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Knight and Mist第七章-7 鷲獅子心の剣
物々しい武器が床に散らばった実験室にハルカはおりたった。
自分のいた台は真っ黒になっている。ベルトは千切れ、それを光の球が照らしている。
空間を切り裂き、ハルカが出てきたのはちょうど薬棚のあたりだ。
自分の繋がれていた場所をしげしげ眺めたあと部屋をみまわすと、すでに魔導師三人が事切れているようだった。
音もなく静かだ。
トゥム博士は全身が真っ黒になり、首から先がなかった。
ハルカは慎重に遺体のそばに寄り、その遺体からルビーのような宝石のついたアミュレットを取り上げ、首から下げた。
(設定の通りなら、これは珠玉。防御力を上げてくれるはず)
それからやはり真っ黒になってしまった男性助手の倒れる真っ黒な通路を見た。
そこに魔族の姿はなく、ネームレス・ワンの姿もない。
ハルカは手にある《鷲獅子心の剣》を掲げ、漂う光球を柄にうつした。
(魔導の光は何かに吸い付く性質があるーー当たりね)
それは剣の柄にくっつくようしてふよふよと手元へ移動してきた。
光の球を掲げるように、剣を掲げて通路を進んでいく。
(セシルとイーディス、どちらを探そう? そもそもここはどこなの?)
そこでふと違和感に気づいた。
ハルカはおそらく空間を切り裂いて戻ってきた。一度はネームレス・ワンに喰われかけながら、どうにか戻ってこられた。
自分の意思で空間が歪むというのならば、《この剣》が手元にやってきたのも、そういった空間への干渉力によるものだろう。
魔霧から出てきたとき、アザナルたちは空間の歪みがどうこう言っていた。
つまり、先ほども空間の歪みが検知されてもおかしくないはずなのだ。
そうでなくても魔族も現れているし。
今頃イスカゼーレの人間に取り囲まれてもおかしくないはずだ。
「静かすぎる……」
廊下を歩く自分の靴音だけが固く響く。
トンネルのようで、奥に丸く薄い明かりが見える。
ハルカは一度立ち止まり、振り返った。
そこにはやはり丸く切り取られたような薄い明かり。
ハルカの寝かせられていた手術代のようなモノ、そして緑や紫にぼうっと光る蛍光色の何か。おそらく棚に並べられた薬瓶だろう。
もう一度前を向く。そして振り返る。
「ループしている……」
空間を繋ぐ結界の一種だろう。ここは隠された場所のはずだ。普通の人は気づくことすらできない場所。
(そこにいるあの三人も、居るはずのない人たちなのだろう……)
ともあれ、脱出しなければならない。こんなところで餓死なんて嫌だ。
手始めにハルカは部屋の棚や壁をくまなく調べることにした。
もしかしたら秘密の出入り口があるのかもしれない。
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