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就活ガール#243  意外とルーズな勤怠管理

これはある日のこと、バイト先のコンビニで店長の薫子さんと話していた時のことだ。薫子さんには、最近、社会人経験を通して感じたことなどを聞いている。現役就活生や直近の先輩とは違った立場からの意見がもらえるので、とても新鮮だ。

「薫子さん、相談してもいいですか?」
「なぁに、就活のこと?」
「そうです。」
「もちろんいいけど、今日はどうしたの?」
「社会人になった後ってどういう生活を送るのかなっていう漠然とした疑問というか不安みたいなのがあるんです。一日のスケジュールとかを求人サイトに載せてる企業は多いですが、あれって所詮はサンプルですよね。」
「そうねぇ。そもそも書いてる内容も曖昧過ぎるわよね。「会議」とか「明日の打ち合わせに向けた準備」とか言われても、何をそんなに会議することがあるのかって思うんじゃないかしら。」
「そうそう、そうなんですよ。他にも、なんかわざとらしく『今日は忙しかったので残業! 普段は定時に帰ります。』みたいなことが書かれてたりして、本当かよって思うんですよね。」
「嘘でしょうね。」
「やっぱり嘘ですか……。」

「そもそもなんだけど、忙しいから残業とか、忙しくないから早く帰るとかってあまりないのよね。」
「どういうことですか?」
「わりとダラダラと働いてる人が多いってことよ。忙しい時はしっかり働いて、暇な時はネットサーフィンをしてる。それで結局同じ時間に帰るのよ。特にホワイトカラーの仕事って、そんなに毎日決まった量の仕事が降ってくるわけじゃないのよ。」
「なるほど……。まぁよく考えたら会議って多い時期とかそうじゃない時期ってあると思いますし、毎日勤務時間が異なってると人生設計が大変だから、とりあえず出社してからやることを探すみたいな側面もあるんでしょうね。」

「そうね。もちろんピンポイントで忙しい日もあって、そういう時には昼休みも返上して20時とか22時、あるいはそれ以降までずっと働き続けることはあるわ。でもそれが何週間も続くようなことは通常ないわね。もちろん、ある程度のホワイト企業であることが前提の話だけど。」
「9時に勤務開始として、20時までだと11時間拘束ですもんね。仮に昼休みをしっかりとれたとしても、勤務時間だけで見ても10時間もあります。」
「そうそう。月間で45時間を超えたら法律的にも徐々に厳しくなってくるわ。1か月の営業日って21日から22日くらいの月が多いから、平均すると1日2時間ね。」
「個人的には8時間でも大変だと思ってしまうんですが、逆に言うと1日2時間くらいまでなら法的に許されるってことなんですね……。」
「ええ。残業って皆わりと好き好んでやってるからね。」

「残業を好き好んでやるってどういう世界線なんですか……。」
「そりゃあ残業代をもらうためよ。残業代なんて給与の一部なんだから、残業代が少なすぎると困るわ。」
「そこまでして欲しいものですかね? 基本給がある程度しっかりしてる会社なら、必要ないと思いますが。」
「欲しいわね。残業代って基本賃金の1.25倍以上が確定してるのよ。当然、基本給が高ければ高いほど、残業代も高くなるわ。」
「金額でいうとどれくらいなんでしょうか?」
「計算してみるとわかるけど、月給20万円の人なら、時給が1,250円。これの1.25倍だとしたら1,563円よ。」
「たしかにそう言われると高いですね。」
「ええ。実際は月給20万円よりももっと高いはずだから、残業1時間するだけで2,000円とか3,000円とかもらえる人だってざらにいるわ。」
「そう考えると、下手な副業とかよりも良さそうです。」
「そうね。」

「でもそれって企業側からすると負担になりますよね。残業しないで定時内でしっかり働けっていう風にはならないんですか?」
「なるけど、管理が難しいのよ。必要な残業かそうでない残業かを会社が見定めるなんて不可能に近いわ。特に在宅勤務が主流になると、誰が何の仕事をしてるのか把握しきれないしね。」
「たしかに、細かく把握しよとしすぎるとマイクロマネジメントだとかなんだって騒がれて、逆に面倒なことになりそうですね。」
「そうそう。だからざっくりと、月間30時間を超えないようにしてくださいとか、そんな感じのルールにしてる。で、従業員の方も、その辺を目標に毎月きっちり30時間くらい残業するっていう感じね。」

「なんていうか、思っていた以上に勤怠管理ってルーズなんですね。業務時間中でもサボり放題なんだなと思いました。」
「ええ。会社員が昼間にSNSに投稿してるところとかってよく見ると思うけど、あれが普通なのよ。むしろ平日の昼間に全く遊べない企業って
どれだけ忙しいのよと思ってしまうわね。」
「学生がやってるバイトだと仕事中にスマートフォンをいじるのって難しいものが多いと思いますけど、オフィスワークだとそうじゃないですもんね。」
「ええ。あとはトイレに長時間ひきこもってサボってたりする人もいるわ。たまにゲームの音やイビキが聞こえてきたりするのよね。」
「さすがにそれはやりすぎな気がしますが……。」

「フフ、そうね。でもまぁ、ルールを厳格に定めすぎない方がお互いに都合がいいこともあるのよね。一部のブルーカラーや非正規社員などの都合で厳格化が進んでるのはあまりいいことだとは言い切れないと思うわ。」
「そういうものですかね。」
「ええ。例えば昼休みだって、たまたま食べに行ったラーメン屋が並んでたら1時間以上かかってしまうこともある。逆に、仕事が忙しい日はコンビニパンをかじりながら働き続けることもある。そういうのを許さずに毎日1時間きっちりにしましょうとしたり、いちいち事前または事後の申請が必要だっていう風にすると、息苦しいのよ。厳密に今日は70分だったから明日は50分にしようとかまで計算してないけれど、トータルとしてなんとなくバランスが取れてればまぁいいかというくらいが、管理する側の企業も、管理される側の従業員も楽だわ。」
「それはそうですね。大学の授業とかって15分以上遅れたら出席点がでないとか厳格に決まってて、理不尽だと思う時があります。先生は勝手に講義を引き延ばしたり補講をしたりするのに。」
「それはなんか違う気もするけど……。」
「あれ?」

「まぁいいわ。結局のところ、会社側がある程度サボりを許容することが、従業員にある程度ブラックを許容してもらうことになるのよ。普段自分のペースでのんびり働けている企業に対して、たまたま緊急のトラブル対応で徹夜する日があったとしても、本気で文句を言う従業員は少ないでしょう?」
「たしかにそれはそうだと思います。仕事をやってる以上は予期せぬ事態っていうのはどうしても発生するから、その辺をあえて曖昧にしておいた方がいいっていう暗黙の了解みたいなものがあるんでしょうね。」
「ええ。原則としては昼休みは1日1時間と決まっていて、ある程度良識と自己管理能力を持ってる従業員ばかりだと信用してるからこそ、ルーズな運用が成り立ってるっていうだけなのよ。」
「その辺は企業側と従業員側の信頼の問題ですよね。究極的には時間通り働かせることではなくて、成果を上げて会社の収益に貢献して欲しいってのが目標なわけですし。」

「ええ。でも、今話したような事情があるとはいえ、特に大企業には法律的、社会的にいろいろと厳しい目が向けられているから、表向きには適当に管理していますとは言えないでしょう。」
「なるほど。だから説明会などでもお茶を濁した感じになったり、白々しい感じになったりしがちなんですね。」
「そうそう。学生がイメージするよりもずっと、社会人ってルーズに働いてるのよ。面接に遅刻してくる面接官だってわりといるでしょう?」
「たしかに……。」
「だから、残業時間等についてはOB訪問とかで聞くしかないわ。それができない場合の目安としては、月間平均20時間以内の大企業であれば、今日話したようなルーズな運用がされてるところが多いと思っていいわね。」
「わかりました。残業ゼロでなくても、20時間くらいであれば何とかなると考えるようにしてみます。」
「ええ、がんばってね。」
「ありがとうございました。」

そこまで話をしたところで、会話を終えた。今日は、社会人の勤怠管理について話を聞くことができた。たしかに、勤務時間中ほぼ常に気をはっている必要がある飲食店のアルバイト等と違い、オフィスワークの仕事は、日や時間帯によって業務量に大きな差があるだろう。そうすると、一律のルールで管理することは非合理的だ。そのあたりに関する本音と建て前をしっかりと認識し、下手に追求しすぎるとヤブヘビになると理解して立ち振る舞うことが重要だろう。そんなことを思いながら、一日を終えるのだった。

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