、年収300万くらいを想定して一律設定してるってことかしら。」
「あ、なるほどな。そういう考え方はしたことがなかったけど、そう言われてみるとそれも中小企業が多いからそうなってるのかもな。」
「大企業だと初任給が300万ってことはないものね。まぁ田舎の中小企業でも300万円はさすがに低すぎると思うけど。」
「うん。あとは中途採用に比べると面接内容が簡単で、求職者を選別するコストが少なくて済むっていうのも手数料が安い理由だと思うけどな。」
「中途採用だとその分野にある程度詳しいエージェントが必要だものね。エージェントの担当者ってだいたい業種や職種別に別れてるらしいし。」
「そうそう。システムエンジニアを専門にしてるエージェントとか、販売職を専門にしてるエージェントとかな。その点新卒は理系と文系くらいに分けてれば十分って感じだろ。」

「それで、新卒エージェントを大手企業が使わない理由は値段が高いってことなのかしら? それならむしろ中小企業のほうが採用にかけられる費用が少ないと思うけど。」
「いや、今どき自社ホームページとかハローワークとか無料の求人サイトとかだけだと人は集まらないだろ。だから中小企業であっても採用には結構お金をかけてる。どうしても無理な企業はコネ採用とかSNSで注目を集めたりしてるみたいだけど。」
「SNSで過激な動画を投稿している企業とか、人事担当者が名前や顔写真を公開してアカウント運用してる企業もあるものね。」
「うん。で、そういうのと違って多少お金をかけるとして、エージェントは入社に至って初めて費用が発生するから、中小企業としては安心なんだ。」

「求人サイトは違うの?」
「うん。求人サイトは最初に契約するんだ。中途採用だと2週間とか4週間とかだけど、新卒採用ならその年度の就活が終わるまではずっと掲載できるサイトが多い。」
「なるほど。1回の支払いで1年間掲載できるっていうのはお得な気がするわね。費用はいくらくらいかしら?」
「基本料金は100万円から200万円くらいかな。あとはスカウトメールを送ったりとか、目立つ場所に表示されるようにしたりとか、付属するマイページ機能も使えるようにしたりとか、そういうのを有料オプションとして追加できる。高くても数百万円程度で、よほどスカウトをばらまきまくったりしない限りは1,000万円を超えることはないな。」
「ってことは、十数人程度採用する企業の場合、エージェントと求人サイトでかかる費用が同じってことね。そしてそれよりも採用数の多い大企業は、求人サイトの方が得、と。」
「うん。まぁ求人サイトの場合は掲載した結果採用できなくても費用は返ってこないけどな。」
「ああそっか。たしかに求人がたくさん掲載されていると、ほとんど読まれることすらないまま掲載期間を終えるって企業もありそうね。」
「そうなんだよな。検索時にヒットしやすいようにいろんな制度とかを盛りまくったりしてるらしいけど。」
「大手企業を取引先として紹介することでその企業の名前で検索した人の流入を測ったりしてるのもその一環かしら。」
「あるある。あれ迷惑すぎるんだよなぁ。」
「私は逆に印象悪くなるんじゃないかって思うけど、私みたいに考える人はそもそも相手にしていないってことよね。何人に迷惑がられても採用目標を達成できれば十分っていうか。」
「そうだな。迷惑がられるっていっても一瞬イラっとするくらいで、いちいち迷惑な企業の名前を憶えてたりしないし。」
「やったもの勝ちってことね。」
「ああ。」

「私、話を聞いてて思ったんだけど、もしかして、たまにグループ企業で一括採用してる企業があるのも同じ理由かもね。」
「どういうこと?」
「たまに、〇〇ホールディングスで一括採用して、入社後すぐに子会社に出向してる企業があるじゃない。」
「ああ。待遇は変わらないって書いてるけどちょっと不安なんだよな。まぁ銀行ドラマとかで悪いイメージがついてしまっただけで、一般論として出向は別に悪くないらしいけど。」
「そうね。待遇は本社と変わらないし、数年で本社に戻ることが確定してることも多いしね。」
「うん。それで、それと求人サイトの話が何が同じなんだ?」
「つまり、企業側からすると大手の本体名義の方が検索にヒットしやすかったり、応募に繋がりやすいから、わざとそうしてるってことよ。」

「あぁ、なるほど。それはありそうだ。それに、『〇〇ホールディングス』って企業名だと、なんとなくグループ全体の幹部候補であるエリートって感じがするしな。」
「実際問題、採用する人なんてほぼ全員幹部候補だと思うけどね。特に新卒総合職で採用して幹部候補じゃないなんてことありえるのかしら?」
「たしかに言われてみれば基本的にはあり得なさそうだ。とはいえ子会社社員だと出世はある程度のところで頭打ちなんだろうなぁ。」
「その辺についてはまた今度話してみたいわね。」
「うん。今日もありがとう。」

そこまで話して会話を終えた。今日は企業側から見た新卒エージェントと求人サイトの比較をすることができた。一般論として、採用人数が多くなればなるほど求人サイトの方が有利だというのが結論だ。しかし、採用人数が多くても知名度が低いなどして求職者が集まらない場合は、結果として新卒エージェントを利用した方が得だということになりかねない。そこで、企業担当者としては、求人サイトでうまく目立ったり、閲覧者のうち多くの割合が応募に繋がるようにいろいろと工夫をしているということだろう。
そんな企業側の担当者の苦労を削減できるという意味でも、エージェントは使い勝手が良いのかもしれないと思ったけれど、それもやっぱり中小企業に限った話である。大手企業であればそこまでしなくても求人サイトから応募者が集まってくるので、どこまでいってもわざわざエージェントを利用する合理的な理由はほとんどないと思う。そうすると、俺たち就活生の側も、まずは求人サイトから大手企業に応募するので十分ではないかと思った。そんなことを考えながら、一日を終えるのだった。

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