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就活ガール#242 不合格者には連絡が遅い?

これはある日のこと、キャリアセンター前のカフェで同級生の美柑と雑談をしていた時のことだ。詳しい事情はよくわからないけれど、なぜか就活や人事事情にかなり詳しい美柑は、口は悪いけれどとても頼りになる存在である。

「なぁ、この前受けた面接の結果がまだ来ないんだけど落ちたかな?」
「そんなこと私が知るわけないでしょう。」
「そりゃあそうだけどさ。不合格だと連絡が遅いから気になってしまうんだよなぁ。」
「不合格連絡が来るまでは不合格確定じゃないわ。可能性は低いけど、1か月くらい経ってからいきなり合格連絡が来ることもあるでしょう。」
「補欠扱いされてるってことだよな?」
「そうね。長期間待たされた後に連絡が来るのは、他の人が次の選考で不合格になった、もしくは辞退されたから今さらの合格連絡が来てるってケースがほとんどよ。」
「なんか癪に障るんだよなぁ。ほとんどの場合は既に不合格がほぼほぼ確定してるっていうのはわかるんだけど、そういう万が一のケースもあるから期待してしまうだよ。わかるだろ?」
「まぁわからなくはないけど、癪に障ろうがなんだろうが実益が一番大事でしょ。不合格連絡が来ていない限りは不合格じゃないのよ。」
「うん、合理的に考えるとそうだよな。わざわざ早く不合格連絡をもらうメリットって、精神的に落ち着くということ以外にはないと思う。」

「そうなのよ。常識的に考えればそれくらいわかるはずなのに、たまに選考結果を急かして自爆する人がいるわ。ほんと馬鹿だなって思っちゃうわね。」
「馬鹿なのか……実際に行動に移すかどうかは別として、急かしたくなる気持ちはわかる気がするけど……。」
「ええ、大馬鹿よ。急かしていい結果になるわけないでしょう。急かした時点で不合格になる確率が爆上がりよ。」
「そうなのか? 別に急かしても急かさなくても結果は決まってると思うけど。」
「結果が確定していなくて、保留してる場合もあるじゃない。たとえば他の人の面接結果を待ってる場合とか。」
「まぁそうだけど、そういう場合に結果を急かすと不合格になるのか?」

「そりゃあそうよ。企業側からしたら、生涯年収3億円がかかってるのよ。保留にしたいけどこれ以上できないっていう状況であれば、とりあえず不合格にして他の人を探そうってなるわ。迷ったら不合格。これが人事の鉄則なのよ。」
「なるほど……。そもそも連絡が遅い時点で迷ってる程度の人材ってことだから、これ以上迷うことが許されないのなら不合格にするよな。」
「その通りよ。急かして得をするのは明らかに合格だけど何らかの事故等で連絡が漏れているのではないかと思った時くらいね。基本的には急かしていいことはないわ。」
「企業側はしれっと引き延ばして補欠としてキープしてやろうと思ってるわけで、それに対してやや後ろめたい思いがあるから、急かされると結果をすぐに出さないといけないなって思うってことだよな。で、結果を出すとすれば迷ったら不合格になる。」
「ええ、そうよ。だから連絡が来なくても急かしたらダメ。連絡が遅いっていう時点でどのみち不合格の可能性が高いとは思うけど、そんなことは忘れて他の企業を受ければいいだけよ。少しでも残っている合格の芽を、わざわざ自分から潰しに行くのは愚かだわ。」
「たしかに、そもそも論として1つの会社で一喜一憂してても意味ないし、結果を待ってドキドキすることで合格率が上がるわけではないんだよな。」
「そこまでわかってるなら急かすとか馬鹿らしいこと言うんじゃないわよ。」
「はい。すみません。」

「まぁいいわ。それで、話は終わり?」
「いや、他にも聞きたいことがある。」
「どうぞ。」

「そもそも企業側が不合格者に遅く連絡をするのってなぜなんだ? 合格者が決まってるということは不合格者も決まってるわけだから、別に同時に連絡したっていいだろ。全部の企業が補欠枠を設けてるわけでもないと思うし、特にエントリーシートや適性検査みたいな選考序盤だったら、補欠枠って不要じゃないか?」
「そうね。たしかに選考序盤で補欠枠が設けられることは少ないわ。それに、適性検査って結果を機械的に判断してる場合が多いから、後から合格基準を緩めるっていうことがあまりないわね。いずれにしても、選考序盤ほど同時に、かつはっきりと、合否が別れるわよ。」
「だろ。でも実際は書類選考の結果って合格してる人が早く来て、不合格の人は遅いんだよ。これってなぜなんだ?」

「理由はいろいろあるけど、まずは事務処理的な都合でしょうね。」
「事務処理的な都合?」
「ええ。合格連絡をすると、企業側はどうなると思う?」
「どうって言われても……。次の面接が予約されるのを待って、面接するだけじゃないか?」

「違うわね。まずは次の選考に関する問い合わせメールが殺到する。日程都合が合わないから変えて欲しいとか、面接時間は何分間なのかとか、服装は自由なのかとか、いろいろね。」
「なるほど。注意書きとかにいろいろ書いてたとしても、人数が多ければそういう問い合わせはあるだろうな。」
「ええ。あとは辞退の連絡とかもくるし、次の面接の予約をミスってしまったとか、マイページのパスワードを忘れてしまったとか、まぁとにかくいろんな連絡が届く。」
「人事も大変なんだな……。」

「ええ。これに不合格者からの問い合わせまで混ざったらどうなると思う?」
「不合格理由を教えろとか、再チャレンジさせろとか、逆ギレとか、いろいろ届いてますますカオスになる。」
「その通りよ。これが不合格者への連絡が遅い一番の理由ね。」
「連絡後は問い合わせが殺到して忙しくなるから分けて連絡することで業務の負荷を分散したいっていうことか。」
「ええ。あとは次の面接の予約ページのサーバー負荷とかもあるわ。要するに分散したいっていうだけなのよ。」
「意外とシンプルな理由なんだな。言われてみれば納得だけど、なんか拍子抜けした。」
「ええ。学生側が考えすぎっていうケースが多いと思うわ。もちろん補欠をキープしたいっていう意図もあるんだけど、そういう企業だけではないの。むしろ、負荷分散のために連絡タイミングを分けてるっていうだけの企業の方が多いと思うわ。」

「一応聞きたいんだけど、他にも理由はある?」
「補欠を確保するためと、負荷分散以外?」
「うん、そう。」
「もちろんあるわよ。そもそもなんだけど、企業は不合格者に早く連絡するメリットがないわ。だから単純にめんどくさい。」
「雑過ぎるだろ。」
「特に面接とかだと、不合格者が随時発生するじゃない? 仮に100人に100回メールを送るとすると、それだけで結構な手間なのよ。」
「連絡を遅らせても手間は同じだろ。」
「いいえ。面接が終わった人から順に不合格者をストックしていって、一定程度たまったら一斉メールで連絡するの。もちろん、互いに連絡が気が見えないようにBCC機能を使ったりするわよ。こうすると、送る側の手間はかなり省けるでしょう?」
「た、たしかに……。」
「まぁこれも事務処理上の都合の一種だから、結局はさっきの話の一部ともいえるけどね。」

「結局、人事って自分たちの都合しか考えてないんだなぁ。」
「当たり前でしょう。限られた時間や人員で、良い人をたくさん採用する。これが人事の仕事なのよ。そのために効率化することを日々考えてるわ。」
「だよな。」
「でも、逆に言うと、それ以上のことは考えていないのよ。学生を無駄に困らせてやろうとか傷つけてやろうとか、そういうことをするメリットは何もない。単純に、自分たちの利益を追求してるだけ。だから、学生側も同じ姿勢で挑めばいいのよ。変に感傷的になる必要は全くないわ。」
「なるほどな。俺たちも俺たちが少しでも良い会社に入るという目的のためだけに動けばいいんだよな。」
「ええ。」
「わかった。今日もありがとう。」

美柑に礼を言って、話を終えた。企業がなかなか不合格を通知してこないと、早く教えて欲しいような、それでももしかしたら受かっているのではないかと期待してしまうような、なんとも言えない気持ちになる。しかし、このようなことで一喜一憂している余裕は就活生にはないのである。企業側が人的資源の定期補充という目的のために粛々と合理的な採用を行っているのと同様、学生側も粛々と少しでも自分が満足できる企業に入れるように手続きを進める。就活というのは究極的にはそれだけの話なのだろう。そう考えると、たいていのことは割り切って行動できる気がする。そして、企業や就活生がそれぞれの最適を目指しての行動をすることが、巡り巡って社会全体の最適解につながるのではないか。そんなことを思いながら、一日を終えるのだった。

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