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就活ガール#174 解答集は自分で作る

これはある日のこと、バイト先のコンビニでのできごとだ。俺がのんびり商品の整理をしていると、店長の薫子さんが話しかけてきた。

「夏厩くんって、適性検査はどうしてる?」
「どういう意味ですか? 普通に自宅とかテストセンターで淡々と解いてますけど。」
「あ、そうなんだ。」
「それ以外にあるんですか?」
「いや、ほら、言っちゃ悪いけど夏厩くんって勉強得意な方じゃないと思ったから。」
「ああ、そういうことですか。たしかに解答集を使うことも多いですよ。」
「お、やっぱりそうなのね。実は最近はいったバイトの子、まだ2年生なんだけどね。その子から相談されて、今の就活生はどうしてるのか聞いてみたかったのよ。私が就職活動していた頃はまだ解答集っていう文化がほとんどなかったから、今とは違うと思うのよね。そもそも昔はオンライン受験ではなく企業に出向いてペーパーテストを受けさせられるってことも珍しくなかったし。」
「なるほど。わかりました。知ってることは全部お話します。」

俺の知っている知識といっても、そのほとんどは周辺の人から教えてもらったことだ。別にそれらをたまたま同じ店で働いてるだけで仲良くもない後輩バイトに教える義理はないけれど、人助けをするのも悪い気はしない。それに、自分の経験や知識を他人に伝えることを通して頭の中が整理できるということは往々にしてあるので、俺にとっても良い勉強になると思う。というかそれ以前の話として、薫子さんにはいつもお世話になっているので協力できることは協力したいという気持ちがある。

「解答集って、SNSとかで買ったのかしら?」
「はい、最初は買いました。5,000円くらいだった気がします。でも結局は自分で作りましたね。」
「自分で作る? 最近の就活生はそんなことまでしてるのね。」
「はい。売ってる回答集って結構古い問題も多いんですよ。実は、SPIの公式サイトを見ると、担当者が随時書店を巡って人気の攻略本を片っ端から購入して、そこに載っているような問題は他の問題と入れ替える対応をしているっていう趣旨のことが書かれてるんですよ。」
「SPI作ってる企業の公式ホームページってことは、お客様となるいろんな企業の人事の人たち向けに話を盛ってる可能性はあると思うけど、いたちごっこなのは間違いなさそうね。」
「はい。実際、対策本の購入もやってみたんですけど、そこまで効果があるとは思わなかったです。非言語の方は比較的類似した問題が出てくるんですけど、言語の方は同じ問題はあまりでないんですよ。で、単語の意味とか知らないと答えられないので、非言語と違って問題形式が似ていることには何の意味もないんです。」
「たしかにそうね。言語問題は非言語問題よりも対策がしにくいというか、日々の積み重ねが大きい気がするわ。」

「はい。でも、積み重ねって言っても現実的にはどう対策していいか分からないし、頑張っても俺の頭では限界があったり、あるいは勉強の必要性を感じた時には既に手遅れだということもあります。で、さっきのホームページの記載を逆に考えると、まだ攻略本に載っていないような新しい問題は使いまわされる可能性があるという意味だとも思うんです。」
「なるほど、賢いわね。」
「ありがとうございます。でもほぼ全部、先輩や友人などに聞いたことです。」
「なんだ。さっきの言葉は取り消すわ。」
「すみません。」

「冗談よ。それで、自作で解答集を作ったんでしょう?」
「はい。」
「その辺がさすがよね。誰かから役立つ情報を聞いたり自分で調べたとしても、それを実行できる人って本当に少ないのよ。おすすめの本を聞く人ほどなかなかそれを読まないし、おすすめのダイエット方法を調べることはあっても実際にすることはできないわよね。勉強しただけで満足してしまうっていう人は本当に多いと思うわ。歴史とか化学みたいな学校の勉強ならそれでもいいんだけど、ノウハウ系のものは実行するために勉強してるってことを忘れたらダメよね。」

「たしかにそうですね、ありがとうございます。おすすめの何かってまぁ話のネタとして聞いたり聞かれたりするんですが、聞かれる立場になると『どうせこの人はおススメしてもそれに沿わないんだろうなぁ』とは思ってます。」
「まぁ役に立たないアドバイスをする人も珍しくないから素直に聞きすぎるのもいかがなものかとはおもうけどね。それで、解答集はどうやって作ったのかしら?」

「まず、自宅でウェブテストを受ける時に、毎回全て画面を録画して保存します。で、次に、それを後から振り返って全部解くっていうだけです。もちろん俺の頭では解けないところもあるので、親に聞いたりネットで調べたりします。」
「友達には聞かないんだ?」
「俺の友達はだいたい全員勉強できないので聞いても意味ないんです。」
別に自慢することでもないが、なぜか自信満々にそう答えると薫子さんに笑われた。実際、まわりに優秀な友達がいないというのはハンデになっている。優秀でない友達も友達には違いないが、就活においては優秀な人と仲良くなると得をすることが多いのも事実だと思う。とはいえ、それは簡単ではないのだ。

「フフ、なるほどね。まぁバイト先の同僚とか、SNS上の友達とか、キャリアセンターの人とかに聞いてみるのもいいかもしれないわね。」
「そうですね。結論として、いろんな人の意見を聞いて正しい答えを一覧化する必要があるというだけです。ただ、ここで回答を間違えると後々毎回間違えることになるので、多少は慎重になったほうがいいと思うんですよね。」
「たしかにウェブテストって何が正解か公式には発表されないから、一度間違ったままリスト化すると、永遠に同じ間違いを繰り返してしまうわね。」
「はい。あとは、エントリーするだけでウェブテストを受けられる会社一覧とかって情報がSNSで見つかったりするので、そういうのを片っ端から受けて回数を重ねます。俺はインターンのピーク時にはまだ就活やってなかったのであまり応募できなかったんですけど、できればインターンの応募時からやってればよかったなと思いますね。」
「そうね。準備は早いほどいいわ。たださっきの話によると早すぎても問題が変わってしまうことがあるらしいけど。」
「そうですね。その辺は難しいですが、あんまり気にしても仕方がない気がします。そういう意味では攻略本の問題も解答集に追加してもいいのかもしれないですね。ファイルが重くならない程度であればデータソースは多ければ多いほどいいですから。」
「うん。そうかもね。」

「それで、解答集ができたら、後はそれを検索しやすいように一覧化するだけですね。あと、言語問題は解答集もいいけど、シンプルにウェブ検索するだけでも十分わかることが多いです。」
「たしかに、対義語や類義語は検索すれば簡単にでそうだわ。」
「はい。」


「結局は事前準備と、当日の検索力や電卓を叩く速さみたいなテクニック論が重要よね。」
「俺はそう思いましたね。準備しなくてもなんとかなる学力があるのがもちろん一番いいんですが、そうじゃない人は準備するしかないです。そして、準備については他人はあまり頼れなくて、自分で解答集を作るのが一番ですね。」
「わかったわ。いろいろありがとう。今日は私がたくさん教えてもらったわ。」
「いえ、とんでもないです。いつもこの何倍もお世話になってるので。」
「フフ、じゃあこれからもよろしくね。」
「はい。ありがとうございました。」

そこまで話、仕事に戻ることにした。今日は、珍しく自分が薫子さんに教える立場になった。それを通して、自分の話のどこに他人が興味を持つのかとか、どこがわかりづらいのかということがハッキリするように感じた。やはり、情報をアウトプットすることで学べることも多いのだ。

また、俺たちはすぐに非公開情報や口コミを頼りたくなってしまうけれど、実際は、適性検査に限らず役立つ情報は既に公開されていることが多い。アメリカのスパイですら、持っている情報の9割は、それらの合法的な手段で入手できる情報の寄せ集めらしいのだ。世界にはそれだけ有益な情報が転がっていて、あとはそれをどう利用できるか次第なのだろう。

例えば、企業が求めている人材についても良く採用ホームページを見ると、かなり具体的に書かれていることがある。また、ニュース検索などを使って社名を調べると、その会社が最近注力していることがわかる。このような情報をしっかり拾って分析することが、面接で説得力がある話をすることに繋がったり、他人と差別化できたりするのだと思う。そんなことを振り返りながら、一日を終えるのだった。

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