Knight and Mist第九章-2 スループレイナ王国の歴史 後編
「で、なんで今になってもまだ異端審問院が権力持ってるわけ? ガイア派は潰しちまったんだろ?」
イーディスの問いに、アザナルが眉間をもんだ。
「また魔王が復活して、それを止めたのがあたしたちなのは知ってるでしょ」
一同うなずく。
「そのときに暗躍してた組織があったの。秘密結社テネブラエ」
アザナルが言い、モンドがつづきを話す。
「一度目の魔王は自然発生的なもの、政治の混乱による人心の乱れが作り出したものだが、キアラくんのときは、人為的に魔王が……そうだな、"召喚"されたんだ。魔族が関わってたとか関わってないとか、いろいろ噂があるが、暗黒秘密結社の全容はまだ掴めていない」
「それで半ば強引に異端審問院は復活させられたわけ。目的は、秘密結社を根絶やしにすること。拷問もなんでもありのところよ。でも女王様にもおさえられないの。二度も魔王が出たから。それも短期間で。女王様が不吉だからだと言う人もいるのよ。だから王家も手出しできないの」
「つまりは、人々の不安が、その悲劇を繰り返させているわけですねーー」
憂いを帯びた声がカーテンの後ろから聞こえる。レティシアだ。
「まあ、そんなところね。ーーで、セシル救出の話だけど」
アザナルが言う。
「この情報はこの部屋にとどめて欲しいのだけど」
ギロッとあたりをみまわす。部屋の全員が慎重に頷く。
「具合の悪いことに、あいつテネブラエの一員だったのよ」
「「「えっ」」」
驚きの声をあげたのはモンド家の三人。
ハルカはすでに知っていたのですまし顔。イーディスは何それ? という顔だし、スコッティは思案げな顔、レティシアは顔が見えない。
「私の記憶ーーえっと、情報が正しければ、セシルは彼の知りうるかぎりのテネブラエの情報を出して恩赦がくだってるはずよね」
ハルカが言うと、アザナルがふーん、と品定めするような目でハルカを見た。
「そう、秘密裏にね。極秘情報。だから誰も知っていてはいけない」
「なんでボクたちが知らなくてハルカちゃんが知ってるの!」
「そうよ! なんなのこの娘!」
モンド家が口々に文句を言う。
「皆さま」
清浄な声が響く。
「このかたは予言に神から与えられたとするお方。エルフの支持も得ています。ご無礼なきように」
カーテン越しにレティシアが言う。スコッティと顔を合わせるのが恥ずかしいからカーテンの裏にいるのだが、なんだか高貴な人の予言のように聞こえる。不思議。
それはともかく、スループレイナでのハルカの身はレティシアやその姉のパラディン、そしてエルフにより保証されている、ということになる。
それはとても心強いことなのだろう。
だがーーーー
(もしかしてめちゃくちゃ責任重大なのでは……?)
何者かになりたい一心でいたが、ことここにいたり、ようやく気づくハルカなのであった。
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