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Knight &Mist 一章-1 戦場1

 次の瞬間、ひどい全身の痛みがした。


 遥香は、とうとうやってしまったかと思った。
 焼けるように熱かった。


 ーーこれが飛び降りたときの痛みなのか。


 遥香はあたりを見回した。


 そのときだ。
 爆音がした。


 ツー……


 爆風で鼓膜がやられたらしい。瞬間的に何も聞こえなくなった。


 耳鳴りを我慢しながらあたりを見渡す。


 周囲はカオスだった。


 逃げ惑う人。そして炎。そしておびただしい血。


 そのなかにかすかに見える剣の煌めき。


 遥香は目を細めた。


(ここはどこ……?)


「戦場だ」


  思わぬところから返答があり、遥香はびっくりしてそちらを振り向いた。


 甲冑姿の少女がそこにいた。


 不敵に嗤い、遥香のことを見下ろしている。


「おう、お仲間か? 女だてらに剣を持つたぁ、なかなかに上等じゃねえか。お互いにご苦労なことだ」


  ふと、自分の掌の下に硬い感触があることに気づく。見れば、ロングソードのようだった。


「我が名は"紅の炎"イーディス! 腕に覚えがある奴ぁまとめて相手してやるぜ!」


  少女が吠え、重たそうな剣を振り回した。


 遥香の剣よりもずっと立派で、宝石などの装飾が施されている。


 遥香の方といえば、ぼろきれのようになって元の形が分からない黒焦げの服、そして細身のロングソード。


 イーディスは遥香にその大きな剣を突きつけて言った。


「名を名乗れ」


 その声はトーンが低く、自己紹介をしろ、という意味ではないことは明らかだった。


「俺の前に立つ覚悟があるのなら、名を名乗れ!」


その気迫に遥香はわずかにたじろいだ。


イーディスは小さく舌打ちをした。後ろでまた何かが爆発する音がした。


「なんだ、戦場で生きる気概もないただの小鼠か。楽しめるかと思ったのにな。それじゃあ、死にな!」


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