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Knight and Mist第九章-7人生はやりたくないことでできている
「魔導ではない魔術は初めて見たわ。オーセンティックとかいう無礼者、跡形もなくってよ」
アンディが関心したように床の焦げを踏みにじりながら言った。イーディスとレティシアは苦笑い。
「今後はあなたたちのような攻撃にも動じない結界を作らなくてはね。三階分登っての奇襲とは、また無茶な作戦だわ。お里が知れるとはこのこと」
「まあ、うまくいったんならいいじゃねーか」
適当に答えるイーディス。一方レティシアは真剣な表情で、
「そうです! あのオーセンティックとかいう者、ただならぬ気配を漂わせていました……」
その横手で。
混乱に乗じて廊下に出たスコッティとハルカはというとーー
ーーオーセンティックと睨み合いを続けていた。
「よくもやってくれたじゃあないか。物理攻撃は基本的に無効だが、避けてしまった。昔のサガ……か。人間としての生存本能とは存外強く残り続けるものだ」
薄笑いのオーセンティック。
「こいつ、何者なんだーー」
さすがのスコッティも事態を察しているようだ。
「懇切丁寧に説明してあげたいけどね、なにせ、キミたち騒ぎを起こしただろう。私は退散するほかないな」
「そういうことよ」
剣をつきつけながら、ハルカが言った。
「この剣は空間を斬るんでしょう。今からあなたのいるところを削りとってもいい。それは痛いと思うわよ。だから避けたんでしょ。なんなら避けたいんでしょ」
「なっ……」
一瞬言葉に詰まるオーセンティック。
「この剣の"設定"を作ったあなたなら知っているんでしょう。私はただの衝撃波だと思ってたし、あてずっぽうでやってみただけなのだけど。よもやとはいえ、その解釈で当たってたみたいで何よりだわ」
「ククク、何を言っているのかな。いい加減なものだな。私が人間の頃のクセでうっかり避けた、そうは思わんのかね?」
「魔族は自分の力を卑下できない、って設定があるの。あなたがどこまで"魔族"なのか知らないけど、たかだか人間の小娘ひとりの剣戟を避けるためにダッシュしたなんて、それこそ命に関わる自体よ。"魔族"にとっては、ね」
「偉そうなのか悲しい事実なのか分からないな……」
スコッティが言う。
「ククク。私はキミの言う"設定"が嘘か本当か分からないからな。これはうまくやられたものだ。ここは大人しく退散してやろう。だが急げよ。もう彼も限界だぞ」
そう言っている間に、騒ぎを聞きつけた衛兵たちが集まってくる。
「特別顧問さまーー! なんの騒ぎでしょうか?」
「さあね」
オーセンティックが言うなり、彼の首がゴロン、と落ちる。
「な、な、な、なんだ!?」
「キミたちは間違った場所に間違ったタイミングで居合わせたーー不幸だっただけだ。嘆くなよ」
さらにゴロリ、ゴロリと落ちる衛兵たちの首。
「クククククク……」
そして笑顔を残し、オーセンティックはすうっと薄くなって消えたのだった。
「今のはーー」
尋ねるスコッティを制し、
「今はあと。スコッティはこの人の服着て。変なのに邪魔されたけど、作戦は続行よ」
「あ、ああ」
オーセンティックの登場は予想外であったが、揉め事が起きて派手にバーンといくのは予定どおりだ。
死者を出すつもりはなかったが、とにかくスコッティを衛兵に変身させねばならない。
煙がおさまらないうちに上階へあがらねば。
(待っててね、セシルーー!!)
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