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Knight and Mist六章-5悪夢は続くよどこまでも?

「ま、待ってくれー!!」

ヒイヒイ言いながらハルカは前方50メートルほどのところを歩くイーディスとキアラに声をかける。アザナルに至ってはもっと遠くにいる。

場所はどこともしれぬ森の中。大剣を背負い、いかにも騎士な格好をしている少女イーディス、勇者であるが格好が変な男キアラ、そしてスループレイナ王家の懐刀イスカゼーレ家のお姫様アザナル。

そのアザナルがもっとも山道に慣れているようであった。

みんな速い。道もないような山道を歩き慣れている。甲冑をつけているイーディスでさえめちゃくちゃ歩くのが速い。

足元には木の根が絡み合い、下生えは脛まである。ところどころ凍っていたり登ったり下ったり。ブーツのクッションはないも同然だし、靴底なんか最悪である。

(あゝ、スニーカーが恋しい……)

スニーカーどころかパンプスでもハルカのブーツよりマシなんじゃないかと考えながら、ハルカは針葉樹林のなかを3人の背中を追って歩いていた。

「みんな体力ありすぎでしょ……特にイーディス……」

さすがに戦士とあって皆体力がある。ハルカは急に不安をおぼえた。

(グリフォンの剣のひととか名乗っちゃって、こんな山道ひとつでへたれてちゃ戦士としておはなしにならないんじゃ……!? 猫に小判、豚に真珠……がっくり)

「クッソおっせーな! 速く歩けよ! バカタレが!」

イーディスが怒鳴る。キアラはどうやらあれで歩くスピードをゆるめてくれているらしい。立ち止まってハルカを待っている。

「もーう、まだー!?」

じれったそうに叫んだのはアザナルだ。

「アザナル、先に行って山小屋整備しとけよ!」

キアラが言うと、アザナルが「えー」と不服そうな声を上げた。

ハルカは重い足を引きずりつつ、イライラしながら待っているイーディスのもとへとたどりつく。ハルカは疲れ切っており、一仕事だ。

そもそも大怪我から回復したばかりである。

体力がないのも当然ーーと思いたいものの、どうしても考えてしまう。

同じく大怪我をしていたというイーディスはピンピンしていて、連戦にも耐えうる力を持っている。

所詮、どんなにすごい剣を手にしたところで、それで戦士になるわけではないのだ。

(やっぱりわたしって何者でもないのだな……)

基礎体力が違いすぎる。なんかの間違いで登山靴とか入手できたらもっとハキハキ歩ける気がするのだが。

ここにはない文明のありがたみをかみしめつつ、なんとか残りの行程も歩き続ける。ハルカにできることといえば、諦めないことだけだ。

ーーとはいえ。

「おい、ちょっと。おい、アザナル見てくれ。まずくないか?」

山小屋にたどり着き、ハルカがボーッとしているとキアラが心配そうに顔を覗き込んできた。

山小屋の埃を払って寝床の準備に取りかかっていたアザナルがハルカのほうを振り返る。

「なによ?」

「アザナル来いって。この子顔色が悪いぞ。熱出てるんじゃないか?」

「悪いんだけどーー」

アザナルがイーディスのほうを向き、イーディスが

「ああん? ここ掃除しときゃいいんだろ。魔導士様があいつーーハルカのこと見てやってくれ。俺にはそういうのサッパリだからな」

イーディスもなんだかんだ心配してくれているようである。アザナルがハルカのもとに来て、手を引いて入口から暖炉の前の椅子に座らせた。

「あっつ!!!! なに、すごい熱じゃない!」

「そーなの……?」

ハルカはぼんやりしたまま聞き返す。どうやら熱が出てしまっているようだ。なんだかだるい気もする。

「とにかく横になんなさい」

硬い椅子に横にならされ、そこにアザナルが自分のマントをかけてくれた。少し気分が楽になる。

「瘴気にあてられたか?」

キアラがアザナルに低い声で尋ねているのが聞こえた。アザナルは考えるように腕を組んだ。


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