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Knight and Mist第七章-3イスカゼーレの闇

ハルカが気づいた時には、手術台のようなものの上にのせられていた。

何本ものコードが地を這うようにして散乱している。

ふと、魔霧ミストの中で見た光景がよぎる。

心臓に杭を突き立てていた女ーー

今台にのせられて、手首と足首をベルトで固定されているのはハルカだ。

薄暗く、部屋の真ん中に放たれた光球が唯一の光源だった。

周囲は清掃が行き届いているようだが、物騒なものがたくさん置いてあった。

手動のドリルのようなもの、いろいろな大きさの斧、メスのような刃物が大小たくさん、もちろん金槌も木槌もたくさんある。他にはなんなのか分からない薬のボトルなどなど。秘密の実験場、といったふうだ。

ハルカはこれが何か思い当たった。

(アザナルが全ての魔導を使える、それを知られたら解剖されるかもしれないとアザナルの父は恐れて、アザナルの魔導を封じていた、って設定があったな……これがその解剖場所?)

何か薬品を使われたのか、視界がブレてよく見えない。台から動こうにもうまく力が入らなかった。

(わたし、死ぬのーーーー?)

すでに何度か死ぬような目にあってきたが、今回はそのなかでもかなり嫌な死に方の部類に入りそうだ。

カツカツと響く靴音がして、例の魔導師が入ってきた。アミュレットを首から下げている黒髪の男だ。

中肉中背で鷲鼻、特徴的な緑の目をしていた。

その人に次いで黒髪の男と女が入ってきた。助手、といったふうだ。

「二人とも見よ、今は力が弱まっているだろう。この力は意志に反応するらしい」

アミュレットの男が言った。

「どうします? 上は監禁して観察を命じておりますが」

刈り込みを入れた女の魔導師が何かを書き付けながら言った。

「上は分かっていない。これは脅威だ。何も生かしておく必要はない。ゾンビ化する方法もある。ネクロマンサーを呼べばそれで研究はできる」

「しかし所長が納得するでしょうか」

「この件については一任されている。それにわたしの理論を聞けば、ゾンビ状態にするのが最適だと所長も納得するはずだ」

ものすごく物騒な話をしている。

ぼうっとした頭で、とにかく闇雲に手足を動かすも、捕まったままで動けない。

(いったい、何をされるのーー?)

これから起こることに不安を覚えつつ、ぐらぐらと揺らめく視界と光、それに照らされる破壊を目的としたモノたち。

「あの男は拘束しましたがーー良いのですか、トゥム博士」

助手の男のほうが自信なさげに尋ねた。

「フン。あいつが叛乱分子なのは誰もが知るところ。王家やイスカゼーレに連なるものとて例外ではない。むしろ内々に処分してやるのだ。お褒めくださることだろう」

アミュレットの魔導師ーートゥム博士が言った。

(状況からして、おそらくセシルのことを言っているーーセシル、捕まったの?)

そんなはずはないだろう、とか、捕まったとしてもどうせフェイクなんだろうとかそんなことが頭をよぎる。

(やだな、少し傷ついてるのかな。もともと信用すべきかは賭けだったじゃない)

「内々に済ませるのなら、異端審問院に渡すべきではなかったのではーー」

男がトゥム博士に言い募る。

(異端審問院? 聞いたことない名前だな……)

昔の記憶を捻り出そうと、眉間に皺を寄せていると、

「ホラ、この娘に反応があるぞ。見てみろ。注意深くな」

トゥム博士がせせら笑うようにハルカを顎で指しして言った。

「あの男と情でも交わしたか。残念だが、あの男は生粋のはみ出しモノだ。誰とも群れぬ、誰の死も厭わぬ、自らのためにしか動かぬ裏切り者だよ。クックックッ」

「ーーーーーーない」

「ん? なんだ?」

「ーーそんなこと、ーーーーーーない」

ハルカの言葉にトゥム博士の表情が変わった。憐憫だ。

「可哀想に。まだ信じておるのか。だが誰のせいでお前は今ここにいるんだ?」

「……………」

(間違いなくあなたのせいでしょーー!!)

力尽き、言葉にならずとにかく睨みつける。

トゥム博士がまた笑った。

「すごい反応だ。だがこれ以上は危険だな。ーーおい、鎮静の薬品を」

女性が緑色の薬瓶を棚から取り出し、ハルカの上に振りかけた。

すうっと遠くなる意識。

だがハルカにも分かっている。ここで意識を失うわけにはいかない。次目覚めたらゾンビになってたなんて笑えない。

そうして足掻いていると、次第に視界が白くなりはじめたーーーー



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