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就活ガール#181 内定関係の悩みは皆ある!

これはある日のこと、バイト先のコンビニでのできごとだ。いつも通りガラガラの店内のなかでも、ひときわ客が少ない時間帯を見計らって、後輩の日野原さんが話しかけてきた。

「内定率、上がってきましたね。」
「そうだな。4月の頭の時点で46パーセントらしい。昨年よりも8ポイント高いんだってさ。毎月やってる調査だけど、加速度的に上がってるから、5月頭では50パーセントはもちろん60パーセントも超える可能性が結構あると思う。」
「調査方法にもよるので46パーセントという数値が正しいかはともかく、去年の同じ時期に同じ方法で測定した結果よりも上がってるのは気になりますね。」
「それだけ就活の早期化が進んでるってことだろうな。内定率は気にしなくていいって意見も結構あるけど、俺は気にした方がいいと思う。」
「どうしてですか?」
「気にしないでいいって言ってる人は、過去との違いをふまえた上での比較ができてないパターンが多いんだよ。1年前と比べても少しとは言えないレベルで加速してる。だから、個々人が持ってる感覚値ってのはあまり信用しない方がいいと思うんだよな。」
「たしかに、数値で見ると客観的にわかりますね。」
「うん。それに、内定率が上がるということはそれだけ残りの席の数が減ってきてるってことだし、これは傾向としてはまともな企業から順に減っていくだろ?」
「はい。7月以降に残ってる企業は何か問題がある場合が多いと思います。」
「だから、程よく焦りは持った方がいいと思うんだよ。もちろん、気持ちだけ焦って何もしないっていうのは一番よくないから、そうなるくらいなら気にしない方がいいと思うんだけど、ベストはしっかり現状を把握して、気持ちではなく行動を変えられることだと思うんだ。」
「仰る通りですね。たしかに内定率が46パーセントというのが間違いで実際は30パーセントだとしても、結局早く内定を取らないと就職活動を終えられないのは変わらないですし、そのためにやるべきことは皆わかってるはずです。」
「うん。」

「それで、内定が出そろってくると、また次の悩みが出てくると思うんですよね。」
「次の悩み?」
「例えば、複数の内定先からどの会社を選ぶのかとか、内定辞退の方法についてです。」
「ああ、たしかにそうだな……。内定を承諾していいのかとか、取り消しされるんじゃないかとか、辞退はどうするのかとか、内定関係の悩みは皆あると思う。俺も内定2つあって、両方とも承諾書にサインしてあるけど就職活動を続けてて、どうしたらいいか正直悩んでる。」
「相談しないんですか?」
「まだ内定持ってない人もいるから聞きづらいんだよ。誰に相談していいかもわからないし。」
「え、絶対した方がいいです。」
「やっぱりそうだよな。」
「はい。せっかく内定取ったのに、最後の最後で選択を誤ったら全部台無しじゃないですか。最終的に入社できる企業が1つしかないってことは、内定後に1社に絞るまでが就職活動なんだって思ったほうがいいと思います。最後の最後で詰めが甘くなると、後悔すると思います。」
「うん。」
「なんか最近、友達に内定報告するのが良くないっていう風潮あるじゃないですか。ああいうの本当にくだらないと思うんです。自分に内定が無い状態でも友達の内定を心の底から喜べとまでは思わないですけど、少なくとも、友達に気を遣わせてるようでは良好な関係とは言えない気がします。」
「お、おう。」

「あ、すいません。話し過ぎました。」
興奮気味に話していた日野原さんが、少し落ち着いた口調に戻る。
「いや、日野原さんの言う通りだと思う。人間だから色々感情はあるけど、ちゃんと腹を割って話した方がいいよな。」
「はい。とはいえ、内定辞退とかってまだ内定が無い人に相談することでもないと思うので、まずは誰に内定があるかを探れるなら探ったほうがいいと思います。というか、普通に聞けばいいと思います。そこでないって言われたら、それ以上聞かなければいいだけなので。」
「そりゃあそうだ。で、最初の内定率の話に戻るんだな?」
「ええ、仰る通りです。さっきの調査からもわかるように、内定率は既にかなり高くなっています。なので、周囲には内定を持ってる人ってほぼ確実にいると思うんですよ。でも、皆それをどういう風に伝えるかで疑心暗鬼になってるだけです。」
「たしかに、2人に1人いるってことは、大学の講義室で左右に座った人のどちらかは内定があるっていうことだよな。」
「確率的にはそうなりますね。まぁ大学にもよると思いますけど。」
「あ、うちみたいなFラン大学だともっと低いか。」

「あたりまえですけど、内定承諾書を書いたり内定辞退するってほとんどの人が経験したことないじゃないですか。」
俺の自虐ネタには答えず、日野原さんが話を変える。
「うん。」
「それで、エントリーシートや面接はわりと感覚的というか、雰囲気でそれっぽいことを言えば受かるっていうか、ある種の遊びというか、ノリと勢いと試行錯誤で進められたと思うんです。でも、内定関係の話になってくると急に法律論なんかが出てきて、一気に話が固くなりますよね。」
「たしかに。急に書面にサインや押印が求められるんだよな。」
「だからみんな身構えてるんです。あと、話変わりますけど、最近では内定通知かどうかを曖昧にする企業も増えてるらしいですよ。」
「なにそれ?」

「最終選考に合格したという通知はするんだけど、内定通知は送らないみたいな感じです。」
「よくわからないな。最終選考に合格したら内定じゃないのか。」
「実際に内定を出すかどうかは、その後の面談を経て決めるなんてことを言われるそうです。」
「え。それって、最終選考終わってなくないか?」
「ですよね。笑っちゃいます。いえ、笑い事ではないんですけど。」

「企業としては内定辞退を防ぐために多めに内定を出したいけど、全員を入社させるわけにもいかないからキープしたいって感じかな?」
「そうだと思います。それで内定状態か内々定状態か選考中なのかを曖昧にして、いざというときに入社させないようにもできる逃げ道を確保したいんでしょうね。」
「さすがに卑劣すぎる気がするけど……。」
「はい。私もおかしいと思います。そういう対応をされると、就活生としては就職活動をやめていいかどうか不安になりますよね。」
「うん。」
「あとは一応、内定者が決まってから一斉に通知手続きとかに移ったほうが事務作業が楽っていうのもあると思います。とはいえ、こういう行為をしていい理由としては弱すぎると思います。」

「ああ。そういう企業にあたった場合はどうすればいいんだろう?」
「まずは、それだけで志望度を下げないことですね。」
「うん。それはわかる。良くないとは思うけど、会社も必死に生き残り戦略を図ってるだけだからな。」
「そして、企業に確認することだと思います。はっきりと、『次の面談の結果内定がでないこともありえるのか』と聞いたほうがいいと思います。できればメールなどの証拠が残るもので聞いたほうがいいですね。」
「電話だと通話履歴は残るけど、内容までは残らないもんな。」
「はい。業務上の連絡が電話ではなくメールで行われることが多いのもそれが理由だと思います。仮に電話をしたとしても、後でわざわざメールして内容が相違ないか相手に確認するみたいな仕事の進め方はよくあるっぽいです。」
「なるほど。」

「まぁこれは一例ですけど、そういう感じで内定前後の悩みって意外とみんな持ってるんですよね。で、解決するためのノウハウを持ってる人も多いと思います。だからやっぱり、早めに共有や相談をして、どうすべきか考えた方がいいんじゃないでしょうか。本当に、ここでミスると今までの努力が台無しですから。」
「ああ。それに、内定を得るってすごく嬉しいんだよ。特に最初の内定は本当に嬉しい。だから、思わず誰かに言いたくなってしまう気持ちは俺もわかるんだ。」
「フフ、そうでしょうね。これまでの苦労が報われたって感じがするでしょうから。」
「うん。だからあまり深く考えずにちゃんと周りにも伝えようと思う。いろいろありがとう。」
「いえ、いろいろと一人で語ってすみませんでした。」

そこまで話したところで、仕事に戻ることにした。日野原さんの言うように、もはや内定を持っている人が多数派の世界になりかけていると思う。とはいえまだ内定が無い人もたくさんいるから気を遣うのもわかるけれど、まずは自分の人生の方が重要だ。最後の最後で判断を誤ると取り返しのつかないことになるので、周囲の意見を聞いたり、先方の人事に問い合わせたりしながら慎重に判断するのがよいだろう。そんなことを思いながら、一日を終えるのだった。

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