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Knight and Mist三章-3 宴の前のひととき

「では、みなさん移動しましょう」

ブラムは何か用事を言いつけられ、こちらを睨みながら去っていった。

そしてハルカたちはラメール先導のもと、館の中庭を横切り、客間へと案内された。

ラメールの絹の裾が床を擦るさやさやという音が響く。それに伴い樹木が風に揺れて音を立てた。

不思議な感覚だった。

そこは戦いを目的とした砦や城とは違う。

華美というほどではないが、ハルカが今まで見たこともないほど美しい宮殿だった。

各々にあてがわれた部屋はとても明るく、清潔で、そして素敵なベッドがあった。

ここまで板のようなベッドしか味わっていないハルカにはとても嬉しかった。

ハルカは一人部屋に入り、革靴を脱ぎ捨て、羽織ったマントも脱いでベッドに横になった。

すっかりクタクタだった。

うとうとしながら、ここまでのことを整理する。

まず最初は、戦場に落とされたんだっけ。

レティシアに連れられて逃げて、その砦でグリフォンを見てーーーー

(そういえばあのとき握っていたロングソード、どうしたんだろ)

それから砦を守る聖騎士リルさんに会って、エルフと話すこととなった。

そのためにスコッティとセシルを紹介されーーーー

そしてここが、ハルカが厨二のときに描いた世界に酷似していることに気づいた。

とはいえ、違うところも知らないところもたくさんある。

限りなく似ているが、ハルカがつくった世界、とは違うらしい。

ハルカの書いた話では、セシルはトリックスターで悪人でもあるが、今いるセシルはとても親切だ。

ハルカの書いた話では悪人でも、もしかしたらそれはすごく小さな小さな一部でしかなかったのかもしれない。

それは世界全体にいえることだった。

ハルカの知っていることはとても限られている。

世界を創ったのなら、全知全能ではないか。

ーー否。ハルカは全知全能などではなく、創世神ということでもない。

ただ一人の人間の女だ。今のところセシルをたよるほかない。

スコッティは良い奴だが、いざとなったときに敵になる可能性があった。

リルさんがハルカの味方ではなく、スコッティはリルさん側の人間だからである。

いい人でも完全に頼るわけにはいかない。

とはいえ、セシルだってハルカの作った設定そのままなら、何か目的があって近づいてきているだけかもしれない。

ハルカになんらかの利用価値があって、そばにいるだけなのかも。

(……結局のところ、セシルのことも信用していいのか分からないのね)

ともかく、それから砦で一夜を明かし、エルフの森を目指して出発した。今朝のことだ。

(予定よりもずっと早くエルフの森に着いた)

これまででまだ二日と経っていないことにハルカは驚いた。

そしてこのフワッフワの極上ベッドに横たわり、あと一週間ぐらい寝ていたいのにと心の底から思った。

これからちちうえとやらに断罪されるのだろう。

グレートマザーは何を言っていたのだろう?

(私の求めるものは与えられるが、破滅する?)

今ハルカに欲しいのは休息と説明だった。

(わたしが頼れるのはわたしだけ……)

そんなことを考えているうちに、こんこんと眠りについたのだった。

つづき 噂のあの人


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