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Knight and Mist第六章-4絶対的に変わらないもの
「おーい!!」
ぜえぜえと息を荒くして走ってきたのはなんとも奇妙な格好をした男である。
見た瞬間、イーディスの顔がひきつる。ハルカの顔もひきつる。
その男は中肉中背で長い茶髪。服装はヘッドバンドについたアンテナのような葉っぱ、裾がバサバサになっていてあちこちに葉っぱが縫い付けられている変なデザインのマント、腰には剣といったいでたち。
緑色の目をした人の良さそうな顔をした男で、歳の頃はアザナルと同じくらいで二十代半ばから後半ぐらいだ。
変な格好であることをのぞけば、その辺の農業やってるおっちゃんと間違えてスルーしてしまいそうな、そんな善良さを感じさせる男だった。
「ったく、オレ置いて飛んでくのはずるいぞアザナル……!」
「お、お前だれだ!」
一瞬ポカンとしていたイーディスがあわててそちらにも剣を向ける。
「オレはキアラ=ガーディ。喧嘩しにきたわけじゃないから、その剣しまってくれねーか?」
キアラという名のその男は両手を上げながら言った。
「キアッ……テメーが伝説の勇者の!? すげー変な服!」
イーディスがめんくらってその伝説の勇者を指して叫んだ。
「なんだと! 失礼な! これがコールリンの民族いしょ……フガフガ」
「あー、はいはい。変な服には変わらないからねー」
アザナルがキアラを羽交い締めにして口をふさぐ。
「てことはこの女も魔王を倒した伝説の勇者様御一行か!? たしか銅像でも見たことあった気がするけど……実物は強烈だな……」
イーディスが口をパクパクさせて二人を交互に見比べている。
ハルカは遠い目をしながら、
(このデザインを自分の目で見ることになるとは思わなかった……)
もちろんデザインは中学生のころの自分である。
ハルカは遠い目をして、できるかぎり他人のフリをしようとしたーーら、また鉄拳がとんできた。
「関係ありませんみたいな顔してんじゃないの! あんた、例の剣はどうしたのよ!?」
ハルカは少し二人から距離を置いて、キアラとアザナルを見た。
キアラはまずもって悪いことには加担しない。これはイスカゼーレのしごとというよりも、勇者としての仕事ーーというところか。
「剣のことを聞いてどうするの? それよりあの霧はなに? セシ……ゲフンゲフン」
セシルのことを言いかけて咳払いするハルカ。たぶん、彼のことは伏せたほうがいい気がする。
「……連れとはぐれて困ってるの」
アザナルは顎に手を当て考えるそぶりを見せた。
「魔霧(ミスト)ねーーあんた、アレの中をみたの? あんたも?」
「あんたじゃねえイーディスだ」
ブスッとして答えるイーディス。
なんだか不思議な気分だーーとハルカは感じた。
はじめ、戦場でイーディスに名を名乗れと言われても、ハルカに名乗る名はなかった。
それが今やイーディスのほうが「あんた」呼ばわりだ。
ーーそれも、ハルカの作った物語のヒロインからそう呼ばれているのである。
一周まわって自分が分からなくなる。
(細かいことは考えないどこう……)
眉間に皺を寄せ考えていると、ふとキアラと目が合う。彼は人懐こそうな笑みを浮かべた。
「まあま、アザナル。お嬢ちゃん二人を魔霧(ミスト)から保護できたんだ。上出来じゃねーか」
「相変わらずあんたは単純でいいわね」
「誰が嬢ちゃんだテメーぶっ殺すぞ」
アザナルの嫌味とイーディスの怒りの声が重なった。キアラは額から汗を垂らしつつ、両手を挙げて「すまん、すまんって」と言っている。
勇者と呼ぶにはとても普通の人である。
ハルカは、アザナルはともかくキアラは信頼してよいと判断した。
「あの、キアラさん。わたしーーどうも魔霧(ミスト)のなかで魔族に会ったようなんだけども」
「キアラでいいぞ」
言ったあと、キアラはうーんとうなった。
「やっぱこれ魔族がらみなわけ?」
キアラがアザナルに問う。アザナルはなんだか考え込んでいるようであった。
イーディスはハルカをチラッと見たあと、やはりキアラを信頼することにしたらしい。状況を簡単に説明した。
「ふーむ。とりあえず、近場の山小屋にでも行こうぜ。そろそろ日も暮れることだし」
キアラが言い、アザナルが賛同する。
「セシルならゴキブリみたいな生命力だからなんとかなるでしょ。もう一人の人、レティシアはあんましよく知らないけどーー」
アザナルはいったん言葉を切ってから、
「あなたたちが思っているよりここは遠い場所じゃないから。もともとあたしたちだって、そのレティシアって子の領主館にいたわけだしね。ひとまずその辺で休んで、明日領館に向かうのがいいんじゃない?」
概ね皆アザナルの意見に賛同のようである。
「ところで、さっきのイスカゼーレの人は何? なんでアザナルとキアラはここに?」
ハルカが問うと、アザナルは肩をすくめて、
「それは道すがら説明するわ。さ、とっとと歩く歩く!」
言ってズンズンと山道を歩き始めたので、ハルカは慌ててその背を追った。
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