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就活ガール#309  『全通』はあるのか?

これは夏休み中のある日のこと、カフェで同級生の美春と就活について話していた時のことだ。

「なんだか最近、忙しくなってきたわ。」
「インターンか?」
「うん。夏のインターンシップがたくさん入ってるのよ。そのほとんどは選考が無かったり、あってもエントリーシートだけっていう緩いものだったりするけど。」
「ガッツリ選考ありのインターンシップは参加が難しいよな。」
「うん。エントリーシートの内容的に目立ったアピールポイントがあるわけではないし、ウェブテストで落ちてることもあると思うわ。面接まで進めても不合格になることのほうが多いわね。」
「あと、あまり言い訳にしても仕方ないけど、インターンシップは本選考より学歴重視だよな。」
「企業が選考に時間を割けない分、わかりやすい実績や肩書が求められるのは仕方ないわね。不満があるなら私たちも受験勉強頑張れば良かっただけの話だし。」

「だな。とはいえこの時期はレベルが高い就活生が多いから、比べられるとキツいよなぁ。」
「そうね。大手企業を目指すなら彼らと戦わないといけないもんね。」
「うん。今後平凡な就活生が界隈に増えてきたとしても、結局俺たちが目指すような企業でまともに勝負になるのは今から就活をしているようなレベルの高い人達だから、実際は時期は関係がないと思う。」
「そうね。なんだかんだと理由をつけてハイレベルな人を視界から除外しがちなのは悪い癖だわ。」

「ところで、さっき『ほとんどは選考がないインターン』っていってたけど、たまには選考突破してるのか?」
「うん。全通って噂もあるけど。」
「全通ねぇ……。本当にそんなことあるのかな。」
「常識的に考えて、全員通過なんてことはありえないわ。だってそれなら選考をする意味がないじゃない? 企業だってコストをかけて採用活動をやってるわけだし、全通の試験を行う理由がないわ。」
「だよな。あと、全通ですかって公の場で尋ねる人って、たいていの場合自分は通過してることが多いよな。」
「そりゃあそうよ。自分が落ちてたら全通じゃないってことが確定してるじゃない。」
「あ、そうか。当たり前だな。でも、だからといって全通だっていう噂を流したり質問したりするのはなぜなんだろう。」

「いくつかあると思うけど、まずは自分が受かっていたことが意外過ぎるっていうパターンが考えられるわね。適当に書いたエントリーシートとか、全然解けなかったウェブテストとか、ほとんど発言できなかったグループディスカッションとか、うまく答えられなかった面接とか、そういうので合格していた場合よ。」
「たしかに自分でも確実に落ちたと思っていた選考に合格してるってことはちょくちょくあるよな。面接だとさすがに稀だけど、エントリーシートや適性検査だとわりとある気がする。」
「そうよね。そうすると、全通を疑ってしまうんだわ。」
「なるほど。」

「あとは、自分の身の回りで落ちた人がいないパターンもあると思うわね。」
「うん。それは想像できてた。特に就活序盤は募集している企業が少なくて、知り合いと同じ企業に応募するってことが多いから、なんとなく知り合いたちの選考状況がわかるよな。」
「そうね。そしてその中には自分よりダメそうな人とかもいて、そういう人が受かってると全通なんじゃないかって疑惑を持つんだと思うわ。」
「なるほど……なんかちょっと嫌な人間心理が見え隠れする話だ。」

「そんなものよ。そもそも全通ですかって公の場で聞くこと自体が、あまり褒められた行為ではないでしょう?」
「全通のワケがないのにそういうことを言われても、落ちた人が不快になるだけだよな。受かった人も素直に喜べなくなると思うし。」
「ええ。とはいえ、就活って皆不安だから、こういう意味のないどころか周りに不快感をバラまくだけの発言をしてしまうのもある程度仕方ないと思ってるわ。」
「大人だなぁ。」
「気にしていても仕方ないもの。今は選考が全通なのかっていう話で盛り上がるけど、あと何か月かしたら内定があるとかないとか、内定が無いと思ってた仲間に内定が出たとか、いろいろと進捗で個人差が出るじゃない?」
「たしかに。そういう時にいちいち周りの様子で一喜一憂していても仕方ないもんな。」
「ええ。多くの人が極限状態で戦ってるわけだから、ギスギスするのは仕方ないのよ。むしろそれくらい本気出さないと勝てないと思ったほうが良いんじゃないかしら。」
「たしかに、ゆるゆるやってたら満足いく内定を得られないっていうのはよく聞くよな。」
「ええ。もちろん他人に対して気遣いができるに越したことはないけど、優先順位としては低いのよね。最悪、諦めても良いんじゃないかしら。」
「信頼できる友人が数人いれば、あとは適当でもよさそうだな。」

「そうそう。あと、私はさすがに全通はないと思うけど、それに近い状況はあると思うわ。」
「近い状況?」
「ええ。例えば記念受験っぽい人以外は全員通ってるとか、応募総数が思ったよりも少なくて、全通に近い感じになってるとかね。」
「就活生の間で話題になる企業ってどこも人気だから、応募総数が少ないなんてことあるのかなぁ。」
「そりゃあ人気なんて相対的なものだもの。たまたま同じ日程でさらに人気の企業がインターンシップや選考を実施している場合だってあるわ。それに、張り切ってインターンシップの枠を作りすぎたけど、実際にはそこまで集まらなかったっていう場合もあるし。」
「それもそうか。職種別の応募になってる場合は、一部の職種の応募要件が厳しすぎて学生が集まらないなんてこともありそうだ。」

「そうね。応募要件ってあくまでも目安だから、必ずしも全て満たしていなくても応募すると意外と受かったりすることもあるらしいけど。」
「そうなんだ?」
「ええ。おそらくこれも、思ったよりも人が集まらなかったから起きる現象でしょうね。」
「なるほど。一応応募してみる価値はあるってことか。」
「ええ。まぁそもそも新卒採用の場合はインターンシップでも本選考でもそこまで高い要件は求められていないことが多いわよね。」
「うん。『チャレンジ精神のある方』みたいな抽象的な要件が多いから、自分があてはまると主張して面接でアピールすれば押し切れる気がする。」
「そうね。私もそう思うわ。」

「でも、それでも、全通になるほど応募総数が集まらないなんてことあるのかなぁ。インターンシップの枠って数十人とか数百人くらいだろ。大手人気企業だと数千とか数万単位で応募があるっていう話をよく聞くぞ。」
「ここでいう枠っていうのは、あくまでも一つの選考ステップの話よ。」
「どういうこと?」
「例えば一次面接の枠を1,000人分用意して面接官のスケジュールを抑えておくとするじゃない。そこにエントリーシートが1,000通しか来なければ全通でしょう?」
「ああそうか。最終的に何人合格するかは関係ないんだな。」
「そうそう。企業によってはエントリーシートよりも面接を重視してるところとかあるしね。」
「しばらく前から、人物重視とかいうのが流行ってるもんな。」
「ええ。」

「そういえば、ネットで狙い目とかって書かれてるインターンは人が集まりやすそうで嫌なんだよなぁ。」
「どうでしょうね。就活生のうちSNSで日常的に情報を探している人ってそこまで多くないと思うし、本当に人気企業ならその程度で倍率に大きな影響は与えないんじゃないかしら。」
「なるほど。逆にそれで倍率が大きく変わるのは、そもそも応募者の絶対数がすくないってことか。」
「ええ。」
「いずれにしても応募して損はしなさそうだな。」

「そうね。そもそもだけど、この手の『おすすめ企業まとめ』みたいなのってよくSNSで流れてくるけど、見てるだけの人が多くて、実際に応募に至ってる人はほとんどいないと思うわ。」
「俺じゃん。」
「私もよ。ダラダラとインターネットで流れてくる情報を受動的に見てるのは就活をしてるとは呼べないから、気を付けた方がいいわね。」
「わかった。今日もありがとう。」

そこまで話して会話を終えた。今日は就職活動で噂されがちな全員通過について考えることができた。たしかに、企業側の当初の想定が甘かったことなどが原因で、全通に近い状態になることはあると思う。しかし、不用意な発言で無駄に敵を作っても良いことはないだろう。選考の序盤での通過者が多かったとしても、結局最終的に合格する人は限られているのだ。相対評価である以上は他人の動向に最低限の気を配る必要はあるが、それよりも自分の基礎能力を磨いたほうがよい人が圧倒的に多数派だろう。そんなことを思いながら、一日を終えるのだった。

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