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Knight and Mist第七章-4 がんじょうなへや

白い光がおさまると、目の前にはうず高く積まれた巨大な本の山が見えた。

本という本が巨大で、それが四方に積み上げられ、一つの空間となっていた。本の山に囲まれている状態だ。

天井には逆さまに階段があり、上下がどうなっているのか分からない空間で、そして本でいっぱいだった。

(ここはどこーー?)

意識を失い、夢を見ているのだろうか。

それとも緑の薬液をかけられたせいなのか。

あちこちを見渡していると、聞いたことのある声がした。

「そなたの内に獅子が見える」

声のほうを振り返るとーー

「グレートマザー!! 無事だったのですね!」

尖った耳、真っ白な肌、地面まで届きそうな白銀の艶やかな髪、色素のない瞳、美しい絹のドレス。

《白銀の海》ラメールがそこにいた。

ハルカは嬉しくなって、駆け寄ろうとした。

それをグレートマザーは首を横に振り制する。

「ここはどこでもない場所。私の意識は魔力の中に漂い、ここへ引き寄せられました。見なさい」

指し示されたほうを見ると、さっきまではなかったはずの場所に暗い洞窟のようなものが見えた。

その奥には光る二つの目。

「そなたの内に翼が見える。そなたの内に牙が見える。そなたの内に鉤爪が見える。あれはそなた自身の姿」

グレートマザーが光る目を指差して言った。

「あなたがソレ・・を解放するのか、あなたはまだ迷っているようですね。それで私を呼んだ……ですが人間の娘よ、その選択はあなたにしかできません」

ぐるるる……という低い猛獣の声がする。

ハルカは後ずさった。

「わたしが、この怪物を、解放するってこと?」

グレートマザーは憐みともつかぬ不思議な眼差しでハルカを見つめた。

「あなたには怪物に見えるのですね。聖獣と魔物は紙一重。聖獣とて人間に仇なすことは珍しくもなく。そなたを私のところに送り込んだものーーリリー・ホワイトはその判断をわたしに委ねたのでしょう」

「わたしの中に怪物が、いや、何かがいて、それがリルさんにはいいものなのか分からなかったのね?」

場合によっては殺さねばならない、とは聖騎士パラディンであるリルさんから最初に言われた言葉だ。

それはハルカが、身のうちに獣を飼っていたからーーだとグレートマザーは言う。

「もうあなたにはそれが何か分かっているでしょう。一度は手にしたもの」

「手にした?」

ぐるらるるるる……

再び、深い吐息のような、巨大な獣の唸り声が聞こえる。

「人の知は、文明はときに大切なものを隠す」

グレートマザーが本をどけ、杖を突き立てると、そこから様々な草木があふれてきた。

「狭い世界に囚われる」

壁になっていた本の山を崩す。

波がそこから押し寄せる。突然雨が降り始める。

「自分を取り戻せるのなら、そなたは内なる刃に切り裂かれることもなかろう」

今度は風がびゅうびゅうと吹き始めた。

本が一斉にバラバラとページがめくれ、紙片が飛び交う。その隙間に、グレートマザーの姿が見えなくなっていく。

「いいか、決断はそなた自身でくだすのだぞ」

その声を最後に強い光が見え、ハルカは目を瞑りーー


ーー暗闇に立っていた。

灯台を見上げて。

「きっとそれが答えなのだろう」

ただ、灯台を見上げていた。


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